第二部 下降する現在 第一章 本当の所
No.49
深夜二時を回っている。真っ直ぐな国道を、白い車がスピードを出して走っている。前には大型のトラックが走っている。
白い車の運転席に、二十代後半の男性が乗っている。彼はタバコを吸いながら運転をしている。時々、窓から灰を落とす。
車内に鳴っていたCDを止め、ラジオを付けた。
ギターの音が鳴っている。
ラジオのチャンネルを替える。幾つか替えていたが、また、元に戻した。
雨が降っている。朝からずっと降っていた。雨が入ってくる。タバコを消し、窓を閉めた。袖で、濡れた所を拭いた。
外は道路に沿って、延々と、線路が真っ直ぐに敷いてある。途中で幾つかの駅が在った。まだ、先にも在る。この時間は、電車は走っていない。
前を走っていたトラックは、スピードを出し、更に前に進んでいた。後ろで走っている、乗用車がこちらに近づいて来る。彼はアクセルを踏む。メーターが動く。
ギターの音が鳴っている。歌を歌っている。
フロントガラスに、雨が当たっている。フロントガラスに付いた雨は、上に上って行き、何処かに消えて行く。音を立てて、次々に、雨がぶつかって来る。
ワイパーの速度を少し速くする。左右にワイパーは動き、フロントガラスを音を立てて、拭いている。奇妙な動き、一定の同じ動きを繰り返している。
遠くで、信号が赤に変わった。トラックは、それを越えて行った。彼の車は、スピードを徐々に落とし、信号の前で止まった。後方の車は、彼の車の隣に止まる。
英語の歌を歌っている。同じフレーズを繰り返している。
彼の左下の、収納ケースには、タバコとライター、缶コーヒーが置いてある。彼は左手を伸ばし、セブンスターの箱を取った。箱は少し潰れている。
数本タバコが残っている、箱の中から、一本を取り出し、口に咥える。タバコは、潰れて楕円形に成っている。右手で、スイッチを押し、運転席の窓を開ける。
窓から、風と雨が入ってくる。箱をケースに置き、ライターを取る。左手で、タバコを覆い、ライターを点火する。風で、火が消える。左手の位置を変え、二回、三回と点ける。
タバコに火が点いた。彼は煙を吸い込む。ライターをケースに置く。しばらくの間、吸い込んで、吐いた。窓から灰を落とす。雨が、手とタバコに当たる。
ギターの音が鳴っている。
信号機の赤い光を見る。運転席の、メーター類を見る。前方に在る、ガソリンスタンドの明かりを見る。灰皿を開ける。灰皿の奥のライトが緑色に光る。皆一様に光っている。
左手で、缶コーヒーを取る。右手首と、タバコは窓から出ている。コーヒーを喉の奥に流す。また缶を元に戻す。濡れたタバコをまた少し吸い、灰皿で消す。
窓を閉め、袖で、窓際を拭く。フロントガラスが少し曇ってきた。彼は、エアコンの機能を代える。音が変わる。助手席のシートの上に置いてある携帯を手に取る。
携帯を開く。特に連絡は無い。携帯を、バッグの中に入れる。灰色のトートバッグだ。少し変色して、傷んでいる。底が破けて、糸が飛び出している。
バッグの中には、タバコと財布、印鑑、ポケットティッシュ、黒いペン、小さなノートが入っている。ノートには文字が書いてある。無意識と言っても深いものは無い。
オジー・オズボーン、先週ご紹介した、
信号が青に変わる。二台の車は、走り出した。雨が降って、車は濡れていた。