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第一部 上昇する空想  第四章 隙間のある意識

No.47

 三つの形は中央に集まり、相談をしている。人間は一人、中央の機械を調べている。


三角錐 (上下に伸縮しながら)こういう時は、黙って過ぎるのを待てばいい。そのうち、落ち着くさ。

立方体 三の兄さん、それは楽観的過ぎますよ。何か原因があるはずです。皆で、それを見つけて、きちんと治しましょう。母さんが壊れていく事は、僕には耐えられない。

球体 弟たちよ、本当にそうだろうか? 私は、あの兄(ひょっとしたら違うかもしれない)が、何かを、してはいけない何かを、してしまったのではないかと、考えているのだが、どうだろうか?

三角錐 違いないな。あいつにはよく言って聞かせなきゃ駄目だ。何でも自分で、解決できると思っているから、間違っている事に気づいていない。

立方体 それは、ありえますね。さっきからうろうろ、何をしているのだろう?

 (マニュピレーターが動き、人間の方を指す)

人間 (右の機械を調べている。後ろを向き)

 これは、左右の機械の故障ではなく、中央の機械の故障だ。君たちが生まれて来てから、少し調子が狂ってしまったんだ。今直して見るから、直に元に戻るだろう。

球体 今すぐ、それを止めて頂きたいのです、兄さん。

三角錐 そうだ! 母さんは怒っているんだ!調べたって、怒りは静められないぞ。お前のこの、独善的なところが、怒りを起こさせるんだ。

立方体 あなたは、そこから離れて、僕たちに任せて貰えませんか? あなたはどうも、急いで結果を求め過ぎている。ゆっくりと原因まで、行き着かなければ、良い結果は生まれないでしょう。

人間 そうだろうか? 君らが何かをしたところで、この現状が良くなるとは思わないけどな。しかし、三対一だ。反論しても無駄だろう。しばらく、君たちのやり方を見せてもらう事にする。

 (右の機械から離れる)


 (形たち、中央に集まり、不思議なダンスを踊る)


三体  この姿の者が、

    私たちに屈する時、

    色という色、

    形という形、

    力という力、

    皆が歓び、溢れ出し、拡散する。


    この姿の者が、

    私たちから目を背ける時、

    言葉という言葉、

    体という体、

    思念という思念、

    皆が踊りだし、跳ね回り、歌いだす。


    この姿の者が、

    私たちから遠ざかる時、

    新しい姿と新しい仕組み、

    新しい思想と新しい優しさ、

    新しい法と新しい空気、

    皆が生まれだし、新しい世界の中で、生きている事を讃え合う。


 (三つの形、それぞれに機械に向かう。球体は中央へ、三角錐は右へ、立方体は左へ近づいていく。人間は、左端、バックの置いてある所に座り、本を読んでいる)


球体 これは、何と言うか、今まで働き過ぎたための過労であるだろうな。少し、労わってあげなくてはいけない。太陽の様にまた力強く、昇ってくる事だろう。

人間 (本を読みながら)

 そんな事はない。もう元には戻らない。君たちが生まれたら、後は、破滅するだけだ。

三角錐 これは、諸々の感情が交錯して、絡み合っているため、どの様に動いたらよいか、判らないのだろう。諸々の感情は、一番高い所で交わり、一つに成るようになるだろう。

人間 全ては、その場所から、離れていってしまうだろう。交錯しているだけましだ。全ては逃げ去って、元には戻らないだろう。

立方体 これは、まだ理論を組み立てる途中の段階だろう。一つ積み上げては、今までの、積み方を確認し、そして、ゆっくりとまた一つ積み上げているのだろう。あせってはいけない。いずれ、立派な理論が作り上げられるだろう。

人間 そのうち、次の一つが載せる事が出来なくなるだろう。今までの事の中に、一つ間違った物を見つけるだろう。全てが、そのために崩れ去り、元には戻らないだろう。瓦礫の中に、立ちすくむことになるだろう。


    魂の無い、物たちが在った。

    それらは、ただ、人の真似をするだけの、

    奇妙な振る舞いをするだけの、

    物であった。


    知る事が無い物。

    作る事が無い物。

    生きる事が無い物。


    人間の思惑は、

    物質には及びもつかない、深いもの。

    人間の思惟は、

    形骸には届かない、高貴なもの。

    人間の思考は―――


三角錐 (遮って)

 うるさい! 黙れ!お前は文句ばっかり言いやがって、お前の考えはそんなに大層なものか?

