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第一章 ドリーム・ダイブ

 

 それは不意に襲い来る忌むべき敵。静寂を打ち壊し、平穏を一瞬で奪う存在。


 澄んだ空気はまだほんのりと冷たく、射し込む朝日の熱は心地よい快晴の朝。毎日、来る日も来る日も決まった時間にやつはやってくる。

 けたたましい電子音と共に、狭間彰人は一気に現実へと呼び戻された。

「くっそ……また良いところで起こしやがって!」

 涎の跡と芸術的な寝癖を纏いながら、起きるなり目覚まし時計へと悪態を吐く少年、狭間彰人はごく普通の高校生だ。

 自らの役割を果たしたに過ぎない目覚まし時計を部屋の隅へと放り投げて、中指を立てて変顔を決めるのが彼の朝の日課となったのは高校に進学し、一人暮らしを始めて少し経った頃のこと。

 別段、これといった特技があったわけでもなかったが、たまたま参加した中学の企業見学会で行った脳科学研究所で、構造把握能力が常人とは比べ物にならないほど優れていると分かったのがきっかけで、県内……いや、国内有数の名門高校に推薦入学させられ、今に至る。

 生粋のめんどくさがりで、一人暮らしをいい事に、不摂な生活を続けているが、それを叱る母親も、諌める妹も此処には居ない。

「学校行くのめんどくせ」

 そう呟くのも彼の日課のひとつだ。

 とぼとぼと洗面所へと歩いていき、今日も芸術的にセットされた寝癖と格闘すること数分。顔を洗い、歯を磨き終わる頃には、黒髪短髪の好青年の出来上がりだ。

 決して俗に言うイケメンなどという部類ではないが、まだ幼さの残る顔立ちは、ちょっと生意気な弟キャラとして校内女子の間で密かに人気があったりする。

 ハンガーに掛けてあった制服に着替え、ベッド脇に置かれたスマートフォンを乱暴に卓上ホルダからひっぺがし、時間を確認してからポケットへと制服の放り込む。

「やっべ、やっべ」

 これも、毎朝のお約束。

 指紋認証式のドアロックを確認して、彰人は家を後にした。

 彰人の家から学校までは電車かバスでの通学が基本なのだが、彰人がまともな方法で登校した例がない。入学式の日でさえ、あろうことかヒッチハイクで登校したのだから(それも時間内に)驚きだ。

 その後、様々な登校方法を試した 。自身でバイクを用意するというのがもっとも効率が(睡眠時間的な意味で)いいと判断し、自作の300ccを組み立てて愛用している。

 当然のように免許はないのだが、このあたり一帯は全て学校の管轄で私有地になるらしく、一応違法とはならないのだが、校則違反であることは確かだ。

 ヘルメットををかぶり、バイクへとまたがると中央に設置されたタッチパネルに指を走らせる。エンジン始動をタッチすると、程よい唸りと振動が全身へと伝わり、彰人は身体を震わせた。

 学校へと向かうルートはいくつかあるが、最短となるルート以外、彰人に選択肢はない。

「行くかっ!」

 アクセルを捻り、走り出す。高まる駆動音と加速度に、もう何度目か分からない快感を覚えながら、彰人のバイクは市街地を走り抜けていく。車を掻き分けるように、すり抜けながら彰人はふと、違和感を覚えた。

「あの車ずっと……」

 気になったのは一台の黒い高級車。不思議なことに、家からの道中ミラーから姿を消したことは一度もないように思えた。

「ん?」

 瞬間、彰人は凍りついた。

 黒塗りの高級車から身を乗り出した、これまた全身黒服の男の手には、銃らしきものが握られていたからだ。

「物騒な世のな……かっ!」

 弾丸が掠めたのは自身の脇。ガードレールから火花が散り、彰人は青ざめた。

「俺? 俺? 俺なのか?」

 自問自答を繰り返しながら、彰人はアクセルを全開で駆け抜けていく。彰人の選んだ最短ルートは一般車両のほとんど通らない旧道を抜けていくものだ。そのため黒塗りの車が背後から居なくなるようなことはなく。命がけの鬼ごっこをやらされる羽目になっていた。

