2.懐古・蚕
ナギは特殊な力を持っている。
能力と言ったほうが正しいかもしれない。
人を意のままに操る能力。
自らの力を知り、人を効率的に動かす理を悟り、自分の望むままに周囲を動かせる。
その能力は催眠術や超能力の類ではなく、生まれ持った才気が成せる技術・才能と言うべき次元のものだ。
初対面の人間とも、顔をあわせて話しさえできれば操作は可能だと話していた。
年齢・性別は問わない。
その力と生徒会副会長の地位を利用した黒い噂も耳にしている。
そんな兄のことが、俺は大嫌いだ。
2.懐古・蚕
俺の趣味はツーリング。
暇な時やストレスを発散したい時、俺は自然とこいつを動かしている。
タイフーン。
父が一代で築き上げた会社の代表商品で、クルマに取って代わる乗り物。
エネルギーコストや環境問題を見据え、風力を利用して走る小型モーターサイクル。
商品名は父、タイフーン・グローブマンの名前をそのまま冠している。
タイフーンに跨りながら俺は兄を超える算段を立てていた。
ナギの力は人を催眠にかけたように操り、支配する力。
だからこそ対策を練らなければならない。
真っ向勝負を仕掛けても術中にはまってしまうだけなのだ。
だからといって闇討ちや腕力に任せた勝利は望まない。
それでは兄を超えたことにはならない。
一縷の望みがある。
「俺の力が効かない奴もいる」とナギが度々話してきたのだ。
「誰?」と聞くと、「お前」と笑顔で返してきた。
もちろん信じているわけではないが、まるっきり信じないわけにもいかない。
俺にとってナギに付け入る数少ない隙を作る要素となるかもしれないのだ。
信憑性もある。
父さんにはナギの力が及ばなかった。
小遣いを上げて欲しくて操作を試みたものの失敗続きだったらしい。
だから同じ遺伝子を受け継いだ俺にも、ナギの力をはね返す力が備わっているかもしれない。
腹違いとはいえ、たった一人の弟なのだから。
操られた側がそのことを認識することはないだろうが、俺は自分自身がナギに操られたことはないと思っている。
あいつも人間だ。
実の弟を操ろうなんて考えるほど腐ってはいないはずなんだ。
微かな望みを胸に秘め、顔に当たる風が強くなっていく。
一方、ナギは校内にいた。
生徒もまばらとなった放課後、窓から夕日が差している。
生徒会室の壁には、夕日に照らされて長く伸びた二つの人影が写っていた。
男は特殊な力を持っている。
人を操ることができる能力。
能力というよりは先天的な才能、体質というべきものかもしれない。
実例を挙げると跪いて奉仕をしているこの女子生徒と男は、初対面の十分後に関係を持っている。
二人きりになったところで男が命令の言葉を発する。
それだけでいとも簡単に女子生徒の最初の男になったのだ。
「ナギ・グローブマン。生徒会室で何をしてたのかしら?」
背後からの突然の掛け声にも慌てずに対処する。
「学園祭の話し合いをしていたんですよ」
「随分と先の話をするのね? それも私を通さずにハンナと二人っきりでなんて」
「先の話だからですよ。すぐに済む話でしたし、会長に負担を掛けさせたくなかったですから。良かったら次回からは会長も参加なさいますか?」
「遠慮するわ。あなた何をするか分からないから」
そう言って女子生徒は大げさに腕組みをする。
ブロンドの髪と大振りな胸が上下に揺れる。
「何もしませんよ。僕は紳士ですから」
「周りには誰もいないのよ、被り物をする必要はないわ」
女子生徒の声が低くなった。
腕組みの姿勢のままナギの目の前を横切り、そしてさらに低い声で続ける。
「忠告しておくわ。あなたの力は私には効かない。会長の座も、あなたには渡さないから」
女子生徒の目は、ナギと同じく鈍い光を放っていた。
転載にあたり、性的な表現を抑えて書きました。
無修正版はブログにありますので大丈夫な方はそちらもよろしく(・ω・)