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社会問題  作者: 中井仲
21/23

メイドさんとデート

「久夜様。買い物に行きませんか?」

「なに。まさかのデートのお誘いっ?」

「あら、そういうのであればそれでもやぶさかではありませんが……」


 無表情はやめてください。もっとあるでしょう、頬を赤く染めるとかさ。


「普通に買い物ですよね。そうさせてください。このとおり」


 土下座までしてしまいました。子供たちや朝葉には見せられない。

 あいつらはもう、学校やら幼稚園に送り出している。いくらノーラのお付きメイドさんだとしても学校までついていく訳にはいかない。宇柚がお母さんのもとにいるし。

 よって家にいるのは俺とレクルさんだけだ。店番をしているのだが、例によってこの時間にはお客さんはいない。最近は朝葉や子供たち目当てに来るお客さんの増えたのだが、みんな学校だからな。


「ふふ、久夜様がよければ私はいいのですよ。でもシャンプーや歯磨き粉などの備蓄が切れかかっていました。それで買いに行こうかと思いましたが、一人だけでは少し厳しいかと思いまして」


 搭載重量的にね。


「そうですね。じゃあ買いに行きましょうか。この際ちょっと遠出しましょう」


 運転免許は持ってるし、車もある。

 お爺さんの買った車だが。


「はい。お願いします」


 とまあ車で出かけることにしたのだが。


「すみません……その服はちょっと……」

「この服はダメですか?」


 くるりと一回転してその魅力と押し出してくるが、いかんせん、


「ええまあ。俺がどこぞの金持ちみたいになるし、それはいいんですけど。あんまりメイド服はみかけませんし、コスプレみたいなので……」


 いまだこの人はずっとメイド服なのである。


「しかし、久夜様。私はこの服以外に私服を持っていないのです」


 無表情で胸を張る所では無い気がしますが、レクルさん。

 そういえば入居する時もほとんど手ぶらで来ていたような……。ってそれも私服なの?


「服も買いに行きましょう、今日は朝葉のを借りていいですから」

「しかし、そういう訳には……」

「このとおりです」


 土下座した。本日二度目である。しかも、レクルさんだけにしてるし。


「あららら。顔をあげてください。承知致しましたから」

「ホントですか?」

「はい」


 で。


「ちょっと胸のところがきついですが、大丈夫です」


 朝葉が聞いたらキレそうなセリフだった。朝葉も小さくはないとは思っていなかったが、それよりは大きかったようだ。「服が伸びちゃうでしょ」とか言って俺をこかすのではなかろうか。



「俺が運転しますよ」

「それには及びません。主人を世話するのですから、メイドである私がいたします」

「メイド服着てないし……。俺のほうがこのへんの地理に詳しいし」

「む。しかし……」

「男の尊厳として俺にさせてください。このとおりです」


 二度あることは三度ある。三回目の土下座である。

 やっと譲ってくれた。一時間に三回の土下座とかどうなってんだよ。俺の土下座安っ。大安売り傾向にあるのか。少しぐらい自重しないと、土下座の価値がなくなってしまう。


「……ではお任せします」


 乗り込んだはいいが、静か過ぎる。子供たちがいなかったらこんな感じなのだろうか。知らなかった。

 さて、何を話そうか。


「久夜様はノーラ様のことをどう思っていらっしゃいますか?」

「え、あ、……俺のこと様っていうのはやめてくれませんか?」


 あまり追求されたくない話題なので話を変えてやった。ロリコンとか疑われても困るからな。


「よろしいけれども、それでは、私に敬語はやめていただきたく……」

「俺にも敬語は無しの方向で……」

「では、交換条件ということにしましょう、こちらは久夜さんと呼びます。久夜さんは敬語はやめてください」

「えー、……じゃ、そうしましょう」


 今度また交換条件になるのを見つけて、敬語をやめてもらうことにしよう。


「で、ノーラ様のことを?」

「答えなきゃダメですか……? そうですね……うるさくて小さくて……かわいい、かなぁ」


 当たり障りのない答えを言ったつもりなのだが、


「そうですよね。よかった仲間がいました。そうですよね、ノーラ様の頬をナデナデしたいですよね。おしり掴みたいですよね、髪の毛を梳きたいですよね。薄っぺらい胸にスリスリしたいですよねえ」