 だったら、ルートを変えてしまえばいいのだろうが、今の彰人の脳という名の低スペックなCPUでは、何とかして学校にたどり着くということしか考えられなかった。実際、名門と言うだけあって、セキュリティの類いはかなりしっかりしていると言えた。それに登校ラッシュの今ならば、沢山の人が居ることもあって、流石に手を引くだろう。と、思われるが、人通りが少ない場所といえ街中で銃をぶっ放すような相手に、常識がどこまで通用するのかは、神のみぞ知るといったところだ。

 そんな命がけの鬼ごっこをどうにか耐え抜き、学校まであとわずかというところまできた時、彰人にとって最悪の状況が訪れた。

「こんなときに工事なんてやってんじゃねぇ!」

 叫んでも状況は変わらない。止まれというサインを送っている作業員との距離はぐんぐん縮んでいく。止まらなければ、工事の只中へと突っ込むか、反対車線の車に突っ込むかの二択。かと言って止まれば、ただの的になってしまう。

 逡巡の末、彰人はブレーキへと手をかけて、減速することを選んだ。

「くっそ!」

 悔しさを吐き出すように、彰人はタッチディスプレイに拳を落とした。

 その瞬間、一際大きな轟音がひとつ響いた。

「え?」

 次の瞬間には黒塗りの車のフロントガラスが粉々に砕け散り、コントロールを失った車は、右へとハンドルを取られ、そのまま横転した。

「一体何がどうなって……ん?」

 バイクのディスプレイ、、先ほど彰人が拳を落とした場所に表示されていたのは、差出人不明のメッセージ。

『私たちは君の命を救った。今度は君の番だ。』 

 表示されたメッセージにはそう書かれていた。

「何なんだよ一体!」

 周囲は黒塗りの車が起こした事故でざわめいていた。黒煙をもうもうと上げる車の周りには、人が集まり始めている。この分ではすぐに警察もやって来るだろう。そうなればいろいろと面倒なことになるような気がして、彰人はそっとその場を後にした。

 

 †


「状況終了」

 荒廃した一室に響くのは低い女性の声。大型のショルダーバッグに鈍い光沢のある黒色の何かを納めながら、ヘッドセットへと言葉を返す。

「了解。戻ります」

 歩き出した女性の足音がしん、としたビルに響いていく。

「ですが、本当にそのようなこと可能なのでしょうか」

 長い黒髪をたくし上げながら、女性が訊ねる。

「はい、わかりました。では、後ほど」

 告げた後、一拍おいて通話終了をタッチする。ふと見上げた先の窓から覗く青空は、憎たらしいほどに澄んでいた。

 

 †


 学校にたどり着くことにこれほどの達成感と安心感を得られようとは思っても見なかった。

「おい狭間!」

 突然掛けられた声に驚いて彰人はバイクから転がり落ちた。

「学校前にバイクで乗り付けるとはいい度胸じゃないか」

 そこでようやく彰人は自分の居る場所に気がついて、驚愕に身を震わせた。

 登校時のラッシュということもあって、そこを通る学生の数は多い。我関せずという者もいれば、くすくすと笑いながら通り過ぎていく者、遠くから指を指して笑っている者もいる。

