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1 乙女ゲームってなんですか?

 享年56歳。


 真面目に会社勤めをし、家族にも恵まれ1男1女を儲けた私に後悔はない。

 若くして死んでしまったが嫁が保険を結構掛けていたので家族の心配も無いだろう。

 子供の頃から抱えていた心臓の病気を、この歳まで抑え込んで生き抜いた事に誰か褒めてくれてもいい程だと思っている。


「現世の牢獄から漸く解放ですか。ふぅ……さて、そろそろ黄泉の旅路へと向かいましょう」


 目の前に伸びる光り輝く道を歩いて進む。


――。


「お疲れ様でした田中晋様」


 歩く道すがら、その場に声が響く。

 聞いた事が無い清らかな声。


「どちら様ですか?」

 

 歩みを止め、見上げて声を掛ける……が、返事はない。


「怖っ!なんですか!生きてる時も幽霊になんて会った事ないのに、成仏して幽霊に遭遇とか勘弁して欲しいんですけど!?」


「大丈夫ですよ。貴方も既に幽霊です」


「……Oh~基本的な事を忘れてました。そうですよね、私はもう死んで幽霊に……て、すみませんが急ぐ旅路ではありませんが、成仏の途中なのですみませんがこれで失礼しますね」


 お前も幽霊だ!なんて言う人が良い人なわけがない。

 優しい言葉や声に騙された人を私は数多く見て来たのですから。


「うふふふっ、流石日本人は死んでもせっかちで用心深いですね。それに貴方の生前は真面目眼鏡サラリーマン……ザ・日本人過ぎて笑えます」


 カッチーンと来るが、間違ってはいない。

 そんな事にいちいち構うのも馬鹿らしい。

 なんせこちらは人生を生き抜いた男ですよ?


「どこのどなたか知りませんが笑わないで下さい……あと眼鏡は関係ないです」


「あら、眼鏡お嫌いです?」


「いや、好きか嫌いとか初めて聞かれましたが……まぁ嫌いじゃないですね」


「そうですか。では来世は眼鏡――


「ちょっとまったーーーー!!なんですその流れ!怖い怖い!も、もしかしてですが神様とかそういった類の方ですか?」


 来世の話を持ち掛けるとか普通じゃない。これは適当に相手すると不味いやつだと判断する。


「はい。私、乙女ゲームの神です」


 神、だと?


「乙女の神様ですか。乙女の神様がなんで男の私の元へ?」


「はい。乙女の神様ではなく、乙女ゲームの神様ですよ田中さん」


 ええ、間違いなく聞こえてましたとも。

 触れない事が大人の嗜みと言う事もあるじゃないですか……特に自分へ火の粉が掛かりそうな場合は特に。


「ご納得いただけましたか?……では眼鏡に転生をし――


「まったーーーー!ぁああ乙女ゲームですよね!知ってます知ってますとも!色々ありましたよね乙女ゲーム。あの乙女もこの乙女も私大好きでしたし!やっぱり苦難の末の大恋愛って大切だと思いますいやぁ~あの高名な乙女ゲームの神様にお会いできるとは思いもよりませんでしたよ。こう見えて私、恋愛得意なんですよ?なんつって、あははははっ」


 乙女ゲームの神?なんですかそれは。

 でもまぁ乙女と言うくらいです、少女が喜びそうな乙女チックなゲームと言う事でいいでしょう。

 乙女が喜びそうなものと言えば、自分に無い可憐な美少女を自己投影して遊ぶ。そんな所で間違いないはずです。

 私、結構ゲームには五月蠅いんですよ?

 なのでひとまずここは乗り切れるでしょう。


「……そ、そんなに好きだったんですね(ポッ)嬉しいです」


 いけたー!


「そんなにお好きなら大丈夫でしょう。貴方を試す様な真似をした事を謝罪します」


「いえいえ謝罪なんてお構いなくです、はい」


「欲の無い方なのですね。私、貴方の事が大変気に入りました」


 いえ、なんか面倒そうなので直ぐにでも成仏させて下さい。


「そんな貴方には私の乙女ゲーム最高難易度の世界『デーモンフラワー、乙女の園に花束を』の世界で悠々自適に幸せを満喫して頂きたいと思ってしまいました!」


 正直生きると言う事は苦行であると考えていた。

 生きる為に働き、守るために働き、遊ぶために働く。

 働く為の奴隷で生きる事は何か前世での悪行の罰を与えられているのでは?とまで考えた事さえある。

 もしこのまま成仏出来たらそれに越したことは無いのだ。

 出来ればもう働きたくない。なので本当、このまま成仏させて下さい。


「乙女ゲームの神様」


「はい」


「出来ればもう働きたくないのでその――」

「そうですか……わかりました」


 流石神様を名乗るだけはある。俺が成仏したい事をわかってくれた様だ。


「……では送りますがいいですね?」


 送る。そうか、黄泉の国へ送って下さるのか。


「はい。わざわざ貴女の世界へお誘い頂きありがとう御座いました」


「いえ。最後にもう一度確認しますが、本当に送っても宜しいのですね?」


「はい。56年ですが充分生きれました。未練もありませんのでお願い致します」


「わかりました。では『デーモンフラワー、乙女の園に花束を』の世界へお送り致します!」


「はい……はい?」


「働きたくないと言う選択は悪役公爵令嬢を救い、彼女の実家も救い、国家を転覆させ自らが王となる他ありません!そして世界中が貴方に牙を剥くでしょう!ですがその最高難易度に挑む貴方に私の祝福あれ!!」


「ちょ、え?ちがっ――」


「大丈夫ですよ。ちゃんとチートもありますから」


「そーではなくてですね神様!?ちょ、聞いてます?チート、チートってなんで……か……」


 そして俺は目の前の空間に吸い込まれる様に姿を消した。


 空間の声は呟く。

「――まさかあの年代の人も乙女ゲームを好きだなんて……大人の思考であればあの世界を導けるかもしれませんね。地球の日本、やはりあの国は侮れないわ。……もう少し送っちゃいましょうか、ええそうしましょう」


――――

――


 お、お、おお、おおおおんぎゃーーーー!!


「サブリナ!男の子か!女の子か!」

「旦那様、そんなに慌てられては赤ん坊がビックリしてしまいますよ」


「がはははっ、それはすまん。で、どっちだ」


――ヌッ


 髭面のおっさんが俺を覗き込む。


「ぉおお!男の子か!でかしたぞサブリナ!流石儂の嫁だ!よーし祝宴の準備だ!」


 そうして俺はこの世界、『デモ園』へと産まれ落ちたのだった。


 

「乙女ゲームは知りませんが悪役公爵令嬢が美人過ぎて辛い」を恋愛よりに、コミカル多目、キャラクターをそのままにストーリー等を見直し加筆修正したものです。

以前のアカウントはもうありませんのでしサクサク?読めると思うので、勝手ではございますが是非こちらでお楽しみいただければ幸いですm(__)m

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