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社会問題  作者: 中井仲
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初めてのおとまり1

 今日放課後から梓と裕太と宇柚が来る日。ついでに初開店。誰も来る気配ないけど。それはどうでもいいか。

 というかもう宇柚は来ている。学校や幼稚園に行くような年齢でもないから当たり前である。


「こんにちは。これからよろしくねー」


 初対面の印象が大事。この前は宇柚は寝ていたのでちゃんと挨拶していない。ちょっと心配だったけれど。


「うん。お菓子―」


 ………………。


「……なんて言ってきたんですか?」

「あははは……」

「笑い事じゃないですよ」

「いやまあ、相当渋っていたんですけど『ここで待っていたらお菓子もらえるよ』っていったら急にノリ気になってしまって……」

「そうですか……」

「はい……」


 子供って予想がつかないな。まあでもこれで何とかなりそうだ。お菓子が必要だけど。どこかで買ってこないと。

 二人の母親も着替えなど生活必儒品を持ってきた。椎名姉弟はもう小学校と幼稚園に行っている。

 朝葉も七時頃には出勤した。


「昼頃、学校に来てよ。ノーラちゃんの入学手続きあるからさ」


 との言葉を残して。いつのまに裏工作をしていたのだろうか。裏工作っていっても校長兼理事長兼俺や朝葉の友人に頼んだだけだが。え、なんで俺から頼まなかったのって? それはあいつが朝葉に惚れているからだ。見た目わかりやすすぎて目をそらしたくなるほどに。

 喫茶店は開店初日から休業することになってしまった。まあ、お客さんもきていないからいいのだけど。宣伝してないから当たり前だけど。なにか挽回しなければならないな。方法を考えないと。


「うにゅー。どこいくんだぉ?」

「小学校だよ。一緒に行く?」


 一応聞いてみただけだ。一人でお留守番させたらまずいし。


「いかないぃー」

「……うちにお菓子ないから買いに――」

「ほんと?」

「ああ、来たら選ぶことができるかもしれ――」

「いくんだおぅ」


 そうですかい。お菓子でこの子は動かせるようだ。


「わたしもいるー」


 もう一人釣られそうな予備軍が一人いた。

 まあいいや。

適当な時間に支度をし終え、学校へ向かった。

 学校を卒業しても職員室あたりは緊張する。特に校長室は。校長が知り合いでもな。


「うっし。入るぞ」

「……うん」

「うにゅ」


 緊張しないようなノーラでさえ少し強張っている。緊張の気配さえしていないのは宇柚だ。人見知りとかしないんだろうな。

 コンコン。


「失礼します――」

「おお、来たか。ささ、そこにでもかけてくれ」


 といったん応接間にかけて顔を上げると。


「でえぇぇぇ。なに付けてんだお前は!」

「うわぁー」


 思わず声を荒げてしまった。宇柚もビックリ。百円均一店で売っている一発芸用の眼鏡と髭付きのアレをつけていたのだ。そりゃ突っ込みたくなるものだろ。


「いやだってさ、モテるのは楽しい人だろ」

「それをつけて楽しい人にはなれない。笑われたい人、またはおかしい人、もしくはバカな人だ。いくら朝葉だって引くと思うぜ」

「そ、そんなことはない……はずだ」

「そうだといいな。昼真」


 この慶援学園の校長である瀬川昼真が自信満々に言っていたが、へこましておく。

 昼真は幼なじみではないが、まあ、ざっくり親友と言っても差し支えないだろう。たぶん。それぐらいの付き合いをしている。


「それはとにかく、こっちは誰? そっちがノーラちゃん? の入学は――」


 すでに少し外見的特徴を教えてあった。それにしても銀髪は目立つよな。学校に来るまでに視線が強かったような気がする。


「ああ、もう来てたんだ。間に合って良かった。……昼真だめかな?」


 急いだように朝葉が入室してきた。入学の力添えしてくれるのだろう。


「――もちろん。いいに決まっているじゃないか。オレたちの仲だろ」

「ほんとにいいのか?」


 プロヒィール不明なところ多いぞ。市民票も持ってないし。


「いいって。じゃあ明日からということで。あ、三年生なんだよね? じゃあオレの権限で朝葉先生と同じクラスに転校だ」


 なんでこんなヤツ校長・理事長にしてしまったんだろう。

 でもまあ。


「よかったなノーラ。力強いだろ」

「梓とも同じクラスかー。やったー」


 そうか。梓と同じクラスなのか。さらに仲良くなるいい機会だ。


「まずはランドセル買いに行かなきゃな」

「ランドセル?」


 ん? ランドセルって外国にはないのか。そういえば映画とかで見たことはないような気がする。


「ランドセルって小学校に持っていく教科書入れる専用の鞄のこと」

「なんで専用の鞄がいるんだ? 入ったら何でもいいんじゃないか?」

「まあ、そうなんだけど。日本の文化? なんだと思う」

「じゃあしかたがないなー」


 そういいながらも嬉しそうなのだけど。


「ないなー」


 わからないながらも会話に参加しようとしている宇柚は可愛いなあ。

 ……ロリコンじゃないよ……。

 

