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もののけだま  作者: 山澤幸花
2/15

座敷童と桜女

土曜日、光多は上着に袖を通し出かける準備をしていた。どこまで出来るかわからないが物怪集めを手伝うつもりだった。元々動物が好きだった光多は物怪に興味がわいたし、自分にしかできないならやるしかないだろうと考えた。肩掛け鞄を手にし一階へ降りるとリビングでニュースを見ていた母に声をかける。


「母さん、友達がリキ見たいっていうから出かけてくるよ」


「あら、そうなの?じゃお小遣い。母さん昼出勤で帰り遅くなるから」


「わかった。気をつけてね」


「光多もね。浮かれちゃダメよ」


受け取った五千円札を財布に仕舞い鞄へ入れた。壁に掛けてあったリードをリキの首輪につける。テレビの時計は九時半だった。


「じゃあ行ってきます」


光多が庭へ行くと河童が待っていた。河童が庭に生えてたシダの葉を頭に乗せると、小さな体が大きくなり人間のように徐々に変化する。ショートヘアにキャップをかぶりTシャツと短いデニムにスニーカーをはいたボーイッシュな女性へと。くるんと一回転するとふにゃあと笑う。


「僕はこういうこともできるの」


「へぇー人間じゃん。女子高生みたい」


「えっへんなの!カーコって呼んでほしいの!」


胸を張って威張る河童にリキはため息をついた。光多がリードを持ちカーコは光多の隣を歩く。どこに物怪がいるかわからないし、物怪がどんなものかもわからない。街路樹や住宅と住宅の境目なども探すが物怪らしいものは見当たらない。住宅街を抜けアーケード街についたところで光多は訊ねてみた。


「物怪ってどんなとこにいるんだ?」


「いろんなとこなの。例えば一つの物を百年くらい使うと物怪になるの。人間の思いが物に移ったり、百年使わなくても思いが込められると物怪になるの」


『本来なら数は計り知れないが最近では物怪になる前に捨てられるからな…』


リキの言葉にカーコは寂しそうな顔をする。すぐに笑顔を見せ光多に物怪の説明を続ける。



「人間も物怪になるの。幽霊が長い間この世をさまよい続けたら物怪になっちゃうの。ろくろ首がそうなの。人間は死んでも悪い心のままだと物怪になるときに体が奇怪になっちゃうの」


