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社会問題  作者: 中井仲
11/23

おかいもの

 土曜日。

 ノートを買いに来た。これがまたすっかり失念していなのだ。ランドセルと一緒に必要な文房具を買い揃えるのを忘れていた。

 鉛筆、消しゴム、筆箱。これらはしばらく家ので代用できたのだが、ノート類がなかった。百字帳というものもいるのか。

 ――とまあ、そこまで探すのが困難というわけでもなく買い物カゴに放り込む。

 あとは……。

 背の高い女の子一人がいた。近所の高校の制服を着てウロウロしているな。それは別段、おかしくは無い。俺達と同様に文房具を買いに来たのだろう。

 背は大きいといっても俺より少し小さいぐらい。普通の女子と比べると十分に大きい。それでもって、手足はスラリと長く容姿はまずまず。いやかなり上等。

 制服にボロボロのスニーカー。近所の高校生だな。

 目立たないように体を縮こまらせているが、その甲斐なく目立っている。

 しかも挙動不審。商品を探しているというより人を探しているよう。

 目立たないわけがなかった。

 目当ての物でもあったのか立ち止まり、ペンを手に取る。

 そして。

 そのままカバンに入れた。万引きだった。

 考え直してもらおうと後ろから、にじり寄り声をかける。子供たちの見本にならなければ、と思うからな。


「やめたほうがいいぞ……?」

「ひっ、きゃ」


 きづいていなかったのだろうか、怖がらせてしまったようだ。少女は驚いて逃げる。

 逃げちゃダメだって、本格的に万引き犯になるぞ。

 しかも体育会系か? 結構早いぞ。俺も思わず追いかける。なかなか追いつけねえ。傍から見たら痴漢とかに間違われるんじゃねえ?


「その子万引きよ」


 俺と同じように一部始終を見ていたのか、太った奥さんが叫ぶ。

 おい、この子の事考えてあげろよ。未遂で終わらすほうがいいだろ。将来のためにも。と思うがもう遅い。

 ガッチリした、少し小太りかも知れない警備員のおっさんが後ろから追いかけてきた。俺も足には自信があったけれど、俺よりも早いんですけど。

 途端に追いつくと羽交い締めにする。


「きゃ。離して、離してよ」


 少女は振りほどこうと暴れるが、大人しく離すわけもなく組み伏せられようとする。

体格では少女も不利ではあるが圧倒的ではないので、少女の抵抗をやめさせるまでには至らない。

 業を煮やした警備員さんが


「手伝ってくれっ」

 

 助けを求める。

 それに呼応して、近くにいた、いい年したオッサンやお兄さんが飛びかかろうとする。いやだってね、暴れたせいで少女の服が色々と、はだけているのだからね。

 万引きを捕まえるという名目でこの少女に触りたいと思っているのが、透けて見えるんですが。男の性ですね。

 魔の手から少女を救いたいと思うのだが、名案が思いつかない。

 放ってきてしまったノーラがようやく追いついて、一言。


「ピンクのパンツだ」


 必死にもがいているおかげで、スカートがめくり上がって、丸見えだった。


「え、きゃー」


 スカートを抑える動きのため抵抗をやめる。そのため、男らは二の足を踏み、「余計なことを……」ときつい目を向けたが、かわいいノーラが発したことがわかった時には、すごすごと引き下がる。おい、社会人ども、単純過ぎるだろ。


「うええーん」


 座り込んで泣いてしまった。自業自得なのだけど。


「なんでドロボーなんかしたんだ? いけないことだってわたしでも知ってるぞ」


 胸を張って言うことではないですよ。ノーラさん。


「はぃ、知ってますよぅ。ごめんなさいです」

「わかってるならなんでやったのだ。だめだろう」


 公衆の全面で高校生に小学生が説教するという異例の事態になった。


「あの、ここじゃあアレだからこっちで……」


 とりあえず移動して――俺やノーラも当然のようについていき(俺はノーラに連れて行かれた)――万引き犯の少女は警備員さんや店長さん、そしてなぜかノーラに、どれだけ悪いことかと説教されて一時間後、少女と俺は解放された。

 俺は何もやってないんですけど……。どっちかというと警備員さん側のはずなのですが。

 お店側の態度は優しく、彼女も反省しているということで親にも学校にも連絡はしないとのことだった。大きな理由は、万引きしようとしたのが、百円未満のペンだったからである。

 少女と俺たちは外に出て、


「なんで万引きなんてしたんだ?」

「うぅ、友達に『私達親友だよな』と万引きを命令されて……」


 なんて見本通りのイジメ&パシリなんだ。


「盗むことが友達につながるのか?」

「そんなわけないよ。どうせ万引きをネタに脅されるだけだよ。君は嫌なんだろ?」


 俺は経験ないよ。ドラマとかでそういうネタは多いじゃん。


「もちろんです。でもあたし、いつも一人ぼっちだったんです。だから話し相手が欲しくって……。ダメですよね……」

「部活とかやってたんじゃないの?」

「は、はいそうですけど……なんでわかったんですか?」

「いやあ、走るの早いしさ、曲がるのもこう、キュって感じだったし」

「そうかもです。私、バスケやってたんです」

「過去形?」

「はい。今年になって、先輩がタバコ吸っているのがバレまして……廃部になりました」

「そっか。……万引きもその友達?もやめときなよ。相談ならいつでも乗るから。俺、轟木久夜ていうんだけど、そこの喫茶店で働いてるからいつでも来てよ」

「わたし、ノーラだよ。小学3年生」

「うん、ありがとうございます、あたしは、合田与と言います」

「合田さん?」

「はい、でも苗字はあんまり好きではないので……ジャイ子とかよばれるので」

「ジャイ子?」


 日本文化に偏りのあって疎いノーラは首を捻るが、大いに納得できるな。


「じゃあ、与さん? なんか発音が悪い気がするな……与ちゃんでもいい? 俺のこと下で呼んでいいからさ」

「ええ、いいですよ、久夜さん。苗字じゃないので」

「ありがと、またうちの店寄っていってね。ノーラも待ってるからさ」

「はい、ありがとうございましたっ」


 体育会系的元気な挨拶で俺たちはわかれて、帰路につく。

 また会えるかもしれないという予感が俺はした。

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