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社会問題  作者: 中井仲
8/23

初めてのおとまり3

 結局、朝葉たち女子組が入ることになった。健全だ。

 この間にノーラの生活情報を記入する。

 まず名前。そして歳。生年月日……知らないや。後で聞いておこう。空欄で進む。

 住所、病気……これは確認しとかなければ。保護者、連絡先は俺でいいし。こんなものか。

 見直してみて空欄が半分ぐらいある。こんなにも知らないことばかりなんだなとも、こんなに杜撰な情報だけで入学できてしまうのはさすが私立だとも思う。


「明日から学校~らら~ふふん~」


 出てきたようだが、ひたすらテンションが高いな、ノーラよ。もう少し落ち着いたらどうだ? なにかいいことがあったとか? うまく頭が洗えたとかだろうか。


「そういえば、お前の国では学校は行ってなかったのか?」


 なんかいまさらのような質問を口にする。


「うん、いってなかったぞ。明日が初めての学校というわけだな」

「友達ができたら連れてきていいぞ。梓も裕太も」

「うゆは?」

「もちろん、宇柚もな」


 宇柚はどのタイミングで友達を作るつもりなのだろうか。今日と同じサイクルだったら友達なんかできないぞ。公園でも連れて行かないとな。


「布団とベットのどっちがいい?」


 三個ずつあるので相談しようと思うのだ。そんなにたくさん人が住んでいた家ではないのに、寝具がたくさんあるのは何でだろう? 

 まあいいや。無駄に物が多い家だし。


「朝葉がここでベットを使っているから残りで」


 もうリビングに常備しているホワイトボードに家の見取り図を簡単に書く。


「ベットがいい」


 そういうのはノーラ。外国人だしな、ベットの方がよいのだろう。


「それならこの部屋使えよ。朝葉の部屋の隣。……梓と裕太は同じ部屋でいいか?」

「いいですよ。いままでもそうですし」

「ボクもいい」

「じゃあ後で布団持っていくから」


 こくり、とうなずく二人。


「うゆはー? うゆはー?」

「あー、宇柚はな。俺と一緒じゃ嫌か?」

「うー…………」


 嫌か……。まあ三歳だし一緒に寝るかなーと思ったのだけど。悩まれるというのは、ちょっと落ち込む。


「おか――」


 し、と言おうとしたのか。それともお母さんか。後者で有って欲しい。


「――し、くれたら……じゃなくて、キューはさびしいのかーしゃーないな、いっしょに寝てやるのら」


 おかしが欲しかったのだろうな……。俺よりおかしか……。はあ……。


「はい、はい。寂しいから一緒に寝てほしいなあ」

「え、大人になってまで添い寝がいるの? よかったら私がしてあげても……」


 空気の読めない朝葉がなんか言っているけれど、そんなことは無視。


「やっぱりキューはさみしいのかあ、じゃあうゆが一緒にねてあげるのだ」

「うん、おねがいします。さあ、早く寝よ寝よ」


 そういって早速寝床に潜っていってしまった。他の奴らも眠いようで寝室に向かっていた。

 俺も適当に時間を潰し、寝た。

 ……………………。


「にゅー一緒に寝ていい?」


 当然、大人の常識として別の布団で寝ていたのだが、宇柚が言い出した。


「まだ寝てなかったのか」

「にゅ……」

「まあ、いいけど……」

「うにゃー」


 飛び込んで来た。二人とも敷き布団だったので侵入は簡単だが、枕を保持して突入してきた。

 ……………………。

 コンコン。

 ノックがした。


「すみません……」


 梓と裕太だった。ちなみに枕常備。一緒に寝たいのが丸わかりである。しかしイジワルをして


「どうした? トイレか?」


 聞く。


「トイレもなんですが……。怖くって」

「一緒に寝たいのっ」

「そうか……しかたがないな……」


 こんなことを言いながらも嬉しくなる。だって知り合って二日目ぐらいの仲だぜ。それなのに頼ってくれるのは……嬉しいじゃないか。


「トイレはどっち?」

「お姉ちゃん!」


 裕太の返事に梓は赤面する。お年頃の女の子に酷なことを聞いてしまったようだ。


「……じ、じゃあ行こうか……」

「……はい」


 べつにトイレに行くだけなので、特に騒動も会話もなく布団に入る。騒動がこれだけどできてしまったら……どうなるだろうか。俺が何かの拍子で梓の入っているトイレに突入してしまうこととかだろうか。それは洒落にならん。

