誘拐
「ノーラが誘拐されちゃった……?」
「はあ?」
思わず聞き返してしまった。ちゃんと聞き取れていたのに。つーか、梓も疑問形なんですけど。
「だから、ノーラが誘拐されたの」
「で?」
「で、って……」
「とりあえず落ち着こう」
自分でもわかるほど落ち着いていないのは僕の方だ。こういうときは深呼吸だ。スーハー、スーハー。
よし、落ち着いた。
「梓、始めっから説明してくれ」
「はい。学校が終わって帰る時だったんですけど。黒塗りの長い車が止まって私達に声をかけてきたんです。びっくりしました、後ろの席がお互いに向くような車だったですから。漫画でしかないのだと思ってました。」
ほんとに実在するのかリムジン。興味なさそうだとにもわかるような小学生にもわかるような高級車は。俺も見てみたかったな……。
「それで『この道をどう行ったらいけるのかな』って聞いてくるので、道を教えてあげたんですけど。よくわからないからってノーラを『おかしあげるから、一緒に乗って教えてくれないかな』ってサングラスかけたメイドさんが言って。ノーラは――」
「ホイホイとついて行っちゃったというわけだな。宇柚じゃないんだから……」
「宇柚がどうしたのら?」
「宇柚、車乗った人に『道教えてくれない? お菓子あげるから』って言われたら?」
「もちろん教えてあげるのら」
「『分からないからそこまで乗せていってもいい?』って聞かれたら?」
「乗るのら」
ダメだった。こいつも誘拐されるわ。そんな誘いに乗ったらダメだからな。わかったか、宇柚。
ちゃんと言い含めることにするが、それはまた後で。まずはノーラの方である。
「私は反対したんですよ。誘拐だって」
「さすが梓だけど。あのアホは……はあ。どこ行くって言っていた?」
「市役所って言っていたけど……」
それは本当にそうだろうか。適当に言っただけだろうか。メイドや高級車を持つ人が誘拐なんてするだろうか。金目的ではないのか。じゃあ何のために?
「警察へは……やめといたほうがいいか。まだ誘拐と決まったわけじゃないし。そのうち帰ってくるかもな」
「……そうですね」
実際、保護者を自認する俺は居ても立ってもいられないのだが、そこは遊びに行ったのだと思うことで折り合いつけた。
*
その晩。
そろそろ帰ってこないと心配になるような時間。
もう他の子供達は夕食を食べさせた後。
『あーもしもし。轟木様のお宅でしょうか』
「そうですけど」
突然電話がかかってきた。突然でない電話も少ないのだけど。
もちろん新聞の勧誘とか、家庭教師の勧誘とかかと思った。大学生を卒業した今でも「家庭教師は要りませんか」との電話がかかってくるのである。「家庭教師をしませんか」ならともかく、何を勉強させる気だよ。数学か? 晩御飯作り方か?
どちらにしても要らん。
だが、今回は違うかったらしい。
『私、ノーラ様の身柄を預っている者です。あぁ、ノーラ様の安全は私たちの命に変えましても保証します』
命に変えて保証されても、会ったことのないのにどう信じたら良いんだ。
「なに?」
『簡略しますと誘拐犯でございます』
そういう意味の返事ではなかったのだけど。
「し、証拠は?」
『えー足のサイズは十六センチと申しておきましょう』
「それが証拠になるか」
思わず突っ込んでしまった。だってねえ。シリアス展開のはずなのにボケられても困るわ。
そのおかげかどうかわからないが、騒ぎを聞きつけた梓、裕太、宇柚が集まってきた。
『では、身長は……百四十・五センチでございますね』
「身長百四十・五センチ……それぐらいか……いや、だからそれも証拠にはならないから」
梓が身長のあたりで頷いている。身体測定が昨日今日にあったのだろうか。だからって同じような年の子供ならだいたい同じぐらいの背丈になるのではないか。
『それならば、私達を一方的に信用してもらうしかありません。こちらがノーラ様を預っているのを轟木様が信じた、として話を続けさせてもらいます。こちらからの要求はありません』
要求がないって、じゃあ何のために誘拐したのかわからないだろうが。
『強いてあるのならばこのことを大袈裟にして関わってほしくないのです。警察に通報してもこちらから手を回しているので無駄でございます。しかたがないものとしてノーラ様を忘れてください。今までのお礼として相応の金額を振り込ませてもらいます』
俺の口座までバレてるのかよ。何者なんだこいつは。
『ではこれで。ノーラ様のことは綺麗サッパリお忘れください。それでは』
「お、おい待――」
きれた。
なんなんだこいつは。かなり丁寧な話口調だったし。敬語だし、誘拐したノーラ『様』だし。変な誘拐犯である。
「忘れろって……忘れれるわけがないだろうがっ」
保護者としてそれだけはできない。保護者失格もいいところだ。
「ノーラは帰ってくる?」
「裕太は心配しなくても大丈夫だ。必ず帰ってくるから安心して寝てろ」
宇柚にも言い聞かせるように言う。
必ず帰ってくると子供たちに約束した。これだけはなんとしても叶える。
しかし、家庭科や社会だけ得意な俺に何ができるのだろうか。ノーラの居場所さえ……。
「久夜さん。見てください」
テレビを見るように促したのは梓だ。なんの目的もなくニュースを流していたのだが、それを見るように言うのだ。
「なんだ。こ、これは……?」
とりあえず、この場面で意味のない事を言うような梓では無いので、目をやると。
綺麗におめかししたノーラがいた。
流しっぱなしのロングな銀髪を結って超上流階級が着るようなドレスを身に纏いベンツに乗っているではないか。
テロップには、『フェイツ王家・明日帰国』との文字。銀髪の子供がドレスを着て歩いている。ズームしてくれないので確認はできないが、遠目から見るとノーラだった。
俺達は知らなかったが、ノーラは王女だったのだ。
「…………」
俺と梓、裕太はもう絶句だった。あの気軽に話していたノーラが王女様だったなんて。
「ノーラは王女様なのら? おうじょおうじょおうじょぉぉ」
宇柚だけがいつもどおり(?)だった。幼児には位の違いなんてこれっぽっちも関係ないのだろう。
俺も実感しているわけでないけれど。
ノーラの話は聞きに行かなければならない。本当にそれでいいのか。確かめないと。
その悲しそうな顔をしている訳を。
もう連続投稿は当分できません。一週間は開けないように投稿していきたいです。




