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社会問題  作者: 中井仲
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初めてのおとまり4

「梓、ノーラ、忘れ物ないなー?」

「ないっ。「行ってきます」」

「オイオイ待て待て。ノーラ、ランドセル忘れているぞ」

「そうだったー」


 ないって言っただろうが……。しかも普通忘れないだろう。ランドセル。今日は特に持っていく物もないようだから忘れてしまうか。申し訳程度に筆箱を入れているだけで、ガサガサ音が鳴っている。

 ランドセルじゃなくてもいいのではないか、とノーラに提言したが、頑として首を縦に振らなかった。


「はあ……」


 例によって朝葉は先に登校……もとい出勤している。

 さて、もう少し余裕のある裕太を起こしに行くか……。とのんびりしていたら、いつの間にか時間がかなり立っていた。

 おっ、やばっ。時間が……。急がなければならない。寝ぼけている裕太を追い立てて、顔見知りになった幼稚園の先生に預けて、帰ってくると、まだ宇柚が寝ていた。どんだけ寝る気だよ。昨日は八時ぐらいから布団に入り、現在十時をまわったところだ。

 さすがに起こしにかかり、


「ママ、もう――」


 どこか行かないで、か?


「――帰ってこないで……」


 マジで?


「……うそ、はらくかえってきて……」


 早く帰ってきて、な。そうだよな、やっぱり寂しいよな。


「……いっぱい食べれるのら……」


 は? わけわからんわ。どこをどう飛んだんだ? 

 ……まあ、夢だからな、理屈が通らんことの方が多いだろう。……起こすか。


「うにゅー。じゃがりこ……いたがいますぅなのら」


 ……いたがいます?……あ、いただきます、か。


「俺の指はじゃがりこじゃないっ! 痛い痛い噛むな。離せ離せ。指は食べ物じゃないっ!」

「にゅ? ほんとだ。キューなのらぁ。にゅー」

「起きたな。今日は遊びに行くぞー」

「おー」

「じゃあ、着替えてリビングに集合だー」

「おー」


 子供は勢いで乗せてしまえ。

 子供とはいえ、裸を見るわけにはいかないので部屋を出る。パジャマのボタンに苦戦しているのが見える。

 トーストでいいか。あとはジュースを注ぎ待機。


「ふくはー?」


 そう叫ぶながら、扉を開けて登場した。……裸で。隈なく完璧に全裸だった。どんなサービスだよ。

 そして誰が喜ぶんだよ。


「服を着てこいっ」


 そんなに瑞々しい肌を見せつけなくても……。


「だから、ふくどこー?」

「鞄に入れっぱなしじゃないのか?」

「かばんどこー?」

「部屋にあるぞ」

「どれ着たらいい?」


 ……それは……お母さんに選んでもらっていたような気がするな……小学生までは。


「……一緒にいこか」


 極力、宇柚の肌を見ないように目をそらしながら移動する。適当に服を見繕い着せる。これで一安心だ。

 もぞもぞ、もぐもぐと食事をとり、ダラダラゆっくりとご飯を食べ、支度(掃除や選択などの鍛冶)を終えたところで昼飯の時間だった。

 もちろん食べるよ。

 やっとの事で外に遊びに行くことができた。無難に公園がいいだろう。ノーラが埋まっていたあの公園で。

 同じようにお子さんを連れた母親もそれなりにいて、砂場で子供同士を遊ばせてる。もちろんお山作りだ。


「ほら行っといで」

「にゅー……」


 俺の袖を引っ張って尻込みしている。


「どうした? 人見知りか? 『入れて』って言えば大丈夫だから」

「わ、わかったのら……行ってくるのら」


 宇柚は人見知りタイプなのか。意外だな。気にせず迷惑かけるタイプのような感じだったのに。

無事、仲間に入れてもれえたようなのでベンチに腰を下ろす。

 ふわぁ。日当たりのいい午後は眠……く……な……る…………。


 はっ。寝てしまった。何時だ? ここは……公園だな。宇柚は?