 無事終わってよかった、なにもなくて……と思ってしまう。変な騒動して簡単なことが少し怖くなってしまった……。

 俺を中心に右に宇柚、左に裕太、さらに隣に梓という位置どり。

 ……性的に興奮とかしないからっ。ほんとにっ。

 静まれ。眠いんだ。寝るっ。

 ……………………。

 がたっ。ノーラが来た……。


「……お前も入るか?」

「うんっ」


 なんと、宇柚と俺の間に割り込んできた。


「な、なんでそこなんだ?」

「暖かいから」


 言い切った。そうだけど。ほんとにそうだけど。宇柚が冷たいところに追い出されて、ちょっと寒そうじゃん。お姉さんだろ。


「まあいっか」


 よくないけど。ちゃんと布団をかけてあげましたよ。

 なんとなく安心したように、俺もだけど、ぐっすり眠れたのだった。



 翌朝。

 身体が重いような気がする……。

 なにか筋肉痛になったり、疲れるようなことしたっけ?


「久夜―そろそろ起きな……さ……い?」


 朝葉の声だ。まだ眠たい瞼を精一杯開けて見る。ちょっと視界がナニカに邪魔されて狭まっていたが、特に支障はまだない。

 ドアを開けて俺たちの姿を見て、一瞬止まり固まり……キレた。なんでだ? 朝っぱらから悪いことしたかな? 


「ちょっと表に出なさいっ!」


 よくわからないまま釈明しようと身体を起こすが……。

 簡単に起きない。

 ノーラと梓と裕太と宇柚に使われているというか、絡まっているというか……。そんな感じ。

 もう少し詳しく説明すると。

 左腕には裕太がしっかりと握っているというか抱いている。見ようによっては俺が抱いているように見えないこともないだろう。そうではないが。

 反対には梓が俺の腕を枕にして縮こまっている。これならまだいい……はずだが、今回はそうはいかない。

 彼女の腕枕をしている手が梓のまだ平べったい胸部に当たっているのだ。これはアウトだろう。

 で、股間部――俺の内ももを枕にしているのは宇柚だった。もう少しで男の大事なところに当たりそうである。ツーアウト。

 そして、ノーラの足は俺の頭部を挟むような態勢なのである。スリーアウト。チェンジしないと。なににかはわからないが。

 皆さん、枕を持ってきたはずだよね。枕の代わりに俺を使わなくてもいいんじゃありませんか。

 ……まあでも、これは朝葉じゃなくても怒るわ。と言うか早くこの窮地(?)を脱出しなければ。宇柚は何とかなりそうだけど。裕太とか大胆に抱きついてるし。男に抱きつかれて嬉しくなんか無い。

 ノーラの足をよけいな部分に触らないよう外し。梓の頭から慎重に腕を抜き、その際、「だめですよぅ」と寝言と思いたい言葉をつぶやいていた。

 そして乱暴に裕太を外す。男だしそれぐらいでいいだろう。……差別じゃないよ。

 怒りを押しとどめようと頑張っていた朝葉が待ちかまえている廊下へ。

 出たときに、グーで殴られ、ローキックに見舞われた。ここは甘んじて受けておくことにする。こんな悲劇がもう起きないように……しかしどうすれば防げるのだろうか。みんな怖がっていたしなあ。


「なんでもう、私のところにこないのよ……男のところに行かなくてもいいじゃない……」


 それはそうだ。俺のところに来なくてもいいじゃないか。これからそうしてもらおう。


「というか私も行きたかった……」

「ん? なんか言ったか?」

「な、なんでもないっ」


 それならいいか。

 それからは暴力を受けることはなかったが、朝葉が遅刻するのにぎりぎりになる一時間をかけて、説教というか愚痴というかなんというか、わからないことをグチグチ言われ続けた。

 それなりにうるさかったはずなのだが、子供たちは全く起きなかった。


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