第8話 ハシレンジャーの基地
エナジードリンクが大量に入ったダンボール箱を信じられない高さに積み上げ、無理やり台車に乗せたものを押しながら、私は上機嫌で歩いていた。
なんて言ったって、これからハシレンジャーの基地に行けるんだぞ! 私は小さい頃から戦隊ヒーローに憧れてたから、本物の戦隊の基地に行けるなんて感動ものだ! これは歌の1つでも歌いたくなるな!
「真ん中で分けろ〜♪ 黒髪センター♪ 艶のある髪の毛〜♪ は〜し〜だあお〜い〜♪ かっ飛ばせー! は・し・だ!」
「その応援歌歌いながら歩くのをやめられますか?」
「ん? なんでだ? なかなか出来のいい応援歌だと思ってるぞ」
「出来は良くないですし髪のことしか言ってないですしそもそも俺は野球しません! かっ飛ばさないですから!」
「橋田は野球しないのか。やってみると楽しいものだぞ? ブルペンから出ていくピッチャーの背中を見守るのは」
「なんでブルペンキャッチャーなんですか! 楽しさが伝わらないです!」
「なんてことを言うんだ! 野球の醍醐味と言えばブルペンキャッチャーがリリーフ投手の背中を叩いて送り出す瞬間だろ!」
「テレビに映るか映らないかの場面じゃないですか! 逆にいつもそこ注目してたんですか!?」
橋田はブルペンキャッチャーに注目しないんだな。珍しい人種だ。いつも野球中継を録画して、ブルペンキャッチャーが映る場面だけを何度も見ている私には理解できない価値観だ。……私がおかしいのか?
「ところで橋田、基地はこっちで合ってるのか?」
「方向は合ってますよ。ただこのまま辿り着けるのか……」
「どういう意味だ? 方向が合ってるなら着けるんじゃないのか? あとそこの漬物屋に寄ってもいいか? お茶請けが欲しい」
「何故今お茶請けが要るんですか! それがちょっと基地に行くのに特殊な行程が必要なんです」
「特殊な行程? ふんどし一丁でソーラン節を踊るとかか?」
「何の罰ゲームですか! いえ、基地に行くには虹色の空間を通らないといけないんです。チェンジャーを持っていない部長も通れるのかどうか……」
橋田がそう言った瞬間、私たちの周りの景色が突然虹色に変わった。
「おお! これが虹色の空間か! てことは私も基地に行けるんだな!」
「みたいですね……。チェンジャーを持っている人間がいればこの空間には入れるようですね」
「よし! このまま基地へエナジードリンクを届けるぞ! みんなで一気飲みするところが見られるのか……感動だな」
「一気飲みを強要するのはやめてくださいね!? タチの悪い飲み会じゃ無いんですから」
「だがアルコールは強要してないぞ? カフェインだカフェイン! カフェにインだ!」
「それはカフェに入っただけでしょう! そろそろ着きますよ!」
虹色の空間を抜けると、コンクリート打ちっぱなしの渋い内装が特徴的な部屋に出た。ソファには赤いレザージャケットを着た茶髪の青年が寝転がり、足の指で器用に唐揚げを食べている。
対して黄色いワンピースを着た女性は上品に試験管で紅茶らしきものを飲んでいる。
この2人がハシレッドとハシレイエローだな! 中の人と会えて感動だ!
私がキョロキョロとテンション高く基地の中を見ていると、横にいる橋田は1度ため息をついてから声を上げた。
「足で肉を食うな紅希! せめて手を使え! あと黄花! 実験器具で紅茶を飲むのをやめろ!」
「おー! 碧じゃねーか! お前も唐揚げ食うか?」
「足で唐揚げを投げようとするな! 不潔が過ぎるぞ!」
「碧、あなたの分の試験管もあるわよ。今タコスを詰めてあげるわ」
「せめて紅茶を注いでくれるか!? 何故無理やりタコスを詰める!」
おお、もしかしてこの紅希という青年と黄花という女性は常にボケているのか? なるほど、橋田がハシレンジャーを抜けるつもりだったのも頷けるな! ボケばっかりの周りに振り回されて、疲れていたというわけだ!
……ちょっと待てよ。その理屈だと私も橋田が疲れる要因になってないか? まあいいか。今はとりあえず基地だ!
「ここがハシレンジャーの基地か! 無骨な内装が素晴らしい……! 私もそのソファに座っていいか? 座りソーラン節をしたい」
「なんですか座りソーラン節とは! それより早く用を済ませましょう」
急ぐ橋田に対し、ハシレンジャーの2人は私の存在に気づき、不思議そうに視線を向けてくる。
「碧ー! そいつ誰だ? とりあえず肉食わせてもいいか?」
「なんでお前はすぐ肉の話になるんだ! ここにいるのは俺の上司、鳥羽部長だ。唐揚げを食わすのはやめろ」
「でも美味いぞー? このラジコンの唐揚げ」
「じゃあ肉じゃないじゃないか! ……そんなことはどうでもいい。お前たちにはこれを飲んでもらいたいんだ」
おお、流石橋田だ。さらっと話を本筋に戻したな。一応私もエナジードリンクを飲んでもらうという体で来ているから、早く本題に入ってもらうのはありがたいことだ。表面的には。ほんとはしっかり基地を見学したい。
橋田は押してきた台車の方を指さして、ハシレンジャーの2人に見せる。
「なんだこれー! 俺が前住んでた家とそっくりじゃんかー!」
「ダンボール箱に住むな! 捨て犬かお前は!」
「エナジードリンクよねそれ。私は基本的に紅茶以外の飲みものを飲まないの。それを飲めって言われても、無理にもほどがあるわ」
「そこまで紅茶に拘る理由は何だ……。とりあえず、お前たちにはこれを一緒に飲んでもらう。でないと無くならないんでな」
紅希という青年は目を輝かせ、ダンボール箱を開ける。流石レッド。行動力があるな。
「おー! 見たことねー飲みもんだな! これ飲んでもいいのかー?」
「ああ、存分に飲んでくれ。こればかりはお前を1番頼りにしてるぞ」
「よっしゃー! 黄花、飲むぜ!」
「私は飲まないと言っているわ。どうしても飲んで欲しいと言うのなら、あとでおすすめの紅茶を教えなさい」
「割と条件が軽いな……。それぐらいならしてやる。いいから飲んでくれ」
「仕方ないわね。飲んであげるわ」
紅茶に拘っていた黄花という女性も、一応エナジードリンクを飲んでくれるらしい。それに倣って橋田もエナジードリンクの缶を1本手に取り、プルタブを上げた。
そう言えばこのエナジードリンク、どこのメーカーだかよく知らずに発注したけど、大丈夫かな? まあ大丈夫だろう! 多分!