「いや、その、これは……えっと、あれですねぇ……」

 身振り手振りを使ってどうにか誤魔化そうとするが、もはや後の祭りだった。

 半ば引きずられるようにして生徒指導室へと連行された。

「やっちまった……」

 壁に立てかけてあったパイプ椅子を引っ張り出すと、腰を降ろした。

 程なくして明けられた扉から現れたのは、生徒指導を担当する、女性教師だった。

 凛とした印象を受ける鋭い表。きりっとした目は刺すような視線を放ち、たたずむ姿は孤高の花といったところだ。

「君のような生徒は初めてだよ」

 呆れたような口調で彰人の前に立った。

「あの、えっと、その……」

「ん? ああ、バイクの件のことなら気にしないでいい」

 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。

「私がここに来たのは別の件なんだよ」

 教師は部屋の施錠を確認して、彰人と同じようにパイプ椅子を引っ張り出して腰を降ろした。

「君は狙われている」

 何の前触れもなく、教師は告げた。

 血の気が引いていくのが自分でも分かった。足の先、指の先から熱が失われ感覚がなくなっていく。

「心当たりがあるのかどうかは知らないが、君にはなんらかの価値があるらしい……いや、隠す事もないな。君には価値がある。君の持つ力を上手く使えばいろいろなことが可能かもしれないね」

「俺の力?」

「そう。君の構造把握能力は人並みはずれたものがある。あのバイクも設計図面を見ながら組み立てた、違うかな?」

 その通りと言えばその通りだった。別に機械に詳しかったわけではない。ただ、図面を見ればなんとなく分かるのだ。それがどういった風にくみ上げられ、どう動くのか、そんなイメージが脳内で形成されるのだ。

「でも、そんなの別に……」

 凄くなんてないと思う。そう言おうとして、止められた。

「凄いわ、十分にね。そこで提案なんだけど、あなたの身の安全と引き換えに力を貸してくれないかしら?」

 そこまで言ったところで、チャイムが鳴り響いた。

「もし興味が少しでもあって、気になるようなら放課後に研究棟の方に行ってみるといいわ。一応、言っておくけどこれは強制ではないし、あの連中のように君をどうこうするつもりもない。だが、この申し出を断れば、たとえ君が不幸な事故に巻き込まれたとしても私たちは一切関与しないことは伝えておくわ」

