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無能王女として追放されたら完全個室が与えられました~前世廃人ゲーマー、異世界をシステム管理します~

作者: 石川覚
掲載日:2026/02/28

 その宣告は、まるで帝国布告のように、冷酷に、そして救いなく玉座の間に響き渡った。


「ロマリア大帝国属国、ガエタ・ニグラ王国第三王女【アネット】。先に執り行われた《神恩顕現の儀》の結果、其方には――いかなる神恩も宿っていないことが確認された」

 

 白大理石の玉座の間。

 金箔を施した円天井の下、重苦しい沈黙を切り裂くのは、国王の声のみ。

 それは慈悲を失った神官の宣告のように、反響していた。

 

 冷たい床に膝をつくのは、本日六歳を迎えたばかりの少女――アネット。

 周囲を取り囲む元老院貴族、近衛騎士、そして異母姉たちの視線は、刃のように鋭い。

 好奇、嘲笑、侮蔑。

 

 ――そして「見世物を見る目」。

 

 だが、誰も知らなかった。

 うつむく幼い皇女の内側で、今まさに**二十五年分の“前世の記憶”**が、禁書庫の書架が崩れるように流れ込んでいることを。


(……あ、これ……)


 アネットの意識が、強制的に“接続”される。

 ________________________________________

 かつての世界。

 東方の島国。地方都市。

 六畳一間の石造りならぬ、ワンルーム。

 遮光のため常に閉じられた窓。


 学問にも職にも就かず、情報網ネットと共に生きた日々。

 昼夜は逆転し、

 主食は即席の糧食と冷凍保存の穀飯。

 身体を動かすのは、推し英雄の召喚演出に拳を握る時だけ。


 大規模仮想戦争(MMORPG)、

 携帯端末の賭博的遊戯ソシャゲ

 独立制作の遊戯、積み上げられた未着手の遊戯。

 夜は二次創作。

 禁断の組み合わせ。成人指定。考察文。

「公式こそ最大手」という教義を信奉しつつ、

 公式に殴られると即死する情緒。


 外に出ず、人と交わらず。

 だが――世界設定だけは誰よりも理解していた。

 数値。技能樹。強化と弱体。

 世界はすべて、システムとして把握できると信じていた。


 そして、ある日。

 大規模更新初日の徹夜明け。

 推し組み合わせの供給過多に脳が飽和し、

 寝台に倒れ込んだまま――意識は途絶えた。


(二度と、接続できなかった)

(……あー……死んだわ、これ)

 ________________________________________


「――よって、アネット。其方を北方離宮アウレリア旧館へ幽閉とする」

 国王の声で、意識は現世へ引き戻される。


「王族籍は残すが、待遇は期待するな。北方離宮は老朽化し、寒冷で、食事も余剰分のみ。侍女は一名。外出の自由はない」


 元老院席から聞こえる忍び笑い。


 北方離宮。

 罪人と廃嫡者のための場所。

 朽ちた石館。

 終わった場所。


 誰もが、アネットが泣き崩れると思っていた。

 だが。

(……完全個室、引きこもり確定……?)

 アネットの肩が、かすかに震え始める。


 姉王女の一人が、勝者の余裕で扇を口元に当てた。

 しかし――

(神……? いや……運営……?)

 アネットの顔は、歓喜で歪んでいた。


 ________________________________________

 北方離宮アウレリア旧館。

 人が来ない。

 干渉されない。

 静謐。


 それは、前世で夢想した理想そのものだった。

 屋根がある。

 扉に鍵がある。

 誰も訪問の鐘を鳴らさない。


(実家より治安いい……)


 寒さ?

 問題ない。前世では年中外套だった。


 食事が質素?

 一日一食で十分。

 しかも王族の余剰=高級食材。


 侍女が一人?

 むしろ多い。

(NPC付き個室とか、神運営では……?)


 さらに。


「来る日も来る日も学ばせる。遊戯など許されぬと思え」

(強制チュートリアル……しかも無料……?)


 アネットの瞳が、星のように輝いた。

 ________________________________________

 学ぶのは、世界の設計図。

 帝国史、魔導理論、貴族階級、租税制度。

 すべてが――公式設定資料集。

 しかも一次資料。

(公式世界観資料、読み放題……)

 涙が零れた。

 国王はそれを、絶望の涙だと誤認した。

 ________________________________________


「これは罰だ。一生、陽の当たらぬ場所で生きよ」


「ありがとうございます!」

 アネットは大理石の床に額を擦りつけた。


「住居提供、食事付き、知識開放。あまりにも神代級の運営です!」


 国王と元老院は、言葉を失った。


(……壊れたな)


 そう判断され、「無能王女」は静かに隔離され、こうしてアネットの快適すぎる隠遁生活が始まった。

 ________________________________________

 数年後。


 アネットは気づく。

(……これ、帝国運営シミュレーションでは?)


 数字が見える。

 均衡が分かる。

 欠陥バグが目につく。


 離宮の食事が急に粗末になった日、理解した。

(運営の不正……)

 厨房で横領を発見。


 帳簿=ログ。

 不正=粛清案件。

 だが、通報はしない。


(粛清すると運営が入れ替わって面倒)


 代わりに交渉。


「裏金はこの拠点強化に回してください。私が最適化します」


 執事たちは逆らえなかった。

 こうして北方離宮は帝国随一の隠れ最適化拠点となる。

 ________________________________________


 十五歳。

 政略婚の打診。

 相手は、ロマリア大帝国皇帝――ギャリック。


 冷徹。

 能力至上主義。

 無駄な社交を嫌う独裁者。


(……完全ソロプレイヤー国家……)


 即答する。


「参ります」


 周囲は悲劇だと嘆いた。

 だが、アネットはこう思っていた。


(大型サーバー移籍……!)

 ________________________________________


 国境要塞。


 皇帝ギャリックとの初対面でもアネットは動じない。

 彼の手にある作戦書を一瞥し、口を開く。


「この兵站、致命的ですね」


「……何だと?」


「補給線のバランスが崩壊しています。こちらの街道を使えば効率が三割向上します」


 皇帝は沈黙し、そして笑った。


「……来い。書類を片付けろ」


「在宅執務は可能ですか?」


「帝国を任せる」


「神」

 ________________________________________


 こうしてアネットは、引きこもりのまま、世界を最適化しながら帝国最側近となった。

 

 一方、祖国ガエタ・ニグラ王国は崩壊した。

 運営を担っていたのが、彼女一人だったからだ。


 遠い帝国の執務室でアネットは今日も思う。


(推しカップリング供給が足りないのだけが不満だな……)

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