社会問題 神話
「神に誓えるのら?」
「もちろん」
は? と思った人いる? 俺は思った。
「うにゅー。じゃ、おやつ食べてないのら?」
「うん、わたしじゃないよ」
「じゃあ、だれなのら」
「うーん……」
「どうしたんだ、宇柚、ノーラ?」
「うーんとね、うゆのおやつがなくなったのら」
こいつらは……。おやつの取り合いかよ。お前のおやつはみんなのものだ。一人だけに買ったつもりはないのだけど。
この場には俺、宇柚、ノーラの三人だけだ。裕太は昼寝してるし。梓は部屋のほうで何かしている。
部屋というのはいつも眠っているところ。もう個人の物のように一部屋あげた。一人部屋ではないけれど、ちゃんとした部屋をあげるのが小学生には早いとは思ったが、自分の子供ではない子供ではないことだし、プライベート空間が必要だと考えたのだ。
「はあ……なんの?」
「じゃがりこ」
「あ、俺が食べたわ」
「なにー。キューがたべたのら。うわ~ん」
宇柚が泣きだしてしまった。
嘘泣きだけれど。
最近この子が嘘泣きを習得して手間がかかるようになったのが気がかりである。
「あ、ごめんごめん、今度買ってやるから」
大体このお詫びでなんとかなるのだ。この子だけは。まだまだ赤ちゃんだという証拠だろう。
「うー、ふたつ」
今日は初めてのパターンだ。個数を言われたことなんてなかったのに。……ついに個数を増やすという知恵までつけやがって。
「……しゃーないな、いいよ」
「やったー」
どうやら一件落着したようである。簡単。
「ねーねー、そういえば神様ってどんなの? 手がいっぱい生えてる仏像みたいな?」
仏像を知っているのか。よく知ってたな。
「神様? うーん、いろいろじゃないか」
「いろいろってどんなのがあるの? 一人じゃないの?」
「日本には八百神といってな、どんなものにも神様が宿っているとされているんだ」
キリスト教やイスラームでは唯一絶対神とひとり(?)だけ信仰しなければならないらしいけど。
「じゃあ、日本にはどんな、どんなのがいるの?」
「有名所はアマテラスやイザナミ、スサノヲとかかな?」
「あ、それ知ってる。ナルトであったぞ。黒い炎とか手が生えてた」
「それは……日本神話から来てるんだろうな」
「そうなんだー」
「なんの話ですか」
梓がやって来て話に加わる。部屋で勉強でもしていたのだろう。えらい。知らんけど。
「うん? 神様の話だ」
会話に入れてやるために端的に教えてやる。今日はこの話題が続きそうな気配だ。
「神様ですか……マリア様とかですか?」
「まりあ? それも神様なのか?」
「なんていうか微妙なところだけど、キリスト教にでてくる人だよ」
「きりすと?」
「そうそう、外国の信仰のひとつだよ。日本じゃあ仏教だし、ヨーロッパならキリスト教だし。ほかにはイスラムや儒教とかもあるよ」
「どうやってその人の信仰がわかるの?」
「似ているのはあるけど、わかりやすいのは、結婚式と葬式かな」
これらが見るだけでわかるだろう。大きな範囲だけだけれど。もちろん素人には仏教の中で浄土真宗か浄土宗かはわからないけどな。
「じゃあ日本人は……あれ?……どっちもやってますよね。結婚式は教会ですし葬式は仏壇ですよね」
「それはね、さっきも言ったように八百万の神といって、たくさんお神様が住んでるから結構日本人は曖昧なんだよ。一年にクリスマスとかお正月とか節分とかハロウィンとかしてるだろ」
「じゃあわたしはキリストにする」
それ一個に決めたってこと?
「うゆはうゆは……おしょうがつがあるやつ」
宇柚もノーラに対抗するが。
「キリストと言ったらクリスマスだが、正月はいらないのか?」
「うんいらないっ」
ほんとにいいのかなあ?
子供だけの特別プレゼントが正月にはあるのだけどなあ?
