表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イズマイン  作者: ハルシオン
第一章
1/13

1.風人→風神

 親の力を借りて入学した高校。

目的は一つ。

俺は兄を超える。





1.風人→風神





「ひさしぶりだな、トム」

入学式早々、ナギに呼び止められた。

我が兄は二年生でありながら、この学校の生徒会副会長の座についている。

成績優秀で人望も厚く、女子生徒や教師達からの人気も高い。



 俺は昔から兄が嫌いだった。

ナギは自分のことを神様か何かだと思っている。

出来ないことは何も無いという風にいつも自信に満ち溢れている。

そして常に結果を出してきていた。

隣で比較され続けてきた俺は、みじめだった。



「トムがこの高校に受かるとは思ってなかったよ。勉強がんばったんだな」

にこやかに笑みを浮かべた顔がまた腹立たしいので、俺は嫌味たっぷりにこう返した。

「親の会社と提携してる私立高校だ。バカでも入学できるよ」

「そうそう、俺たちはバカ兄弟だ。親の威光は輝いてる時に使わないとな」

…口喧嘩で勝てる相手じゃない。

俺は本当のバカだけど、ナギは違うんだから。



 遠くからナギを呼ぶ声が聞こえる。

金髪、そして巨乳というのが素直な第一印象の女子生徒だった。

一枚のプリント用紙を眺めながら二三応答した後に去っていった。

「何を話してたか気になるか?」

俺は無言で答えた。

ゴホンと咳払いをしてからナギが言う。

「教えてやるさ。入学式で執り行う新入生歓迎セレモニーの打ち合わせだ」



 クッと親指を立てた方角に「ハリケーン」が見える。

ここで言うハリケーンとは台風のことではない。

父の会社が開発した単独騎乗用戦闘兵器「ハリケーン」。

先の大戦で、戦場を風のように駆け抜けたことからこの名が付けられた。

学校に置いてあるものは戦闘機能を排除した低スペック機だが、時速40kmで走る鉄の塊だから危険である点は否めない。

「だからメンテナンスも兼ねたテスト運転をしてる最中なんだ。万一入学式で暴走でもしたら一大事だからな」



 計5機のハリケーンがゆるゆると動いているのが見える中、黒い煙を吐きながらぐるぐる回っているハリケーンが一機。

豆粒ほどの大きさに見えていた5機だが、その機体だけは握り拳大の大きさに見える。

つまり接近してきているのだ。

俺は素直に感想を口にした。

「今まさに暴走してんじゃねーのか?」



 その通り、ハリケーンの一機が暴走していた。

騎乗者の操作ミスか機体のアクシデントかは分からないが、時速40kmで走る鉄の塊が俺とナギ目掛けて接近している。

とにかく避けなくてはならない。

しかし予想外、俺の後ろでは先ほどの女子生徒が腰を抜かして座り込んでいる。

俺が避けたらこの子は――





「力を得よ」

俺とナギの兄弟は、父のこの言葉を聞いて生きてきた。

父は一代で世界有数の大企業を築き上げる力を持っていた。

兄は知力と、人を意のままに動かせる力を持っていた。

そして本当のバカだった俺はバカ正直に腕力を鍛えた。





 走馬灯、そして正拳一撃。

ハリケーンの装甲は破損した。俺の拳も砕けた。



 俺の拳は砕けたが、暴走していたハリケーンは止まってくれた。

女子生徒も無事だ。かすり傷一つない。

金属の塊を拳一つで止める男。

それがこの俺、トム・グローブマン。

才能満ち溢れる我が兄ですら持ち得ない最強の力だ。

俺はこの力で兄を超えてみせる。

眉一つ動かさず傍観していた兄を見つめ、俺は静かに決意を固めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