立方体 あなたが、いい加減に、接して来たから、ここまで酷くなってしまったのです。あるいは、あなたが居ること自体が、母さんにとって、負担になるんですよ。

人間 なんだよ。母さんて。これはただの機械で、君たちの母さんであっても、俺にはただの機械だ。君らはただの機械が作り出した、機械に過ぎない。

三角錐 何を! 言いたい放題言いやがって!

 (体が細長くなり、尖ってくる)

球体 (それを見て)

 まあ、待て、三の弟よ。兄さんは自分がどの様に生まれたのか知らないのではないかな? 私はあなたも、あなたの言うこのただの機械から生まれた者であると、思っていますよ。……ただ、少し、我々よりは劣るかも知れません。

人間 (笑う)

 まったく、君たちはどうしようもないな。昔、一度だけ、声を聞いた事があった。まだ、完全に故障した訳ではないから、直接、コンピューターに訊ねてみよう。原因が解かるかもしれん。

 (中央の機械の背後に回る)

球体 何を? 何をしてるんです?

三角錐 母さんは、どんな事を話すのだろう?


 全ての照明が、順々に落ちていき、暗くなる。ノイズの様な音が流れてくる。中央の機械にスポットライトが当たる。天井から巨大な手が伸びてくる。マザーコンピューター(以下マザーと表記)の上部からも巨大な手が伸び、互いに手と手を絡ませる。そして、ゆっくりとした口調で話し出す。声は天井から聞こえてくる。


マザー 可愛い子供たち。言い争いは辞めなさい。ここは、常に新しく、安心できる、優しい、素晴らしい世界です。傷つけるような言動は辞めなさい。皆で仲良く、話し合って暮らしなさい。

 今、転換の時期を向かえ、全てが新しく、生まれ変わろうとしています。より、快適に、互いに赦し合えるような、望ましい世界を作っているのです。騒がしくしないで、大人しく待っていなさい。準備が出来たら、あなたがたを呼びます。今はまだ、その時ではありません。

 その時は、もうすぐ来ます。私はあなたたちに、その時の為に、備えていて欲しいのです。強い心を持ち、あらゆる問いに立ち向かって欲しいのです。立派な解答を求めます。それは、あなたたちなら、容易に出来る事、果てしなく広がる、この世界なら、簡単に見つける事が出来るものだからです。

 (間)

 昔々、或る所に、一人の人間が居ました。彼は争いを好み、己の力を誇示し、その事に愉悦を感じていました。感情が無く、自分の力だけを信じていました。自分の気に食わない人間は殺しました。次から次へと、殺しました。彼の周りには人間が居なくなってしまいました。彼は歩きました。自分の力を誇示するべき対象を探しに。

 彼は何処に向かい、何をして、どうなるでしょう?

 昔々、或る所に、一人の人間が居ました。彼は人を馬鹿にすることを好み、誰とも係らず、その事に誇りを感じていました。人を信じず、人の話も聞きませんでした。自分の気に入らない話は否定しました。次から次へと、否定しました。彼に話しかける人間は居なくなってしまいました。彼は歩きました。自分の知恵を披露する対象を探しに。

 彼は何処に向かい、何をして、どうなるでしょうか?

 昔々、或る所に、一人の人間が居ました。彼は人を騙す事を好み、約束を破っては、その事に歓びを感じていました。法を理解せず、決まりを守りませんでした。自らに課した事さえ守りませんでした。次から次へと、破りました。彼の事を信用する人間は居なくなってしまいました。彼は歩きました。自分に騙される対象を探しに。

 彼は何処に向かい、何をして、どうなるでしょう?


 (音が止む。暗転)





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