「へーそうなんだ。じゃあノーラはお年玉がいらないと」
「いる、それはいる、お正月もいる。一個に決めたらだめだよな。日本バンザイ」
一気に自分の言を翻したな。
「ねーねー、キュー、にほんしんわってどんなんなのら」
珍しく、宇柚が食いついてきた。宇柚も見ていたナルトに出てくる単語でもあるので、興味があるのだろう。アニメってすごい。
「日本神話の簡単のところを説明しよか。まずね、男の神様イザナギと女の神様イザナミがいて『国作ろっか』って日本は海をかき混ぜて作ったんだ」
「すげー、カレー作ってるみたい」
確かに炊き出しみたいではある。
まあ自主的にではなく別天津神に命じられて、だがな。
「それで、ふたりは結婚してたくさんの神様を作って八百万神ができたんだ」
詳しくは知りません。多分そう。合ってるかもわかりません。また調べなければ。
「あまてらすは? すさのおは?」
須佐さんの尾みたいになってんぞ、イントネーションが。
「うーん……アマテラスはね……。太陽神っていって神様の中で一番えらい神様だったと思うけど。まあそのすごいやつに、暴れまわっていたスサノヲが謝ったとかだったかな」
「アマテラスは太陽だったんですね」
「絶対こうピカーって光ったな。頭とか」
おいノーラ。それは禿げて太陽が反射したからだろ。
「あまてらすビームなのら」
「そうそう。あまてらすビームッ」
なにそれ怪しい攻撃方法。完全に目眩まし用じゃん。ノリノリのところ悪いんだけど。
「アマテラスは女だぜ。古代の巫女だったらしいし」
あとで調べたんだけど、髪型も気にしていたし機織りも得意だったみたいだよ。
「スサノヲのお姉さんがアマテラスだったって。スサノヲは暴れん坊ですごい強かったんだって。あ、でも謙虚いい神様みたいだよ。スサノヲで有名なのは草薙の剣だね」
「あ、それ知ってます。確か三種の神器の一つですよね?」
「よく知ってるな」
「三種の神器ってなに? 強い武器なの、エクスカリバーみたいな」
一つ目が剣だとわかった時点で武器関係の単語と思ったらしい。当たらずとも遠からずと言ったところか……。違うな。ぜんぜん違うな。カレーとビーフシチューぐらいには違うな。つーかエクスカリバーって外国ものじゃん。
「違うぞ。三種の神器はな。草薙の剣である天叢雲剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉だよ」
「む、難しい言葉だな……やたのかがみってどんな鏡なのだ? しゃべるのか? 『あなたが世界で一番美しいです』って」
「さ、さあ? それはないんじゃないの……」
お前、外国人なのに白雪姫を知ってるのな。……あれ、外国でも知られて……るわな。ディズニーにあるし白馬の王子様が出でくるし。もともと外国のお話だっけ。
「もう一つは、たま?」
「そう。勾玉。ネックレスみたいなものだと思うよ」
「ダイヤモンドみたいにピカピカしてたのか?」
「さあ? ってどれだけ神様を光らせたいんだよ」
「神様ってキラキラしてないの?」
「知りません」
基本、神様ってのはイメージだからな。
「で草薙の剣は?」
「あ、ああ。スサノヲは暴れていた怪獣、八岐の大蛇を倒してその体から出てきたのが草薙の剣だ」
「八つもまたがあるのか。あしが十六本もあるのか……。歩きにくいだろうなあ」
その考え違いはわからないこともないけど……。
「いやそれはもう……ムカデじゃないか」
つーか、足が十六本ならまたは十五個できるぞ。八個の股なら最低九本のはずだよ。
「首が八本なんだよ」
「うにゃー強そうのら。ドラゴンの9本の首ならあったのら」
「……まあ、そんな感じだよ」
ドラゴンではなくヒドラが一番近いけどな。正しくは大蛇だけど。八つの蛇が胴体でくっついたようで、視界は八倍だが、移動が困難そうだと思うのは俺だけだろうか。
俺こっち行きたい、僕はあっちがいい、みたいな……?
「蛇から剣が出てきたんですか……触りたくないですね」
俺も同感です。八岐の大蛇が毒蛇だったかは知らないけど。どれだけすごくて綺麗でも、体液でベトベトしたものは触りたくないよ。
「ぜったい、一緒にお金も出てきたと思う」
ノーラはもう、ゲームに侵されてますね……。
倒したモンスターから道具やお金がドロップするのってどう思う?
人より大きいドラゴンとかならまだわかるよ。人を飲み込んだ時に一緒に入ってしまった……とか考えられるし。でも人ぐらいの大きさの怪物だったら……?
人を食べたとは思えないし、体からマネーが出てくるのだから消化できているとは思えない。金貨食べたとは思えない……。
それなのにポーションとか出てくるってどうよ? あくまで薬だよ。瓶ごと出てくるの? 体液からすくうのか。大剣とか落ちることもあるのはどうするのだ。あ、それは敵の武器がありうるのか。でも武器を持たない怪物――スライムとかから落ちたりしたら……?
スライムなんかから拾いたくないなー。モロにネバネバしてそうだもん。
閑話休題。
本筋から関係ない話を長々としてしまった。
「そんな感じかな。詳しくはマンガにもなってるから読んでみたらいいんじゃない」
「おお、今度読んでみる」
神話話はようやく終わったようだった。




