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雨季の到来。
一年で一番憂鬱な季節がやって来た。
雨季がやってきた。
冬の始まりを告げる、僕にとっては一年でもっとも憂鬱な季節だ。
僕を含めて『炎熱魔法』の使い手には水の気は有害ではないけれど、かと言って無害でもない。いつもより魔法の精度は落ちるし、威力も下がる。
もちろん僕だって人間だから、水がないと生きていけない。けれど、それとこれとはまた別問題なのだ。
「マリト、大丈夫?」
サエナが心配そうに僕を覗き込んできた。
「元気ないなあ。雨季の時はいつもだよな」
ガーヴェまでもがそんな事を言う。よっぽどひどい顔色なのだろうか。
その時すっと、冷たい手が僕の額に触れた。驚いて見ると、それはリルーのものだった。
理由を聞くのも億劫で、おとなしくしていると、リルーはちょっと呆れたような口調でぽつりと言った。
「マリト……。熱があるわよ?」
──雨季がやってきた。
僕にとっては憂鬱な季節。
何故なら──水の気にあたって、毎年風邪を引き込んでしまうから……。