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第四部 また下降する現在  第一章 待ち合わせた場所

No.59

 午前十時過ぎ、後四時間は眠れる。冷房機が、大きな音を起てて、風を室内に送り込んで来る。

 感触が、斜めに、身体に入る、広いベッド。寝転んだまま、テレビを点ける。信号は、あっと言う間に、飛び散って、何処にも行く事は無い。何を見ても、触っても、軽過ぎて、辿れない。

 スーツを脱いで、ハンガーに掛ける。テレビは、敢えて、消さなかった。絶対に馴染まない、小さな感覚は、眠らせまいと、少しずつ動いて、触れて来る。

 冷房のせいで、眼が乾燥してくる。無闇に、ケータイを開いたりする。画像、下を向いた、人たち。細い足、表に出さない顔、性的なものも無く、良い写真だった。


 彼は、喫煙席に座る。メニューと水。タバコとライターを、取り出した。この時間、客は、疎らだ。


 妙に柔らかい枕、頭に、嫌な感触が伝わる。寝させまい。送風される音、それ以外、テレビの音、静かな音。

 眼が覚めているかの様に、眠る。揺れ動いている空気が、煩わしい。何かを、吸い込んでしまう。吐き出す事が、困難になって来る。雑音のせいか。そして、三時間寝た。

 テレビを消す。ベッドの上にある、照明を調節する。つまみを、数回触ってみたりする。大体、覚える。

 トイレや、バスルームを、見て回る。椅子に座って、タバコを吸った。机の上にある、パンフレットを眺め、背後に、空白の空間が在るのを感じる。何時だったか。

 別の場所を思い出す。あれは、良くない事だったのか? あの時は、もっと交錯していた。今、背後には、空白が在る。

 後ろを見てもしょうがないが、前や横には、捉えられまいとする。蝿の様な、理解し難い何か。触られまいとしながら、こちらに、小さな感情を、寄せて来る何か。情報を、奪って、記号を傷つけていく何か。


 ウェイトレスを呼び出す。


 しかたなく、また、奇妙な感触をした、寝台に、横たわる。随分、無くなって来た様だ。抵抗は、するまい。されるがままに、しておく内に、意識が、弱くなっていった。

 此処では、全ての自前の意識は、滑稽な在り様を見せる。下着姿で、格好を付けるのも、変なものだ。タバコを、ベッドの上で吸い、また、テレビを点ける。

 あまり、周囲に、注意を向けない様に、気を付け、何かが訪れるのを待っていた。少しの期待が、訪れて来た。

 少し前の忘れていた、記憶。佇まい。三重に、隠したもの。無理に、隠したもの。次々に付け足し、修正して来たもの。

 無理な事が、多く在った。それは、特別難しい事では無かったが、難しくする事で、別の、いや、無意味だ。そうしたかった。


 メニューを指差し、注文をした。


 少し、何やら、周囲が動き出した。時間も過ぎている。後、二十分というところだろう。

 壁紙が、少し破れている。何処となく、全体がくたびれて、これからなのに、何万回も、終った様な具合になる。

 備え付けの冷蔵庫を開け、ペットボトルの水を取り出す。水は、冷えてなく、口に合わなかった。

 途中から、何かをしようとは、思ってはいなかった。ただ、何処が始まりであるのかを知らなかった。辿る事が、始まりを知る事だと、そう認識していた。私は、知らない事を、まだ知らなかった。

 携帯に、電話が掛かって来る、空白は大きく、膨らんで、周囲を白くする。



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