7.社会⇔会社
いちお、第二章開始のお話です。
人生とはなんだろう。
そして人の命とはなんだろう。
"私"には生きる目的がない。
7.社会⇔会社
入学式から一週間が経った。
高校生活にも慣れ始めた今日、俺は生徒会室を訪れていた。
俺は兄に勝った。
でもそれで終わらせてはいけない。
ナギのやり方は間違っているけど、正しい側面もあった。
操られている側の人間は絶対的な力の元で安心感と充足感に満たされている。
俺にはそんな力はない。
だから俺は別の方法でナギの上を目指す。
ここからが俺の物語の始まりなんだ。
ナギはどうなったか。
ハリケーンから落下した時の衝撃で腰を痛めて休学している。
一度だけ部屋を訪ねてみたが、学校の女子生徒達で溢れ返っていた。
相変わらずの人気ぶりだ。
俺にとっても彼女達にとっても真実は話さない方がいい。
「生徒会室を訪れたのは、この二点について会長に話を聞きたかったからです」
「生徒会への参加とナギの処分についてね」
椅子から腰を上げてお馴染みの腕組みをするフランシスカ会長。
不安だった。
生徒会会長から直々に誘いを受けたとはいえ俺は一年生だ。
レクレーションでの兄弟喧嘩も、全校的にはデモンストレーションの一種という扱いになっている。
俺の立場は依然ただの新一年生のままなのだ。
「ただの一年生ではないでしょ。
この学校を支える大企業の跡取り息子だもの。
トム君の兄貴だって表向きは極めて優秀な生徒だし、立派なお墨付きだわ」
「血縁にこだわるんですね」
「そういう生徒が多いってことよ」
以前話したとおり、父は機械工学最大手の株式会社を立ち上げた有名人だ。
メディアへの露出も多い。
その父から学校に電話が入ったらしい。
ハリケーンの動作不調および愚息の監督不行き届けについて。
この順番どおりにお詫びの言葉を発したらしい。
「もうすぐ一年よね…」
神妙な面持ちでこう続く。
「トム君にとって、あの事故が起きた後で何か変わった?」
昨年の4月25日、グローブマン社は重大な事故を引き起こした。
風速四輪駆動車「タイフーン」に使用される小さな部品を製造する子会社。
その家族及び従業員の命を事故で奪ってしまった。
まだ学生である俺は大して深刻には考えていなかった。
所詮は大人達が起こした事故。
代表取締役社長の息子とはいえ子供の俺には関係ないって。
一度だけ父に連れられて、その子会社の家族の下を訪ねたことがある。
小さな会社で家と工場が併設されていた。
それ故に家族が二人、正確にはお腹の中にいた妊娠三ヶ月目の赤ん坊も含めて三人の命が失われた。
生き残ったのは子会社の代表である父親と、学校で家にいなかった次女の二人。
顔を合わすことはなかったが、次女は俺と同い年だった。