 それは事実上の脅迫だった。

「そんなの警察に!」

「ご自由に。でも忘れてない? この辺り一帯は全て学校の私有地。警察は基本的に民事不介入だし、この学校いろいろ灰色だし?」

 最早、うな垂れるほかに出来ることはないような気がして、彰人はがっくりと肩を落とした。

「君のバイク、教職員用の駐車場において置くからちゃんと持って帰れよ、って聞いちゃいないか」

 様々ことが脳内をぐるぐると巡り、気がついたときには放課後で、その日の授業のことなど何も覚えていなかった。

「どうすっかなぁ」

 ベンチに腰掛けて頭を抱えて蹲る。

「すっげぇ憂鬱だ」

 それでも彰人は研究棟へと足を向けた。

 命を狙われたから、脅されたからというのもある。だが、初めてだったからかもしれない。自分の事を誰かに必要としてもらえた事など、生まれてこのかた一度もなかったのだ。

「話だけでも聞いてみるか」

 呟いて、見上げた先には脳科学研究部の札が掛けられていた。


 †


 人は夢を見る。

 睡眠というメカニズムの中で、脳が作り出す仮想の世界。

 それが『夢』――。

 昨今の科学の進歩によって、この夢へと進入することが可能になったのは、つい最近に発表されたばかりのことだ。

 夢の中へと潜り、記憶へと介入するこの技術は、多くの国で物議をかもし出した。だが、度重なる審議の末脳の構造研究や医療目的という名目で認可する国がほとんどであった。

 こうして、夢へと侵入する技術は瞬く間に広まり、今では一般企業でさえも利用している。

 だが、その裏でこの技術を悪用しているもの達も数多く存在していた。この技術を応用すれば、人の脳は極めて優秀な記憶媒体となりえてしまう。

 外部からインプットした情報を本人でさえ認識出来ないようにすることはもちろん、記憶そのものを書き換えてしまうことで、さも別人として振舞うことも可能なのだ。

「私は誰?」

 鏡に映る自身へと語りかける。

「あなたは誰?」

 だがその答えを知る者はいない。

「この記憶は誰のもの?」

 自分のものであるはずの記憶さえ、不確かなもので、真っ暗な闇の中をずっと歩き続けているような気分になる。

 次の一歩、その先には足場がないのかも知れないという不安、恐怖。

「でも……」

 ついに自分の記憶を開放出来る可能性が生まれた。

「狭間彰人」

 渡された写真を眺めながら、彼女は嘆息する。

 この男に全てを委ねて、果たして大丈夫なのか。彼の能力は聞かされているし、理事長のバックアップもある。

 それになにより、もうこれ以上自分という存在を欺くことは出来そうもない。

 頬を伝う暖かい感触。

「私、泣いて……」

 実感のない涙を拭い、鏡の自分へと向けて彼女は呟く。

「あなたを殺す」


 †


 応接室へと通された彰人は、白衣を纏った初老の男に促されて黒革製のソファへと腰を下ろした。

「いやー、本当に来てくれるとは思ってなかったよ」

 少し枯れた声で、うなずきながら男は笑っていた。

 部屋の中は思っていたよりも広く整頓こそされているものの、見渡す限り本棚で埋め尽くされているといった感じだった。

「あ、挨拶がまだだったね。私は諌山秀雄。この研究所での責任者、ということになるな」

 内ポケットから名刺の入ったケースを取り出し、一枚を彰人へと手渡した。

「いやね、黒川君に君の事を訊ねたら、何とかしてくれるっていうから頼んだんだけど、まさかこんなに早く来てくれるなんてね。いや、全くすばらしい」

 何がすばらしいのかはさておいて。彰人は黒川という人物があの生徒指導の教師だということを思い出して、納得した。

「それで、俺になにかあるんですか?」

 尋ねると、待ってましたといわんばかりの形相で諌山は話し出した。

「君も記憶への侵入が可能になったことはしっているね? 実は君に折り入って頼みがある。内容まで先に説明するけど、ある女の子の記憶には本人も認識できないブラックボックス、通称『アトラクタの箱』と呼ばれる領域があるんだが、その所為で彼女は自分自身を見失いかけているんだ」

 出されていたお茶を啜り、諌山は続ける。

「このままでは精神的に異常をきたしかねないし、何より彼女の命が狙われているとなれば放ってもおけないだろう? 彼女の父は有名な科学者だったのだが、つい先月頃、不慮の事故でなくなってしまってね。どうも最後の研究の成果を最も安全で大切な物の中に隠したようなのだが、それが未だに見つかっていないのだ。軍の技術開発にも関わっていた偉大な方だったから、どこぞの組織が利権目当てにあの子を狙う可能性は十分にある。自分の娘なら最も安全で大切なものという条件も満たしているし、自分の娘の脳波パターンの解析データも枯れのデータベースから見つかっているらしい」

 再びお茶を啜る。

「それで、俺に一体何をさせようって言うんです?」

 彰人がそう言うと、諌山は目をぱちぱちとして、涙を浮かべた。

「おお! おお! 引き受けてくれるのか!」

「いちお、俺の命も掛かってるんで」

 彰人の両手を掴み、上下に激しく揺さぶりながら感激している諌山に一応、伝えておいたが聞いていない様子で、なにやら次から次へと喋っていた。

 諌山が落ち着いたのはそれからしばらく経ってのこと。

「いやーすまんすまん。つい感動してしまって熱くなってしまったよ」

 薄い頭を掻きながら、諌山が頭を下げる。

「改めて、君にお願いしたい。彼女の夢へと侵入して彼女の中に封印されている記憶の中身を確かめてほしい。危険は確かにあるが、そこは我々が全力でサポートする。真実を知れば彼女を狙う組織にも対応し易くなるだろうし、何より彼女も救われる」

「俺の身の安全も保障してくれるだよな?」

「もちろんだ。これは理事長も承認されている。引き受けてくれるのならば、この学校の警備部が全力で君の安全を守ることになっている」

 彰人は少し間を置いて、決心する。

「分かりました。引き受けます。だけど、これはこの研究所のためでもないし、その記憶の中身のことでも、ましてやその女の子の為でもありません。自分の身を守るためにそうするだけです。もし約束が違うようなことがあれば俺は降ります」

