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第六部 その後

No.72

 彼は数年後、自ら書いた作品を発表するようになった。

 その作品は、彼の内的な空想世界を描いたもので、

 世の中に、

 驚きと、

 嘆きと、畏怖の像を与えた。


 彼は夢を見た。

 自分の住む街に、

 大きな、

 とても大きな、

 巨人が、

 雲を突き抜けて、

 足だけが、

 雲から突き出しているような、

 巨大な、

 とても大きな人間の如き、

 青い、

 とても青かった。

 巨人が、

 破壊して、回る。

 家々を、

 街を、

 大地を割り、

 海を潰した。

 巨人の手には、

 また、

 とても大きな、

 真っすぐな杖を、

 持っていた。

 その杖、

 真っすぐで青い、

 全てを、

 壊していく、

 突き刺していく。

 逃げて行く、

 街中の人々。

 巨人は大き過ぎて、

 足と棒しか、

 見えなかった。

 それに、とても青いのだ。

 空のように青く、

 水のように青かった。

 目的も無いように、

 闇雲に、

 大地を突き刺し、

 街を、

 人を、

 平らにしていく、

 大きな何か。

 彼は、それを、

 我が事の、

 ような気持ちで、

 非常に、

 遠く、

 とても遠くから

 隔たっていたから、

 近くには、

 誰も行けないから、

 ただ、

 眺めて、

 他の人と、

 また

 一部の、

 少しばかり、

 変わった人との、

 考えを、

 同じにして、

 いた。

 分かるだろう?


 彼の部屋で、

 彼は、

 彼自身の事も

 やはり

 他人事だった。


 書いたものを、

 独立させる、

 独りで

 歩いて、

 行く、

 巨人のように、

 独立させた、

 言葉。

 言葉の数々。

 まだ、


 大くの人は、

 まだ、

 小さな人は、

 まだ、

 偏った人は、

 まだ、

 楽しみ中の人は、

 まだ、

 不幸な人は、

 まだ、

 苦しみの中で、

 喘いでいる

 悲しい人は、

 何も、

 何一つ

 知らない。

 分かるだろう?


 長々と、

 短い、

 とても

 短い言葉を、

 終わりまで、

 終わる、

 まで、

 終わる

 時まで、


 まだ、

 続く、

 言葉に、

 口の中一杯に、

 小さな、

 プラスチック

 薄い板、

 透明な、

 小さな、

 塊

 と、

 して、

 口の中、

 一杯

 溢れている。


 よく見た、

 夢、

 バリバリ

 と、

 言葉

 を

 噛み砕く、

 溢れ出

 て来る、

 プラスチッ

 クのような

 かた

 まり

 の口

 の中

 での

 言葉。

 分かる

 だろう?


 そろそろ、

 この作品

 の

 終わり

 ご

 ろ

 が来た。


 少し、

 背筋を伸ばし、

 新しい、

 概念を、

 新しい、

 見解を、

 新しい

 生命を、

 その為の、

 新しい関係、

 分かるだろう?


 それだけが

 必要であるはずだ。

 俺は、

 短い言葉が、

 好きなだけで、

 一切、

 詩なんて、

 好きになった、

 事は、

 一度も無い。


 言葉は、

 遣って来るもの、

 で、

 帰ってくれない。

 終わるまで。



         『空想とマザーコンピューター、重力の関係』終わり



参考・引用


 『ファウスト(一・二)』

 ゲーテ著 高橋義孝訳  新潮文庫


 『きらきらひかる』

 江國香織著  新潮文庫


 『神の裁きと決別するため』

 アントナン・アルトー著 宇野邦一訳 河出文庫


 『罪と罰』

 ドストエフスキー著 工藤精一郎訳  新潮文庫


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