「いっぱいあるんだなー」


 一般的であろう黒や赤だけでなく、奇抜な色もあった。紺色とかピンクならまだしも、水色とか緑、さらには蛍光の黄色である。

 黄色って……。横断歩道を渡るときのためか。手旗がいらないなあ。そういえば横断歩道で手旗は見なくなったな。黄色い帽子も絶滅したのだろうか。


「これがいい」


 そういって指したのは紺色のランドセルである。奇抜な色じゃなくて良かった。蛍光の黄緑とか選んだらどうして説得しようかと思っていたところだ。


「……あーそれはな、男子用だと思うぞ……」

「そうなのか。かっこいいのになあ……こっちは?」

「……黒も男子用だぞ」

「じゃあどれが女子用なのだっ?」

「赤だな」

「じゃあどれでもいいや」


 機嫌を損ねてしまったようで、結局ノーラ自身が決めることはなく大多数が持つであろう純粋な赤色のランドセルにした。


「じゃあ帰ろうぜ」

「待つんだおぅ。おかし。おかし!」


 そうだった。それで釣ってきたんだった。どうしよう。あっ、あそこがいいな。

 と連れてきたのは、駄菓子屋である。由緒正しき百円でかなりの買い物ができる駄菓子屋。

 俺が子供の時から変わっていない駄菓子屋。店番も不老かと疑いたくなるおばあちゃんである。


「いらっしゃい。おっ久ちゃんさね? 久しぶりさね。元気してたさね?」

「あ、はい、こんにちは」

「何か買っていくさね?」


 そのために来たんだし。あ、でも、お話するために来るのもいいかもしれない。


「それはもちろん。これからまた何度も来ると思うんで。こいつら、ノーラと宇柚です」

「それはうれしいね~。どれにするかい?」


 どれがいいんだろうと、宇柚に視線を向けると、これはもう形容のしようがないほど目をキラキラとしていた。


「……百円をやる。この中で好きなもの買え。ほらノーラも」


 これで二人とも十分に買えるだろう。何か失念しているような気がするが、まあいいや。


「外で待ってるから終わったら出てこいよ」


 そう告げて表に出る。

 ………………。


「これとこれと、こっちも」


 元気な宇柚の声が耳に入ってくる。


「ちょっと百円じゃ足りないさね~」


 困った声のおばあちゃんの声も聞こえる。

 ……宇柚はまだ計算できないじゃん。三歳だろ、そりゃそうだ。

 仕方なしに店に入って宇柚をなだめる。両手いっぱいに抱えすぎていて前が見えていない。とりあえず、置くように言って、


「一番ほしいものそうだな……五つ選べ」


 矛盾しているが、そんなこと気にしない。えーと言いながらも何とか選び出し、あとちょっと買うことができる。あめ玉なら三つオッケーだと許可を出し支払う。

 さすが明日から三年生のノーラは一人で買い終わっていた。


「十円足りなさね」

「え、ほんとっ?」


 ………………。

 ミスってんじゃん。しっかりしてくれよ三年生。


「……どうしよぅ」

「しかたないさね,まけてやるさね百円でいいさね」


 よかったな、ノーラ。十円ぐらい出してやってもいいのだけど。でもここはおばあちゃんに甘えておこう。


「じー」


 ………………。


「あんたもまけてほしいのかいね?」


 コクリ。どうやらそのようだった。


「しかたのない子だね。じゃあ好きなもの一つ持っていっていいさね」


 うん、とうなずいて良いもの一つを捜索する。長いこと選んだ末に手にしたのはラムネである。十円以上するけど? いいのかな?


「ははは……しゃあないさね。それでいいさね?」

「うん」

「すみません……」

「いいってことだよ。これから来てくれんだろ? 投資ってことさね」


 そうですか。それならいいか。


「またおいでね~」

「うん。またくる~」


 ばいばい、と手を振っている宇柚。まあ、絶対かなりの数で来るだろうし。


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