 いえ、したくないです。

 何この人、真性のロリコンッ。俺を仲間認定しないでください。

 それに、


「レクルさん、ノーラにそんなことしてませんよね?」

「もちろんじゃないですか。まだ、直に触ったことさえありません。もし近寄って、嫌われたらどうしてくれるんですか、それだけは、それだけは避けないと」

「はあ……」


 自覚あるのか。危ない人かと思っていたけれど、すこし警戒を解いてもいいかも……。

 しかしこの後の車内、ずっとノーラがどれだけ素晴らしいかを聞く羽目になった。



 ようやくデパートに着いた。長い道のりだった。体感時間で所要時間の倍はかかった気がする。

 買うものが増えたので総合雑貨店であるデパートにすることにしたのだ。


「女性用服屋はこっちですよ」

「ええ」


 なぜか朝葉が、よく俺と服屋に来たがるので店のマップは完全に把握している。それにしても服ぐらい俺じゃなくて友達と行けよな。男の俺を誘ってなにになるんだ。自慢じゃないけどセンスに自信なんてこれっぽっちもないぞ。

 レクルさんも朝葉と同じように服を取っては戻し、取っては戻すを繰り返している。女性はこういうものなのだろう。おとこの俺は直感で選んでしまうのだけど。

 女の買い物には時間がかかることはもう、朝葉で理解しているので苦ではないが、嬉しくもない。


「着てみたらどうですか?」

「いえ、買わないので……」

「え、なんでですか。今のとか良かったじゃないですか」

「ええ……しかし恥ずかしながらお金を持っていませんので」


 あー。そういえば何も持ってきていない人でしたね。買うために来たのにそれはどういうことですか。まあ、外国貨幣ならまだしも日本貨幣だからな。


「それなら、俺が払いますよ。任せてください。断るのなら土下座しますよ。先に言っておきますけど」


 公共の場で土下座したくないので、先に言っちゃえばいいのだ。脅したみたいになっているけれど。


「しかし、世話になる身ですし……」

「プレゼント。引越祝いということにしましょう。……土下座しますよ」

「それならば。ありがとうございます」


 どんどんカゴに入れていくんですが。レクルさんの遠慮がちなところを見るとそんな莫大な金額になるとは思わなかったのだけど、ヤバイのでは? ここで言う『莫大』って俺の小遣いより多いことだよ。


「レクルさん……? もう少し抑えてくれませんか……?」

「プレゼントですよね」

「いやあの……」

「プレゼント」

「でも」

「プレゼント」

「すみませんでしたっ」


 男に二言はない。そういうことにしてくれ。女に弱いわけではないよ。


「じゃあこれも」

「子供服はいらないでしょ。いくらノーラに似合うからってそれはプレゼントの範囲外です」

「えー。まあいいですけど」


 思いっきり不満があるみたいですね。無理なものは無理です。不許可です。


「次はこっちです。久夜さん」

「ランジェリーショップは無理です。外で待っときますから、終わったら呼んでください」

「え、見てくれないんですか」

「いいんですか?」


 こう答えてしまうのは男の性です。許してください。


「ダメに決まってるじゃないですか。久夜さんってばー」

「……もういいです。見ませんー。見ませんからー」


 子供たちも朝葉もいない、普通の買い物のはずなのにかなり疲れる。

 この店の表で待っていると言っても、これほど居心地が悪い場所が体験したことはない。

 隣に百円ショップがあった。百均である。

 百均って俺、好きなんだよ。いろいろ面白いものがたくさんあるからな。

 お、このリモコン立ていいかも。あ、こっちのほうが……。

 などと適当に物色していると、


「こんな所にいましたか、久夜さん」


 レクルさんの声が。


「あ、すみません」


 そちらを向くと。


「っておおぉぉぉい。なんでその格好で。服を着て服をっ」


 下着一枚でいるのでした。あと少しで生まれたままの姿になる状態。薄い肌色に三箇所の薄赤色の三角形が眩しい。


「お、お客様っ」


 そりゃあ慌てるよ、ランジェリー店の人も。


「お客様。お戻りください。せめてこれだけでも羽織ってください」


 気を利かせてくれた店員さんがバスローブをかける。なんか手馴れているけれど、こんな人がたくさんいるわけじゃないよな……? 信じているよ。


「久夜さんに決めてもらいましょうと思いまして……。見えます? どうでしょう……?」

「どうでしょうって言われても……とりあえず隠しましょうよ」

「で、どうでしょう?」

「見せつけないでください。それでいいんじゃないですか……」

「もう。女の子にそれでいい、はダメですよ。彼氏失格です」

「はあ。彼氏じゃないですし」


 ちょっとショックであった。彼氏失格って……まあ、彼女ができたことがないのだからしょうがないじゃない。


「まあそうなんですけどね。雰囲気ですよ」


 はいはい、そうですか……。疲れたわ……。



 その後、別のお店でも、似たようなこと――上着やスカートを買うときも下着のままで試着室から出てきたり――があった。

 シャンプーや石鹸は無事買うことができたのだが。それはもう疲れた。今度は誰かと一緒に来て犠牲になってもらうことにしよう。この際子供たちでもいいや。

 


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