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第三部 また上昇する空想  第三章 詩的な歯車(脳に於ける一つの意志、一つ一つの部品としての登場人物)

No.56

 照明は消えたままの、暗い舞台。三つの形は、中央の機械の前に並んでいる。右からは球体、三角錐、立方体。三角錐の少し手前に背を向けて人間が立っている。人間は客席を向いている。


 (人間にスポットライトが当たる。人間、客席にむかって、語りだす)


人間 一つの意志があります。人間に於ける一貫しない複数の形、しかし、一つとして、別々のものではありません。諸々の様々なものたちがあります。一つの空間に於いて、違う働きをすることがあります。それぞれは、違う、別の場所を目指している様に思われます。実際それらは、別々の所を目指しているのでしょう。それらの、全て、一つの意志するもの、それは、何を目指しているのか? 僕はまだ、此処を出るつもりはありません。むしろ、最後まで、見ていたい。一つ一つは、仲良くなりえるものだとしても、やはり、それらは違うものです。とうてい、話など不可能でしょう。何やら、それは、愉快に思わなくてはならない時が来ます。一つ一つ片付けなくてはならないものが、言葉など、無くてもいいと思えるほど、そこには、何と言っていいか……。皆さんも、声に出して言うべきです、人生の楽しみは、間近なのだから、意識は、この様に大声で語るでしょう。


 (スポットライト、球体に切り替わる。以下同様に、モノローグの人物に当たっていく)


球体   何故一つの意志か?

     何故一つの精神か?

     何故一つの魂か?

     何故一つの喜びか?

     何故一つの身体か?

     何故一つの言葉か?

     何故一つの概念か?

     何故一つの形でなければならないか?

三角錐  吐き気を催させるもの。

     苦しみを高く持ち上げるもの。

     身体を力任せに引き千切るもの。

     魂に棘をつきさすもの。

     輝ける宝石を汚れた石に変えるもの。

     溢れる喜びを空虚な隙間にかえるもの。

     調和の音を神経を削るヤスリにかえるもの。

立方体  組み立てられた意識に、

     間違った裁定が下され、

     全ての観衆の面前で、

     痩せ細った存在が語りだす。

     病んだ魂に、

     正しき事が訪れることは無い。

     死んでしまった事に、

     何一つ加えてはならない。

右の機械 これは、大騒ぎだ。

     過ぎ去る前に、書き留めるべきだ。

左の機械 これは、ただの空想で、

     何かからの派生に過ぎない。

マザー  何処まででも、行くべきです。

     何もかも、通り過ぎて行くでしょう。

     何かの為に、一つの記念碑を建てなさい。

     後から来る、他の言葉。

     初めから、用意されていた大地。


 (全体を照らす、ぼんやりした光。以下「全体」のところは、同様)


全体   新しく生まれてくる概念、

     それは、ずっと向こうに在った。

     新しく作られる建物、

     それは、ずっと奥に在った。

     新しく使われる言葉、

     それは、ずっと近くに在った。

     新しく方向の有る意志、

     それは、ずっと以前から交錯していた。

     新しく尚も更新される力

     それは、ずっと変わらないものであった。

マザー  高い厚い壁に、囲まれて、

     守られて来た、幾つかの形、

     自由な、踊りだす様な、

     そんな事が、何時まで、出来るのでしょう?

     向こうからは、もう、

     叩き付ける音が、

     厚い壁を、乱暴に。

人間   まだ世界はある。

左の機械 しかも、美しく、貴いものが。

右の機械 流れは変わらない、全ては同じ形だ。

三角錐  感情は一新される。

立方体  組立てた物、崩れ去る。

球体   過去が、必ず引っ張って行くだろう。

全体   これは、決められた通りに、起こる事。

     同じ時、同じ場所、同じ形、この世界に成るべく準備をして来た。

立方体  まだ、組み立てられる。

右の機械 流れは変わり、一つ一つは明確になる。

左の機械 さらに、暖かく、柔らかなもの。

三角錐  感情は、再び、魂に語るだろう。

人間   まだ、世界はある。完全な、一つの世界がある。

マザー  そこは、何を土台にしているの?

     そこは、どんな人たちがいるの?

     そこは、幸福に暮らせるところ?

人間   まだ、豊かな世界がある。

全体   飢える事も、満たされる事も、

     まだ、早い。

     新しい世界、それは、

     まったく新しく、以前から在った。


 (照明元に戻る)


立方体 (何事もなかったかのように)母さん、僕の考えた答えも、聞いて、下さい。一つ目の話は、その人間の機能の問題であると、考えました。その人間にはおそらく、共感する機能が欠けていたのだと思われます。彼は、誰も行かない所に向かい、自分に共感してくれる人を捜しに行って、同じ様に、空間に力を誇示し、そのものに逃げられ、生命の無い哲学でも、得るでしょう。

マザー そうですね。彼は、人がいなければ、全ての生は出て行ってしまうでしょう。それは、素晴らしいことです。

人間 力を誇示する為に、出かけたのだから、相手がいなくてはいけないんだ。何故自ら、誰もいない所に向かわなくてはいけないんだ?

三角錐 お前が誰もいない世界を望むからさ。

球体 まあ、三の弟よ、そんなに、怒るな。彼には彼の考えがあるさ、我、我が道を行かん、ていうことさ。

マザー そうです。子供には、子供の考えがあるものです。そういえば、あなたの解答を、まだ、聞いていませんでしたね。

立方体 僕がまだ終ってないよ、母さん。

三角錐 奴の意見なぞ、聞く必要も無い。此処から出て行って、どこぞへでも行くがいい。

球体 どうやら、新しい、この世界に必要なのは、私たち兄弟であったようですね。残念です。色々教えて貰ったのに。

人間 なるほど、そうだな、出て行こう。

 (歩いて、鞄のところに行く。鞄を拾おうとしたが、向き直り)

 何故、俺が出て行くんだ? 此処は、俺が管理していた空間だ。

マザー それは違います。私があなたを、育てて来たのです。

球体 ははは、寄生しているくせに。

三角錐 気でも、違ったか?

立方体 頭が、足りないんだよね、母さん。

人間 (しばらく、無言で、形たちの方を見ている。小さな部品をポケットに入れる。座って、鞄の中から、マニュアルを取り出し、眺めている)


 (三つの形、人間に近づいて行く)


球体 出て行く、準備を始めた様だな。

三角錐 ある意味、羨ましいね。

立方体 難しい仕事から、解放されたし。


 (三つの形、人間を、背後から取り囲む)


球体   既に書かれていた。

     それを知恵と呼んでいた。

     他人の、血肉、では無く、

     唯の文字一つ、分けて貰えない。

     自分で、作る、醜い言葉。

三角錐  使えない、腕で、

     拾って来た、部品で、

     使われない、道具を作った。

     誰一人、触りたく無い形を、

     自慢げに、一人組み立てたな。

 

 (人間、鞄の中から、金属の長い棒を引っ張り出す)


マザー  希望のある言葉を述べなさい。

     血の臭いのする言葉を吐き出しなさい。

     腐った肉のような、言葉にも従いなさい。

立方体  高くにそびえ建っていた。

     そこには、雷なんて無かった。

     暗闇の底に立っていた。

     そこには、危険なんて無かった。

     病気なんて無かった。


人間 (立ち上がって、三角錐の方を向き、長い棒を、振りかぶる)


 (暗転の中、叩き付ける音)


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