11.神様<上様
ナギが言った。
ソニアを止めるのはお前の役目だ。
なんの力も持たないトムだからこそ出来ることがあるのだと。
11.神様<上様
俺は既に少女と対峙していた。
高校のブレザーに袖を通す俺。ソニアは中学のセーラー服。
同い年のはずなのに随分と年の差があるように感じられる顔。
一年足らずでここまで変わってしまうほどの生活を送ってきたということなのか。
「私は生きる目的をもらいました。
私をこんな状況に追い込んだ会社の家族を奪う。
目的を達成できたら、私はやっと前に進める気がする」
目が虚ろだった。
女の目を見て話すのは得意ではないが意識して目を合わせていた。
ナギが言うには、生き残る確率を上げる為に必要な所作らしい。
そして対話の内容。
ナギに言われたとおりに徹夜で暗記したフレーズを並べる。
「会社は十分な処罰を受けたんだ。それだけじゃ足りないのか」
「足りてると思ってるの? 肉親が二人も殺されてるのよ」
ナギに言われたとおりに徹夜で暗記したフレーズを並べる。
「人が死ぬのはそんなに悲しいことなのか」
ナギに言われたとおりに、徹夜で暗記したフレーズを並べる。
「俺も、母親を小さい頃に亡くしてる。
最高の母親だったと今でも思ってる。
だけどその母が死んだとき俺はちっとも悲しくなかった。
悲しみを通り越したとかじゃなくて、人が死ぬことがどうして悲しいことなのか分からないんだ」
俺にこの台詞を言わせた意図は分からない。
それでも俺はナギに言われたとおりに、徹夜で暗記したフレーズを並べた。
ふぅと溜め息が聞こえた。
「話が根本的に噛み合ってないわね。
どの道私は助からない。たくさん人を刺しちゃった。
バイト中に相手を刺して金だけもらってったこともあるの。
でもそれもあなた達のせい。
私が汚い親父に頭下げてバイトしなくちゃいけないのもグローブマンが会社を壊したせいなのよ」
ソニアはポケットから折りたたみナイフを取り出した。
握った右手が震えていたので左手も添えて胸の前で構える。
「高校にだって行けなかった。
自殺する勇気もない。
私にはもう生きる目的がない」
間髪いれずに返す。
「俺が生きる目的になってやる。
俺が君を守る。俺は自分の罪も君の罪も受け入れる。
だから…」
一瞬の溜めが入った。
視界が滲んで少女の目が見えなくなったから、涙を拭ってから続けた。
「だから、今は静かに眠るんだ」
作戦が全て終わったとき、俺は泣いていた。
事前に渡されていた切り札。
それは遠隔操作。
俺自身がナギに完全支配される。その俺の目を通してナギの支配の力をソニアにかける。
威力は弱まるが、一瞬たりとも目を離さなければ成功する。
少女はあどけない顔をして眠りについている。
対峙していた時の緊張の糸が切れて安らかな顔で眠っている。
これが少女の本当の顔だったんだ。