4.暗天●暗転
最愛の弟トムは現在、物語の進行役を務められる状態ではない。
生徒会会長フランシスカが先に手を打ったようだ。
トムは女に弱い。
せっかく鍛えた腕力も、立場と知力を持つ者の前では意味を成さない。
だが俺には人を支配する力がある。
弟を誑し込んだフランシスカ共々、全部まとめて俺の手駒にしてやるよ。
4.暗天●暗転
新入生にとって三日目の高校生活はあいにくの雨模様だった。
雨天延期はない。作戦は予定通り実行される。
「今日は午後の授業を潰して生徒会企画のレクレーションを行う。
全校生徒も教師達もみんなが体育館に集合する。
そこで生徒会会長である貴女に、制服のまま逆立ちでもして歩いてもらいましょうか。」
俺の言葉に、フランシスカの口元が引き攣る。
「全校生徒の前で、パンツ丸出しで歩けということかしら?」
察しが良くて助かる。
「お断りよ」
その回答は計算通り。
「断れませんよ会長は。俺の力は催眠術とは違う。初対面から交わしてきた会話の一言一言が貴女への命令なのです。
お願いします、パンモロ歩行を敢行してください。
ちなみに短パンを穿いている場合は直ちに脱いでください」
お馴染みの腕組みの体勢を崩さない会長。しかし、
「しょうがないわね」
と言ってついにスカートの下に隠された短パンを自主的に脱がせることに成功した。
これで後は時を待つだけ。
「作戦決行前に確認しておきたい。俺の弟に近づいたのは何故だ」
会長は両手でスカートを抑えながら言った。
「決まってるでしょ。変態兄貴に対抗するための切り札よ」
「変態兄貴か。ちょっと短パンを脱がせただけでひどい言われようだな」
「この力で女子生徒を操って酷いことをしていたのね。許せない」
「誤解ですよ会長。操ったのは女子生徒だけではありません」
「変態!」
話を戻します。
「トムは俺の弟です。色目でたぶらかすのはやめていただきたい。
ま、たとえトムが会長の味方になっても貴女ごと取り込んでしまえば問題は無い」
俺が一歩詰め寄ると会長が一歩引き下がる。
「変態、最低兄貴!」
「力が効かないなどとふざけた嘘をついて。俺の支配に抗える人間など存在しない。
さあ時間だ、全校生徒の前で生き恥を晒して来い」
「ナギ!」
俺の背後にトムがいた。
これも計算通り。
「どういうつもりだトム。お前が惚れたフランシスカ会長様のあられの無い姿を特等席で見せてやろうというのに」
トムは会長の肩を掴んで呼び掛けている。
我に返ったらしい会長がその場に座り込み、そのままの姿勢でトムが小さく呟いた。
「ふざけるな」
その後の問答は散々なものだった。
トムは頭に血が上っているようでガーガーと大声を上げるばかり。
その中に印象的な台詞があった。
「お前の力は同じ血を分けた俺には効かない」
「実の弟を操ることができるはずがない」
俺は泣きそうになった。
小さい頃軽はずみに吐いた俺の嘘を信じていたトムが急に愛おしくなってしまった。
弟だから俺の力が通じないなんてあるはずがないし、弟だから標的にしないなんてなんという甘口思考なんだ。
力で支配するのは簡単だが、それではあまりにつまらないし可哀想だ。
そういえばトムは俺を超えるためにこの高校に入学したらしい。
それも腕っ節の力でなくあえて俺の得意分野で勝ちたいだなんて。
いいだろう、ならば俺もお前の分野で戦ってやる。
一対一の兄弟喧嘩。
有事の為に用意させたナギ専用ハリケーン「零式」に乗って、驕り高ぶった弟に絶望を与えてやる。