「へぇそうなんだ。でも不思議だよな。物怪って伝説とか親が子供に危険を知らせる作り話だと思ってた」


『そういうことに利用されたりもするんだがな。物怪は実際にいるのだ。お前もこれから色々見かけるだろう』


光多は隣にカーコがいてリキが喋ってる時点で信用するしかないと思っていた。程なくアーケード街を歩いたところでカーコが光多の肩をたたく。


「あれは幽霊なの?でもちょっと違うの。多分物怪なの」


カーコが指さしたのはある飲食店の前。赤い着物を着た少女が食品サンプルをじっと見ていた。リキが鼻を鳴らす。


『座敷童だな…なぜこんなところに』


「座敷童って物怪だよね?声かけてみる?」


座敷童の後ろに立ってみるが気づかないようだ。座敷童が眺めていたのは果物やアイスが乗ったパフェ。食べたかったのだろうか。ジッとカーコが見つめる。

「美味しそうなパフェなの」


「まだ開店してないしどっかで休んでから来る?」


座敷童はパフェを見つめていたが寂しそうな顔をして去ってしまった。その様子にリキは怪訝な顔をする。


『……こんなところにいるはずないんだが……』


「あ、そうだ。カーコあの子追いかけてくれる?俺ちょっと用事あるから」


「わかったの!公園にいるの!」


光多はリキとどこかへ行ってしまい、カーコは座敷童を追いかける。座敷童はとぼとぼと歩き続けた。アーケード街の十字路を左へ抜けて河川敷を歩く。カーコは隣に立った。


「ねぇ?どこに行くの?」


『え?私?』


座敷童は驚いたようにカーコを見上げた。カーコはふにゃと笑う。


「そうなの。河童のカーコなの。君は座敷童なの?」


『うん』


「じゃあ仲間なの!握手握手なの」


カーコに手を差し出されおずおずと握り返す座敷童。カーコの笑顔につられて座敷童も笑う。


「えへへ、もうちょっとで僕の友達もくるの。だから公園で待つの。たくさんお話したいの」


『わかった。私も話したい』


座敷童をカーコは抱きしめる。ちょっとだけ苦しそうな座敷童だが笑っていた。





運動公園のベンチに腰掛けて2人は話をする。休日ということもあってか、あたりにはカップルやジョギングをしてる人、犬の散歩をしてる人など様々な人がいた。座敷童がカーコの話に驚いたり一緒に踊ってみたり楽しそうだ。光多達はそれを眺めていた。


「何踊ってんだか……」


『早くしないとそれ、落ちるぞ』


光多はアイスや果物が乗ったクレープを持っている。


「カーコお待たせ」


「待ったの。それどうしたの?」


「座敷童がパフェ見てたから変わりに。はい」


果物が乗ったクレープを手渡そうとするが座敷童は嬉しそうな困ったような顔をする。


『……ありがとう。でも私食べられないから』


「どうして?」


『やはり力が弱まってるのだな。座敷童は本来は屋内でしか力を発揮できない。外へ出れば力を失いはじめる』


リキの言葉に力無く頷く。ぽつりと話し始めた。


『私、民家にいたの。小さな小さな民家。そこが大好きでずっといたんだけど……でも…火事で……燃えちゃって……居場所無くなって……おじいちゃんも……入院しちゃった……おじいちゃん……』


涙混じりに話す座敷童の頭をカーコがそっとなでる。


『私…っ…おじいちゃんのお見舞いに行ったん…だけどっおじいちゃんが……永くないって…っ…なんとかしたかったけどできなくて……』


涙が止まらなくなってしまった座敷童をカーコは優しく抱き締めた。座敷童の話に光多は伝えてみる。


「じゃあ俺の家にくる?カーコもリキもいるし」


『ダメ……それはダメだから……私が幸せにする人間は……私達座敷童が選ぶから……だから……』


『誰でもいい、どこでもいいと言うわけではないのだな』


そのおじいちゃんでなければダメらしい。座敷童がボロボロと涙を流す。なんとか出来ないものかと考えて思いついたことを言ってみる。


「そうだ、物怪珠!!ねぇ、物怪珠は何かないの?」


『確かに。物怪珠なら力を蓄えることは出来ないが力を抑えることはできる。このままでは座敷童が消滅してしまう』


光多は安心したように笑った。


「人を幸せにしてばかりで君が幸せになれないのは悲しいしね。居場所が見つかるまで、おじいちゃんが元気になるまで俺達がついてるから」


座敷童は驚いた顔をしたが光多に手を伸ばす。そして泣いてばかりの座敷童が笑顔を見せた。


『ありがとう、お兄ちゃん』


光多は差し出された小さな手を握る。座敷童は光と共に小さなビー玉ほどの珠になった。それを手にしてみると暖かく光り輝いていた。


『試しに力を借りてみろ。力を借りると念じるだけでいい。あれなんかちょうどいいかもしれん』


リキの言う方からカップルの喧嘩の声が聞こえてきた。女性は甲高い声で男性に詰め寄る。バッグで男性の胸を叩く。


「何よ!!あなたいつも嘘ばっかり。信用できないのよ」


「だから謝ってるだろ!なんでお前はいつもそうなんだよ自己中すぎるぞ」


「それはこっちのセリフよ!!もう嫌!!」


女性が泣き出し男性はイラついている。男性が女性の頬を叩いた。睨みつける女性。これはまずいと光多は座敷童の珠に念じてみた。二つの小さな光が二人の元へ飛びゆらゆらと体の中へ入った。すると険悪だった二人に変化が。男性が女性の肩を掴む。


