3.冷害×例外
読者のみんなは、一話で俺が助けた女子生徒の事を覚えているだろうか。
金髪で巨乳のあの子のことだ。
高校生活二日目からいきなりたまげた。
あの女子生徒こそがこの高校の生徒会会長、フランシスカ・シードその人だったのだ。
生徒会副会長のナギよりも権限を持った生徒。
ナギと俺の目標であり、俺たち兄弟対決の命運を握る役職。
完全無欠と思われていた兄、ナギ・グローブマンに付け入る隙がここにもあった。
3.冷害×例外
「こんにちは、弟くん」
向こうから接触してきてくれた。
これは好機だ。この場で信用を得て、ナギ相手に優位に立てるカードを手に入れる。
俺は会長様の恩人だしな。多少の融通は利くだろう。
「昨日は危ないところを助けてくれてありがとう。副会長から話は聞いてるわ。凄い腕力ね」
グラマラスな見た目によらず可愛らしい声だ。
だけど目つきや話し方がしっかりしている。
女を武器に、って感じでの生徒会会長ではないというのがすぐに分かる。
異性以上に同性から好かれそうな女性だ。
「ナギはひょろっとしてて頼りない感じだけど、弟のトム君は正反対。なんだか凄い」
何が凄いのかはよく分からないが、褒められているという事は分かる。
ナギの隣で劣等感を味わい続けてきた俺にとってこの言葉は複雑ながらも嬉しかった。
「触ってみてもいい?」
この言葉に一瞬戸惑った。
どこを触ろうというのだろうか。昨日今日会ったばかりの男に。
一人で慌てふためいていると、俺の了承も聞かずに右腕にそっと触れてきた。
俺は更に慌てつつも言葉の意味を理解し、それでいて顔面がとても熱くなってきているのを実感した。
「うわぁ、硬くてたくましい」
その感想の言葉とキレイでスベスベな両手の感触が心地良くて、俺はさらに嬉しくなった。
「もし迷惑でなかったら、ぜひ生徒会に入って欲しいわ。この力を学園や私のために…」
なんなんだこの女。
今まで俺が接してきた事が無いタイプの女だ。
俺は女慣れしていないんだ。
分からない、この女は一体。
あんまり俺に優しくしないでくれ。でないと俺は、俺は。
「大変、右手から血が出てるじゃない」
会長の言葉でハッと我に返った。
そして右手の甲からの出血を確認した。
「え? ああ昨日の。大丈夫、舐めとけば治ります」
「駄目よ」
そう言って会長は胸ポケットから絆創膏を取り出し、俺の右手に貼ってくれた。
デフォルメ化されたうさぎがプリントされた絆創膏。
そのまま俺の手を両手で握りながら、一段と可愛らしい声で言った。
「困ったことがあったらいつでも相談してね」
「困ったことがあったらいつでも相談してね」
頭にこびりついて離れないこの言葉。
ぐるぐるぐるぐる反芻し、そのたびに俺を悩ませる。
俺は今まで体を鍛えることしかしてこなかった。
ナギみたいにイケメンではないし汗臭い分、女なんて寄り付かなかった。
だけどなんなんだ、あの人は。
恩人とはいえあそこまで俺を気にかけ、優しくしてくれた女性は今までいなかった。
生徒会会長、フランシスカ・シード。
フランシスカ、フラン、会長、会長様、フラン会長、フランシスカ様、フラン様…
いかに愚鈍な俺でも、これが恋であると気付くのに時間はかからなかった。