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第三部 また上昇する空想  第一章 空想の空想

No.54

 何かが伸び続けるような、欠けていくような。生かされるような、広がり続けるような。それらが皆殺されていくような、失われてしまうような。


 紫の空間に、機械の作動音が、響いている。人間は、三つの図形から、離れ、一人左側の壁にいた。

 マザーコンピューターが話す。それは、今までに無かったことだ。人間は、一度聞いたことのあるような気がしていただけで、記憶には無かった。人間は、掌の中にある、小さな部品の感触を神経に伝えていた。

 金属は、温かくなり、彼の物であるかのような、小さな達成感を与えていた。手の中で、それを転がしていた。小さな部品。大きな、機械を動かす部品。人間を人間足らしめる、ある法則に則った機械を制御する為の部品。取るに足らない、部品。大きな物も、小さな物も無い、と感じていた。

 以前、静かであったこの場所は、今、賑やかになった。三つの形は話し合いを続けている。それぞれに、理想とするものがある。それぞれに、目指す形というものがある。

 人間は、あまり理解をしていない。自分が歩き回ることが、即ち変化であると、信じている。会話をすることではなく、また自身の得たいかなるものでもない。手に有る物は、部品で、会話もまた、何かの空間という機械に於ける部品であるだろう。その中の、小さな部品、それは、一語一語、人間は、形を眺めながら、どれを取り上げるべきか、思考している。

 この世のものは、どれ一つとして、無駄な物は無い。だとすれば、それは、どれでもいいのだ。一つと言わず、六つぐらい取ってしまえばいいんだ。人間は歩き回る。

 三つの形は、それぞれ、等間隔に並んでいる。それぞれの形には、適切な距離があり、彼らは、それを熟知している。

 そして、全ては機能的であり、機能に沿う事により、それは、全体に於ける部分となり、正常に全てが機能される。間違っても、壊す事、狂う事は無い。

 ただ、それが、一つでも損する事がなければ、今はまだ、その形のまま、留まっていられるだろう。世界は一つであるだろう。

 世界、ここでは、脳のことか。身体と言うのも、もう飽きた。ただ脳だけでいい。神経?まあ、本当は、一つの図形に過ぎない。眼に映る映像。そして、確かな感覚。

 人間は、一つの部品を持ち、この世界から疎外されているのを感じる。いずれ、誇らしげに、その手を開く時が来る。いずれ、自分の、行動を、正しく、また、誤って、一つとして、的に当たらなかった、と気づき、そして、手には、まだ消えない部品だけが残る、だろう。

 母親の様な役割、この機械の役割。人間とそれの係わり、マザーコンピューターは、彼に話しかけ、彼は忘れる。人間は、それを知り、一つの構成要素を、我が物とする。新しい話。新しい仲間。

 人間とは、何処に行っても、生み出した物からも、離れた処にいる。人間は、人間ではなく、他の何者かだ。部品は、まだ手に有る。世界は、これが有る内は、まだ自分の中に在るであろう。たとえ、全てがその為に、間違ってしまっても、それでも、これ無しでは、世界は、人間から、離れる事は出来ない。ただ、距離を置き、そして、気休めの、形を、残していくだけだ。

 誰も、何も言わず、何もしない。何かを手に入れる事は、即ち、世界を失う事だ。

 コンピューターの光は、ゆっくりと点滅をしている。


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