8.病み←闇
平凡な家庭に生まれた。
父は小さい会社の代表。
母はその手伝い。その縁がきっかけで結婚し、姉と私を産んでくれた。
不況のあおりを受けて父の会社が傾きかけた時期があった。
その時に合併の話を持ち込んできたのが機械工学の最大手、グローブマン社。
合併という名の吸収であったが家族を守るには他に手が無かったらしい。
一年前、母と姉はグローブマン社に殺された。
8.病み←闇
「ここだけの話、まるで実感がありません。今でも他人事のように考えています」
フランシスカ会長の問いかけに対し、グローブマン社社長の次男である俺は正直に答えた。
もちろん公の場で言うべき発言でないことは理解できる。だから前置きを入れた。
会長は神妙そうな顔のままだった。
俺はナギの意見が聞きたくなった。
あいつは長男だから、小さい頃から次期社長と呼ばれることが多々あった。
俺よりも会社に深く関っているナギはあの事故についてどう考えているのだろうか。
なにかアクションを起こしたりしてるのだろうか。
見舞いに行くのは腹立たしいので電話で確認をとることにした。
ナギは電話に出なかった。
代わりに違う人がでた。
若い女性の声で、酷く慌てた様子だった。
話しぶりからナギが入院している病院の看護師であることが分かり、弟のトム・グローブマンだと名乗ると落ち着きを取り戻したようだった。
そしてその後の会話内容の衝撃は、多分一生忘れない。
「ナギが刺されて意識不明」
様々な思いが逡巡する中で、俺が病院に着いたのは午後4時過ぎ。
ナギは既に手術室に運び込まれていた。
赤いランプが点いた部屋の前でうろうろしたり座って考え事をしたり。
短くて長い時間が経ってからランプが消灯し、白衣姿の男達が手術室から出てきた。
そして俺がナギの弟であることの確認をとってから、宣告が下された。
4月14日午後4時56分、ナギ・グローブマン死去。
享年17歳であった。