 隣で寝ていた。こんなに泥だらけになって……洗濯が大変だ。母親の気持ちがよくわかる。俺も汚すことが多かっただろうから。

 じ、時間だ。何時だ?

 携帯を開くと五時の表示だった。やばっ、梓と裕太とノーラが待ってるな。確実に怒られるパターンだ。

 なんと言われるだろうか……。幼稚園から裕太を回収して家に着いたがランドセルが二つ玄関に置いてあるだけ。

 どういうことかこれはわかる。よくやったから。


「あいつら遊びにいったな……」


 どうやら怒られることはないようだ。あぶねー。

 いや。怖いわけではないよ。

 ……小学生に怒られるのが怖いのは、大人としてどうかと思う。

 晩ご飯の用意をしてしばらくすると二人とも帰ってきた。七時頃のことだ。別に遅いからって起こるわけでもない。ふつうに、


「おかえり」


 というだけだ。それと。落ち着いて夕食中に、


「遅くなるなら一言言ってくれたらうれしいなぁ。いちおう保護者だし」


 ぐらいである。なんでこんなに卑屈なのだろうか……。


「うん、わかったのだっ!」

「それならいいが……。手が止まってるぞ」


 俺も朝葉も、まして梓はテレビをながら見ができるのだけど。他の子供たちはできていない。


「宇柚。左手がないぞ」


 夕食中。宇柚は左手を机の下におき、右手だけで食べている。預けてもらっているのだから、作法の指導もしないとな。


「ノーラ。三角食べしろよ。ご飯だけ残ってるぞ」

「三角食べってなに?」

「ご飯、おかず、汁物を順番に食べることだよ」

「なんでそんなこといなければならないのだ?」

「ご飯だけ食べてたら味気ないだろ。交互に食べることによって、全部の皿がいっぺんに終わるだろ」

「ふーん」


 イマイチわかっていないような。外人だしお米の美味しさがわからないのかな。ご飯というのは、おかずと合わせることによって美味しさが倍増するのだ。多分。


「裕太は口止まってるぞ」


 言ってしばらくは動き出すけれど、また止まっている。


「テレビ消すか?」

「いや、だ、大丈夫」

「大丈夫じゃないだろ」


 完璧なのは梓だけだ。


「ところで、そうせんきょってなんだ?」


 追求をかわすため話を変えてくるノーラ。

 今さっき、テレビでAKB43というアイドルグループがメンバーの総選挙をやっていたのだ。俺は特にこのグループのファンというわけではないのだが一般常識で知っているぐらいだ。それはそうとなんで四十三なのだろうな。うまく割りきれる数字でもないし、四十八ぐらいだったら二とか三で割り易いのに……。なぜに四十三なのだろうか……? 人数が?


「総選挙か。それはなー、えーっとグループの代表者とかリーダーを決める方法のことだよ。元は国会の選抜方法なんだけど。いろんなところで使われてる方法だけど。具体的には好きな人を選ぶやり方でやってるよ」

「国会を選ぶやり方なのか……」

「うん。政治に参加するのは国民全員だとしても、それはちょっとというか多すぎるので国会議員っていう代表者がその地域の意見――多数決なんだけど――を持ち寄って集まるのが国会でそれを選ぶのが選挙というわけなんだ」

「へー」


 うまく説明できたかな。小学生レベルに落として説明するのって難しいな。


「で、その国会は二つあるんだけど――」

「え、国会って二つあるんですか?」

「言ってなかったけ。衆議院と参議院があるよ」


 衆議院の定員は四百八十人。任期は最長四年。それは解散があるからだ。

 参議院は二百二人。任期は六年だが三年ごとに半数が変わる。

 戦前は参議院じゃなくて貴族院だったのだけど。今は関係ないな。


「なんで二つあるのだ?」

「一つだけあるよりたくさん相談して判断できるだろ」

「両方とも違う判断をしてしまったら?」

「それはね……衆議院のほうが強い権力を持つようにしてるから大丈夫」


 衆議院の優越である。

 一つ。予算案でき衆議院可決後に参議院で否決されたとき。衆院議の決案を衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再可決すれば法律が決まる。

