誘拐2
翌朝。
朝葉に家と子供のことを頼んだ。
もちろん、ノーラに会いに行くためだ。子供たちもついてこようとしていたが足手まといになりかねないので待機してもらうことにしている。
目指すはノーラの家族たちが出発しようとしている空港だ。
出るときに見送りに来た朝葉から「必ず連れて帰って来なさいよ。私の生徒なんだから。そうじゃないと、こかすわよ」とのありがたいお言葉をもらった。脅し文句がいつもと同じで朝葉らしい。ここで「殺すわよ」ぐらいだときっちり絞まると思うのですが。
ついでに店も任せた。
という訳で、昨日のテレビでやっていたとおり、ノーラが通る空港に来ていた。予想はしていたけれど人が多かった。しかし取材陣だけでなく一般人の見学者も入ることができるのは嬉しい誤算だった。
…………。
やっと一家が車から出てきて飛行機に入ろうとしだす。このタイミングしか無い。
「ノーラ! こっちだ戻ってこい」
人をかき分け警備の人に止められるところまでたどり着いた。
さすがにこの近さで大声を上げたのでノーラに気づいてもらえた。
「あ、久夜……」
「なんだこの平民は?」
となりの銀髪大男が見下してくるんですけど。まさにマフィアのボスみたいな顔立ちでこわい。本物のマフィアに会ったことはないのだけど、そこはそれドラマとかのイメージです。
「パパ……」
その人パパなの? 似てないよ。どのへんが親子なんだろう。銀髪だけが遺伝したのだろうか。
「―――――」
後ろに控えていた金髪巨乳メイドさんの耳打ちがノーラ父――王様なのだけど、に入った。
「なにこいつが例の……?」
「そうでございます」
「うむ、これをやる。さっさと帰れ」
「こんなものいりませんっ」
即決で小切手を渡されても。いくら0が並んでいたって、そんなものに屈するわけにはいかない。
「欲しいのはノーラの言葉だけです。少し話をさせてください」
なんのためらいもなく土下座した。衆目の眼前で。
「む、それが伝説のDOGEZAか」
パパさんなんか衝撃を受けているんですが。土下座とか普通にするんですけど、特に朝葉に対して頻繁に。年々増えていることが最近の悩みです。
「それならばしかたがない。少しだけだ」
「ありがとうございます」
これで少し余裕が生まれた。
なんか知らんが土下座のちからってすごいんだ。日本だからわからないけれど、外国じゃあ無敵の交渉術だったりするのかもしれない。……もしくはこの人が特殊だったりして。
「なんだ? 久夜」
「……ノーラ、お前はこれでいいのか?」
「……なにが?」
「いや、何かはわからないけれど……なんか悲しそうな顔してるからさ」
「し、してない……はずだけど……」
「いや、してるよ」
「してないもん」
「……ほんとはイヤじゃないのか?」
「そんなことはないっ」
予想していた以上の強い否定だった。気持ちの裏返しだろう。
「お父さんがいるからか? そんなことは横に置いとけよ。怖いのか?」
「そんなわけないじゃん」
俺は正直怖いけどさあ。
「じゃあ、梓たちとお花見は行きたくないんだな。俺の目を見て思っていることを言ってみろよ」
む、と一瞬つまり。
「私は…………わたしは……わた……し……は、………………………………学校に行きたい、いっぱい遊びたい、久夜と梓と裕太と宇柚と一緒にお花見に行きたいっ」
本音が出た。しかしいままでは前座。これからが勝負だ。
「聞きました? お父さん。父親として言うことはありませんか?」
「お前にお父さんと呼ばれる筋合いではない。み、認めんぞ。ノーラこっちに来い。行くぞ」
「いーやーだー」
「わしの言うことがきけんのか?」
「きーけーなーいー」
「なにを」
いくら嫌がっても所詮は小学生。成人男性の力にはかなわない。俺もやめるようにしがみつくのだが――ああ、男になんか抱きつきたくないよ――警備に引き剥がされてしまっている。
「やーめーて」
ノーラが騒ぐがなんの効果もない。ノーラの気持ちがわかったからには助けてあげたいのだが、こんなに無力だったなんて。
後、気がついたのだが取材陣やら他の人はこの展開が読めていないらしい。黙って固唾を呑んで見守っているだけだ。
「何をしているのかしら、あなた?」
「な、こ、これはだな……」
「ママ、パパがいじわるするの」
ノーラ母の登場らしい。着物を着て黒髪の日本人女性。大和撫子で間違いなさそう。目元とかノーラに似ているような……?
目に見えてノーラ父が怯えているし。力関係がすぐわかる構図だった。
「あらそう。うふ、ふふふふふ」
なんか怖い声がするのですけど、ノーラ母さん。
「い、いや、ちがう、ぞ?」
「では何をしていらっしゃるのですか?」
「それは、だ、な」
ノーラを小脇に抱えてすることなんてそんなにないぞ。というかあるわけがない。誘拐とかでない限り。
「……そ、そう。高い高いをしてあげていたのだ」
そんなわけないだろ、と見ていた人は思ったはずだ。みんなが思うわけだからもちろんノーラ母も……。
「そうなんですか? ノーラ良かったですね」
天然だった。
まさか通ると思っていなかったノーラ父も含め、殆どの人があっけにとられて沈黙した。その間に被害から素早く回復した例の金髪巨乳のメイドさんが事情を説明する。よくできたメイドさんである。
「あらそうだったんですの。あなた、許してあげなさい。さもないとキライになっちゃいますよ?」
「わ、わかった、ノーラのことはお前に任せる」
弱っ。お父さん弱すぎやしませんか。
どれだけ尻に敷かれている父親なんだよ。その顔で。
「はい。……あなたが久夜さん? いつもお世話になっています」
「あ、は、ハイこちらこそ」
「娘のこといろいろありがとうございました。よろしければこれからもお願いできませんか? 昨日、娘と話をしまして、あなたのことを娘はとても信頼しているようなので。詳しいことはまた後日伺いますので。いいですねあなた?」
「うむ、良きにはからえ」
「ではこれで失礼します」
親子三人とその他諸々はホテルの中に入ってしまった。
終盤あっさりとした展開だったが、うまくいったのか? わからん。




