第9話 未知のエナジードリンク
エナジードリンクを飲んだハシレンジャーたちは、カッと目を見開いた。え、やっぱりなんかやばかったか? 私もそのエナジードリンクについてよく知らないんだ。どうなったんだ?
「うおー! なんか力が湧いてくるぜ! 今なら牛30ダースは食えそうだ!」
「牛をダースで数えるな! 何故湧いてきた力を食べることに使う!?」
「私も今なら何でもできる気がするわ。試しに原付で高速道路に乗ってみようかしら」
「お前のパワーはどうか知らないが、原付には限界があるだろう!?」
「大丈夫よ。原付に限界が来たら自力で走るわ」
「なら最初から乗るな! 高速道路を自分の足で走るやつは見たことが無いぞ!」
おお……? パワーが湧いてきてるのか? よく分からないエナジードリンクだったが、まあなんか元気になったならそれでいいな! うん!
元気になったハシレンジャーたちを見ながらうんうんと頷いていると、バタバタと大きな足音がしてくる。お、誰か来たのか?
ドアを開けたのは、黒いフルフェイスのヘルメットを被った男だった。なんだこの男は? 不審者すぎるな……。
「なんや! 何を大騒ぎしとるんや! まさかティッシュの特売か?」
「そんなわけあるか! なんでお前はそんなに紙類に敏感なんだ!」
「ティッシュもトイレットペーパーも日常生活に必要不可欠やろ? でもワシは敏感肌でな。ローションティッシュやないとかぶれてまうんや」
「心の底からどうでもいい情報だな……」
橋田たちが動揺していないところを見ると、この男はハシレンジャーの司令官か? 確か前に橋田が通信していた時も関西弁の男だった気がするしな。
司令官らしき男は私に気づいてこちらを見てくる。ヘルメットを被ってるから表情が分からなくて怖いな……。
「ほんで? このべっぴんさんはどこのどなたや?」
「ああ、すまない。紹介が遅れたな。こちらは俺の会社の上司で……」
あ、これはちゃんと挨拶しておいた方がいいやつだ! フルフェイスの不審者ルックはまあ置いといて、とりあえず挨拶をしておこう。
「鳥羽桃子と言います! 橋田がいつもお世話になっております!」
「おうおう、碧の上司か! ワシはハシレンジャーの司令官、ハシレオ・ハシレイや。こちらこそ、いつもうちのブルーがお世話になっとります。ワシは堅苦しいのはあんま好かんから、ぜひぜひタメ口で接してくれや」
「そう言ってもらえるとありがたい! あなたが司令官か! 立派なフルフェイスだ! 私も2、3個被ってみたいものだ」
「なんですかそのトリプルのアイスみたいな被り方は!」
橋田は基地でもツッコミ役なんだな。周りが全員ボケで大変そうだ。いや私も含まれているんだが。私は今テンションが上がりつつ緊張もしてるんだ。多少ボケるのは許して欲しい。
司令官——ハシレイは、ヘルメットのバイザーから覗く目で私の方をまじまじと見ている。片目は眼帯がしてあって少し不気味だな……。
「しっかし派手やなあ。なんや碧、お前の職場はキャバクラか?」
「誰がボーイだ! 失礼すぎるぞお前!」
「はは、良いんだ橋田。よく言われることだ。実際私も会社のことをキャバクラだと思っている節がある」
「なんであるんですか! まさか部長、社長や専務に媚びを売って昇進したなんてことは……」
「さあ、どうだろうな。だがピンクのスーツや10cmのヒールが私だけ許されてるのは、そういうことかもしれないぞ」
「ああ、ちゃんと社会人として異端な自覚はあったんですね。ホッとしました」
「ちょっと失礼だな橋田! このネイルだって寝る間を惜しんでやってるんだから、もうちょっと尊敬してくれても良いだろう? ほら見てみろ。親指から順番に『十二』『二十四』『三十六』とネイルパーツの数字が増えていくぞ」
「なんで12の倍数を爪に付けてるんですか! そんなことしてるからエナジードリンク発注ミスするんでしょう!?」
「それはそうだな。ぐうぐうの音も出ない」
「ぐうが1個多いです! 寝ようとしてます!?」
心做しか橋田のツッコミもいつもより勢いがある気がするな。これがエナジードリンクの効果なのか? だとしたら、ハシレンジャーがピンチの時とかに飲めば一時的にパワーアップできそうだな。もしかして、広告を作る以上に効果があったかもな! 流石私! トラブルもチャンスに変える最強の女だ!
そうだ、せっかくだから素のハシレンジャーがエナジードリンクを飲んでいるところを撮っておこう。このまま我が社の広告に使えるかもしれないしな。
……ん? でもこれ、エナジードリンクの広告にならないか? ……まあいいか。元気なハシレブルーが我が社にいるということが宣伝になるだろう。多分。
こっそりハシレンジャーたちを撮影していると、突然基地の中にサイレンが鳴り響いた。お! もしかしてこれは、怪人が出たか!
「あかん、出たで! ホーテーソク団や! ハシレンジャー、行けるか?」
「私たちが揃って基地にいる時に怪人が現れるなんて、都合がいいにもほどがあるわね。ちょうどこの有り余るパワーをぶつけたいところだわ」
「そーだぜ! 今なら走るより側転の方が早く移動できる気がするぜ!」
「確実に気のせいだからやめておけ……。だが力が有り余っているのは俺も同じだ。このタイミングで出て来た怪人が可哀想なくらいだな」
怪人の組織はホーテーソク団というのか。なんか……間抜けな名前だな。法定速度から取ってるのか?
司令官のハシレイは、やけに元気なハシレンジャーたちを見て不思議そうにしている。
「なんや自分ら、なんかしたんか? まあええわ。やる気満々なんはええことや。そしたらハシレンジャー、出動や! 今ローションティッシュを叩き売りしてるちょっと怪しい店の場所を送るで」
「そんなどうでもいい情報は送るな! 怪人の場所を送れ!」
「ああすまんすまん。ワシとしたことが、ローションティッシュの誘惑に負けてしもた。でも店と近いとこに怪人もおるから、帰りに買って来てくれや」
「仕方ないわね。何ダース必要なの?」
「お前らの間ではダースで数えるのが流行ってるのか!? そんなクールじゃないやり取りをしてる場合か!」
「しゃー! 碧、黄花、行くぜー! エンジン全開だー!」
「おお! 遂に出動の場面を見られたぞ! いつかは私も……」
おっと、本音が漏れてしまった。しかし、やはり怪人を倒しに出動するヒーローの背中はかっこいいな。憧れてしまうが……橋田がいなくなったのは少し寂しいな。
虹色の空間に消えて行くハシレンジャーの背中を見送った私は、基地の中に司令と2人で取り残された。……気まずくないか?