「だから俺が愛してるのはお前だけなんだって。信じてくれよ」


「それでも不安なの…!!私はあなたみたいになれない。嫉妬深い嫌な女だから……」


「何言ってるんだよ。俺には充分いい女だよ。俺はお前がいいんだ。だからもう泣くなよ。叩いて悪かったな」


泣いていた女性は小さく頷くと男性の背中に手を回した。男性は女性の頭や頬を撫で抱き締める。その様子に光多は胸をなで下ろし座敷童の珠を見つめた。


「これが座敷童の力?」


「人間の悪い心をちょっとだけ上向かせるみたいなの。幸せになるのは本人の力なの。座敷童はその手伝いをするだけなの」


『最初にしてはいい仲間を手に入れたな光多』


「そうだね。そんな座敷童の居場所探さなきゃね」


座敷童の物怪珠を空へ掲げてみる。優しく暖かい座敷童の珠は日差しを浴びてキラキラ輝いていた。


後日、座敷童とカーコを連れておじいさんのお見舞いへ行く。病院なのでリキは留守番してもらった。おじいさんがいる病院は大きくて庭も広く、大きな桜の木もあり散歩にもちょうど良さそうだ。受付で病室の番号を訪ね病室へ向かう。


「志布志重雄…ってどこかで……あ!ファミレスチェーン店の会長さんじゃないか」


「ふわー凄いの」


『私、大好きだったの……優しくて暖かくて』


カーコ達と病室へ入るとちょうど点滴が終わった所だった。志布志さんは一度光多達を見る。光多達は頭を下げ志布志さんの机にお見舞いの品を置いた。


「志布志さん、こんにちは」


「私に用かね?君達は知らないが……」


「おじいさんに会いたいって女の子がいるの」


その言葉に志布志さんは驚いた顔をするが目を細めて笑った。


「そうか、八重子かな。すまないことをした……居場所がなくて困っているだろう」


『!!』


座敷童が志布志さんの手を握る。志布志さんには見えていないようだ。


「私は八重子のおかげで此処までこれた。こんな私に力を貸してくれた。支えてくれた……全て八重子のおかげだ」


『違う、違うの!!私は手助けしかしてない、重雄さんが頑張ったから!!でなきゃ重雄さん……会社続かないよ……』


「志布志さんが頑張ったから会社は続いてる。彼女は手助けしただけだと言ってます」


志布志さんの目に涙が浮かんでいた。志布志さんはナースコールを押す。


「ありがとう八重子……また甘いもの一緒に食べられたらいいな……さて、君達にも感謝しなくてはな。ありがとう」


座敷童はもう一度珠へ姿を変えた。そして2人は病室を後にする。外へ出るとカーコは笑っていた。


「八重子ちゃんの言うとおりなの。優しくて暖かいおじいさんなの」


「ああ、そうだね。ああいう人だから座敷童、八重子も好きになったんだろう」


病院の庭にある桜の木を見てみる。風に花びらが舞う。その木の根元に1人の女性が立っていた。白、いや、薄い桃色の着物を着た女性。桜の根元には死体が埋まっていると言うが。光多はカーコの肩を叩く。


「カーコ、あれ」


「ん?……わからないの。でも行ってみるの」


2人は女性の元へ行く。流れるような黒髪と薄桃色の着物が美しかった。彼女は光多達を見ると微笑んだ。


『あら、可愛い坊や。私に用でも?』


「率直に聞きます。あなたは物怪ですか?」


『ええそうですわ。桜の女と書いておうめ。宜しくお願いいたしますわ』


怖いほどの美しい笑顔。光多の背筋が凍った。この女性を仲間にしていいのだろうか?しかしカーコは気にせずふにゃあと笑う。


「河童のカーコなの。握手握手!!」


『河童は人懐っこいって本当ですのね』


二人が握手を交わし微笑む桜女。ここで引いたら次はいつ物怪に出会えるかわからない。光多は覚悟を決めて拳を握った。


「桜女さん、俺達物怪を集めてるんです」


『あらそうでしたの?』


「そうなの。だから僕達に力を貸してほしいの」


『うふふ、私は人を探していますの。会えるなら力を貸してもいいですわ』


意外にもすんなりOKを出される。カーコと顔を見合わせて喜ぶ光多。クスクスと笑っていた桜女は珠となり光多はそれを拾い上げてみる。やはり微かに暖かくて光っている。座敷童もそうだったが、綺麗な珠だと改めて思った。光多は小袋にしまった。


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