表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

春節祭にて。

春の訪れと贈り物。

挿絵(By みてみん)


 僕等の里にも春がやってきた。

 今日は春の到来を祝う祭り──《春節祭》だ。

 長い閉鎖的な冬から解放された春を祝って、里中の人間が今日という日を楽しむ。


「わあ、きれい!」


 リルーが珍しくはしゃいだ声をあげる。

 声の方を見ると、春の装いをしたサエナが微笑んで立っていた。

 花のような薄ピンクのふわふわの衣装は、サエナにはすごくよく似合っている。

 『育成魔法』の使い手は男女問わず柔らかな緑の瞳をしている。サエナのそれは、今日は一段と誇らしげだった。


「ねえ。マリト、ガーヴェ、リルー。ちょっとお願いがあるんだ」


 サエナが悪戯っぽく僕等を手招きする。


「何だよ?」

「いい事♪」


 ガーヴェが不思議そうな顔で尋ねると、サエナはにっこりと笑って僕等に耳打ちした。


「ねえ。お祭りの最後に、花火を上げてみんなをびっくりさせない?」


 驚いた。

 サエナはどちらかと言うとおとなしいタイプなのに。

 でも、確かに僕とガーヴェが魔法の花火を、暗闇の召喚をリルーがすれば、昼間でも花火は見られる。そして、多分それはサエナには出来ない事。


「どうかな?」


 微笑むサエナに、僕等はにやりと笑って応える。

 そんな面白い事、やるに決まってる。

 でも、不思議なのはどうしてそんな事をサエナが言い出したのか、という事。

 けれど花火の用意している間に、とても重要なある事を思い出した。今日が、何の日かという事を。

 僕等は祭りの舞台で春の舞いを踊るサエナを見ながら、こっそりと話し合った。僕もガーヴェもリルーも、来るべきその瞬間を思い浮かべて思わずにんまり笑ってしまう。

 きっと、みんな驚くに違いないぞ!

 そんな事を考えている間に、やがて舞いが終わった。最後に長が祭りの終わりを告げれば、今年の春節祭はおしまいだ。

 その直前を狙って、僕等は動いた。


「来たれ! 闇のとばりよ!!」


 まずリルーが、暗闇魔法を使って広場に闇を召喚する。

 周囲が不意に闇に包まれ、里のみんなはびっくりしたように空を見上げた。


 ── 今だ!!


 僕は用意していた、火種代わりの一握りの砂を空へと投げた。


「光よ、集え!!」

「炎よ、舞え!!」


 僕とガーヴェが一斉に光と炎を砂を基点にして呼び集める。砂にはあらかじめガーヴェが魔法をかけてあった。

 闇に光と炎の花が咲く。

 そして──。


『ハッピーバースディ! サエナ』


 闇にそんな光の文字が浮かび上がった時、僕等はいつの間にか舞台を降りてやってきていたサエナに抱きつかれた。

 そう、春節祭の日はサエナが生まれた日でもある。

 サエナの家は大家族で兄弟だけでも八人はいるし、しかもそのほとんどが育成魔法の使い手なものだから、毎年この時期は祭りの準備にみんなかまけてしまって、どうしてもサエナの誕生日の事は二の次になるって、前にサエナが少し淋しそうに言っていた事を僕は覚えていた。


「ありがとう!! 嬉しい…みんな、大好きだよ!!」


 僕等は目論見が成功した事、そしてサエナが一つ大人に近付いた事を喜び合った。

 ── 里の長から後でちょっとばかりお小言をもらったのは……また別の話だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