13.兄◇姉
俺に、姉ができた。
13.兄◇姉
この俺、トム・グローブマンには兄がいた。
その兄、ナギ・グローブマンがナイフで刺されて死んだ。
実際には一命を取り留めてピンピンしているが、そういうことにしてしまった以上ナギはもう表立って外も出歩けない。
ナギが持つ支配の力は、人間社会からナギの存在を消し去ってしまった。
フェイス。
人を言葉一つで従わせることが出来るこの能力に名前をつけることにした。
顔を見ることが発動条件であるためフェイス。
そして…
「さあさあ行くわよー」
前段に戻る。
俺に姉ができた。
正確には髪型や服装、声質や仕草の一つ一つまで女になりきったナギの変わり果てた姿なのだが。
「スカートってスースーするから慣れないわー。
今日は風も強いしなー。
めくるのは大好きだけどめくれるのは恥ずかしいよー」
女子の制服姿で俺の前に現れてなにか喋っている。
元々中性的な顔立ちをしているナギのことだ。
知らないやつが見れば誰も男とは思わない。
でも俺は弟だから分かる。
女になりきる修行も何度か見ていたから、過程を見てしまっているから嫌でも分かる。
「いいかいトム。今日から私はお前のお姉さんだ。
ナギ・グローブマンという名前も捨てた。
私の名前はアイ・グローブマンだ。言ってみ」
女の格好をするようになってから妙に明るいキャラ作りをするようになったオカマ野郎、ナギ。
「ナイグローブマン」とだけつぶやいておいた。
「わんすもあげいん!」と返ってきたが無視した。
なんにせよ5月に入り、ひさしぶりの登校である。
これまでナギの建前上の葬式や、父の会社が起こした事故の追悼式への参加。
それにまつわる被害者様方のところへと連れまわされていた結果、ずっと学校に通えていなかったのだ。
ソニアの一件で、フェイスの力に変化があった。
どうやら俺とナギにそれぞれ二分割されて力が定着してしまったようなのだ。
これで俺にも人を操ることができるようになって、
そしてナギは今までのように簡単には人を操ることができなくなったというわけだ。
「こら、何いかがわしいことを考えてるの。
そんな不純な目的で力を使うことはお姉さんが許しませんよ」
どこから出てるのかも分からない甲高い声でなにか喋っている。
「お前にだけは言われたくないよ、前科者が。
それに俺はソニアと約束したんだ。もう誰も不幸にしないって」
「そのことでだがお前、あれから変な奴が来なかったか?」
急に元の口調で話しかけるナギ。
俺は皮肉をこめて返す。
「来たよ。今目の前にいる」
「あっそう」
そう言い残してナギはピョンピョン跳ねながら俺の前を歩く。
スカートがチラチラなびいていて目障りだ。
なぜ女はスカートをあんなにも短くして着用するのだろう。
だが当たっている。
この力を手に入れてからというもの、隠れてずっと俺のことを見ている奴がいる。
今も電柱の影から、
俺の背中をじっとりと。