第一部 上昇する空想 第一章 設置してある場所
No.44
何かが有るような、無いような。何かが混ざり合っているような、単一のような。分裂し始めているような、それらが統合されるような、終わるような。
沢山のものが生まれる。沢山のものを生み、育てるものが在る。灰色の大きなコンピューターが在る。それは紫の空間に在り、何かを生み出している。紫の空間は脳である。青いコードと赤いコードが張り巡らされ、それらは脈打っている。
中央に生み出す機械が在り、その左右に、思考し、思惟する機械が在る。二本の太いコードによって繋がれている。右から情報が流れ、左から情報が流れている。
それらのコンピューターは何かを計算し、部品を集め、何かを生産する。次々と生まれ、紫の空間に溢れかえる。人間と、計算は一つに混じる。人間と、部品は一つに混じる。それはそのような何かであり、ただ、そこに居るだけで、何一つする事が出来ない。コンピューターの計算は何時も正しい。ただ、ただ、正しい。
昔、それらが背景だった頃があった。人間は、紫の空間を行ったり、来たりしている。人間はただ、歩き回り、時々機械の調子を見ている。
人間は歩き回りながら、辺りを気にして、右を見て、左に耳を澄ます。後ろを振り返り、何かを感じる。右の機械は、よく事物を組み立てられず、ランプを点灯させ、その助けを求める。人間は、そちらに歩み寄り、調べ、それを新しい、高性能な回路に組み直す。
左の機械は、感情の流れに耐えられず、うるさく警告音を発し、その注意を促す。人間は、そちらに向かい、音を聞き、そこでやわらかい、新しい言葉を入力する。
中央の機械は、何をする事も無い。今までも何もした事が無い。人間は、その姿形を母のように感じ、いずれ何かが生まれてくることを予感していた。
毎日、歩く事は人間の行動の全てだ。これは仕事なのだろう。単調で、退屈な、変化の無い日々だ。全てが順調に行くように、気を使い、配っている。チカチカ点灯する、目眩のする光と、断裂的に鳴る、うるさい音をなだめながら、歩くだけだ。周囲を見張りながら、狂いのないような、日常を送る。これ以上の仕事は無い。様々な事態に対処が出来るような、分厚いマニュアルも、鞄の中に何冊も有る。これは人を豊かにする指示書で、指南書だ。
人間は、歩きながら、ふと、ある予感に捕われる。
今までに無いような、また、これからの全てを理解させてしまうような、自分が最大限に在るような、全く無くなってしまうような、沢山ものに囲まれるような、全てから孤立し、一人になってしまうような、偉大な者になるような、卑怯な者になるような、先頭に立つような、最後尾に着くような。
人間は、捕われたまま、立ち止まっていた。
今までに聞いたことの無いような音が、中央の機械から聞こえた。初めて中央の機械が、動き出し、堂々と光が輝いた。
中央の機械から、昇降機が降りて来た。板の上には、人間ほどの大きさがある、緑色の球体が載っている。徐々に下に向かい、床に着いた。球体は転がり、前に進む。球体が降りた後、板が上に昇り、光が消えた。
しばらくして、また音が鳴り、光が点いた。緑色の三角錐を載せ、昇降機が降りる。床に着くと、三角錐は、音も無く前進し、球体の横に並ぶ。板が上に昇り、また、次の準備を始める。
三つ目は立方体だった。これも、音も無く滑るように、前進し、三つの形が人間の前に並んだ。