 二つ。予算の議決をするとき、衆参議院で議決が異なる時に開く両院協議会で成案が得られない場合は、衆議院の結論がそれになる。

 三つ。条約の承認をするとき、衆参議院で議決が異なる時に開く両院協議会で成案が得られない場合には衆議院の議決が国会の議決となる。

 四つ。内閣総理大臣の指名のときに、衆参議員で議決が異なる時に開く両院協議会で成案が得られない場合、衆院の議決が国会の議決となる。


「なんで、しゅうぎいんのほうが強いのだ?」

「それは……衆議院は解散があるからね」

「なんですかそれ?」


 梓が首を捻る。


「解散って言うのはね、みんなの意見がわからないから聞いてみよう、って衆議院の人をやめさせてしまうんだ。それで、もう一回みんなに選んでもらって、その人の持つ意見の代表としてなた集まって決めるんだ」

「さんぎいんにはないのか?」

「ないよ。参議院はね、衆議院が解散しているときとかに、決めなければならないことができた時ように解散がないんだ。選挙するときも一度にしないように半分ずつしてるんだぜ」


 衆議院は国民の意見を反映させる機関。

 参議院は国政を安定させて長い目でみる機関。

 この思想があるので両方に解散があるわけではないのだ。

 改めて考えると良くできているよなと感心してしまう。

 小学生たちは興味を持っているが、宇柚なんか序盤に興味をなくし、テレビに釘付けだった。裕太は俺たちの話を聞いてはいたが、「にぎいんはないの?」とつぶやいていたから、いまいちわかっていなかったようである。

 なんぎいんって、『参議院』の『参』を『三』と思っていたらしい。


「そうだ。梓もノーラも。合い鍵渡しておくから、俺がいないときでも入っていいからな。ランドセルのポケットにでも隠しておけ」

「わかったのだ」

「はい」


 二人とも受け取り了承する。


「ねえ、おかーさんはいつ帰ってくるのら?」

「あー、電話してみようか」

「うん。するー」


 この時間だし少しぐらいなら多めに見てもいいだろう。さっそく、宇柚のお母さんに電話を繋げてやる。

「もしもし、水野さんですか。轟木です。宇柚のがお母さんと話したいそうなので、時間ありますか……はい、では、かわります」

「もしもしなのら」


 あ。「なのら」口癖直していない。忘れていた。この口癖を親御さんはどう思うだろう。いい印象ではないよな。将来、直らなかったらどうしよう。俺のせいだよな……?


「おかーさんいつ帰ってくるのら? あした?」


 そんな急にはちょっと無理だろうけど。聞いてしまう気持ちはわからんでもない。というかとてもわかる。


「ゴールデンウイーク? わかったそれまで待つのら。がんばれる……ん」


 話は終わったようだ。ゴールデンウイークまでか。ちょっと長いかな。辛抱しと貰わないと。


「もしもし変わりました」

『久夜さん。ゴールデンウイークには帰れそうですので、それまでよろしくお願いします』

「はい任せてください。そのかわりと言っちゃなんですが、宇柚と精一杯遊んでもらってもいいですか」

『もちろんです。それぐらいは。では』

「はい、では……」


 プチ。


「お母さんもうすぐ帰ってくるってな、よかったじゃないか」

「あとどのぐらいなのら?」

「うーん十回寝て起きたらぐらいかな」

「うん、がんばる」


 といって寝転び目をつむって三秒後、起きる。


「一回なのら」


 リプレイするようにもう一度。


「二回目なのら」

「いやいやいや。そう意味ではなくって。お星様が十回見れたらってことだよ」

「そうなのら? じゃあ」


 窓のそばに寄って夜空を見上げる。目を瞑る。開く。また瞑る。


「だからそう意味じゃないって。十日経ったらということだよ」

「そうなのら。そう言ってくれればよかったのら」


 ……そうですか。わかりやすくするために表現を変えてやったというのに。俺の苦労は何のために? 


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