「いや、それで構わないよ。引き受けてくれたこと心から感謝するよ。ありがとう」

 先ほどとは違い、諌山は深く、深く頭を下げた。

「早速で悪いのだが、今日はまだ時間あるかい?」

「はい?」

「こっちとしても君の脳波データも取りたいし、君自身、夢の中がどうなっているか知りたいだろう?」

 言われるがままに案内された一室にはカプセル状の機械が二台並べて置かれ、そこから無数のケーブルが床を覆いつくすように伸びている。

「ここにあるのは少しばかり旧式の物でね、本来ならヘッドホンとベッドがあればいいのだが、色々とデータを取る機能なんかも付加したら、少々無骨になってしまってね。だが安全性は保障するよ」

 諌山はケーブルの隙間を慣れたように踏み越えて、コンソールを操作し始める。

「狭間君は先に横になっていてくれ」

 言われた通り、彰人は何度も躓きながらもたどり着いたカプセルの中へと潜り込むようにして横になった。

 入ってしまえば思ったよりも内部は広く、快適と言えた。

「それじゃ、閉めるよ」

 告げて直ぐにカプセルは空気の抜けるような音を立てて動き出した。

開いていたカバーが閉まり、顔の正面に画面が浮かび上がる。

『Dive Restoration Entirety Archive Memory System』

 表示された英文の頭文字がつながり、夢を意味する単語へと変わる。

「それじゃ、始めるよ」

 スピーカー越しに諌山の声が響き、彰人は「いつでも」と答えた。

「目を閉じて、深呼吸。リラックスして頭の中を空っぽにする感じで」

 静かな空間に聞こえるのは自分の息遣いと鼓動の音。

「同期確認。ドリームダイブ開始!」

 諌山がエンターキーを叩いた瞬間、彰人の意識は深い場所へと落ちていった。


 †


 全てが終わった頃には、外はもうすっかり暗くなっていた。

「今日はありがとう。もう随分と遅くなってしまったし、今日の所は黒川君にでも送ってもらうといい」

「いえ、大丈夫です。自分のバイクもあるので」

 会釈しつつ告げて、彰人は研究室を後にした。

 裏口を抜けて教職員の使う駐車場へと向かう。スマートフォンとのGPS連動機能のお陰でバイクの位置は直ぐに分かっていた。

 初めての夢の世界の感想は文字通り夢のようであった。

 今なお興奮は収まらず、手が震えたままだ。

 もっと、もっと潜りたい。そんな風にさえ思っていた。

 今日は色々なことが一度にあり過ぎた。

 だが、その全てが霞んでしまうほど、夢の世界は衝撃的だった。

「また明日……か」

 諌山は明日までにはデータを調整して、明日からは問題の少女の夢へとダイブすることになるだろうと言っていたのを思い出した。

 まるで遠足前の子供のように落ち着かない。帰りの道中も意識の半分はずっと夢の事を考えていたほどだ。

「どんなやつなんだろう」

 明日会うという、その子は一体どんな女の子なのだろう。考えれば考えるほど、より好奇心が刺激され、落ち着かなくなっていく。それでも、身体は疲れていたらしく家に帰るなり、彰人は制服のままベッドへとダイブすると、そのまま眠りに落ちていった。

 

 ベッドの脇にはいつもと変わらない位置に目覚まし時計が置かれていたことに彰人が気づくことはなかった。

  

  †


 彰人が帰った後、諌山は今日の実験結果を纏めていた。

「どうでしたか、諌山先生」

「おお、黒川君。なんというか、もう驚きという言葉以外出ないよ全く」

「ああ。彼の力は本物だよ。これならば恐らくあの子の夢もクリアできるだろう」

「ならば結構。引き続きよろしくお願いします」

「わかっておる。明日には始めるつもりだ」

「良い結果を期待してます」

 そう言って黒川は部屋を出て行った。

 一人残された諌山はデータを見ながら思う。

「皆、夢を見ているのかもしれんな」

 その言葉が誰に向けられたものなのか、知る者は誰一人としていなかった。


 第一章 終わり

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