第4話 橋田とハシレンジャー
ある日の昼休憩。橋田が外出していたので、私も適当に外で済ませようとランチに入る店を物色していた。
今日は何を食べようか……。カツ丼かトンカツかで悩むな。どちらも捨て難いし、いっそのことどちらも食べられる定食屋を探し……。
「ぶぁーっはっはっは! 俺様はコウソクマン! 人間ども、この学校のルールに従ってもらうぞ!」
んん? 何の声だ? コウソクマン……? 怪人か何かか? まさか! そんなものがこんな近所に出るはずないしな!
……でも何か近くの小学校が騒がしいな。まさか本当に怪人がいたりなんかしないよな? ……ちょっとだけ覗いてみよう。小学校を覗くなんて、不審者だと思われないだろうか。でももし本当に怪人がいたら大変だしな! 念の為110番に電話する準備はしておくか。
近くの小学校の方へ向かい、校庭から中を覗くと、朝礼台の上に角帽を被ってメガネをかけたロボットのような怪人が立ち、拡声器で笑い声を上げていた。
ええ!? 怪人がいるぞ!? え、あれ怪人でいいんだよな? ロボットみたいだが……。
そしてよく見ると、その怪人に向かい合うように3人の男女が立っている。1人は赤いレザージャケット、1人は黄色いワンピース、そしてもう1人は青いスーツを着ている。
あれはもしや、噂の暴走戦隊ハシレンジャーか!? でもあの青いスーツ……。かなり見覚えがあるが、まさか……な?
ハシレンジャーと思われる3人組は、怪人に対して怯まず、真っ向から向き合っている。真ん中にいる赤いレザージャケットを来た男が、怪人に向かって大声を上げた。
「おいこら怪人! 子どもたちに何してやがる! まさか漢字ドリルをやらせようなんて思ってねーだろうな!」
「漢字ドリルはやった方がいいだろう!? ただの教育課程だと思うが!?」
「俺は小学生の時どうしてもカプレーゼって漢字を書けなかった! 同じ思いを子どもたちにさせてたまるか!」
「カプレーゼはカタカナだ! どこの漢字ドリルを使ってたんだ!?」
……あのツッコミのキレと声。ものすごく聞き覚えがあるぞ。ちょっと不審者すぎるが、少し中に入って彼らの顔を見てみよう。
私は校庭の端っこからこそこそと動き、怪人の斜め後ろ辺りの、彼らの顔が見える位置に移動した。
そして私は、見慣れた橋田の顔を見ることとなった。橋田、本当にハシレンジャーなのか? そう言えば、一応何かあった時のためにチェキを常備していたんだ。これで橋田の姿を捉えておこう。あ、せっかくだから私も映っておこう。なんかの状況証拠になるかもしれないし、ハシレンジャーと一緒に映りたい。
「さあ、行くぜお前ら!」
「さっさと片付けてワックスをかけるわよ」
「床掃除と間違えてないか!?」
「ハシレチェンジ!!」
どうやら橋田は、本当にハシレンジャーのメンバーだったらしい。橋田を含む3人組の周りを3色のタイヤが回り出し、彼らの姿は特攻服のようなヒーロースーツに変化した。ヘルメットはバイクに乗る時のフルフェイスのような形状をしている。
間違い無い。あれが噂の、暴走戦隊ハシレンジャーだ!
ハシレンジャーは変身を終えると、ポーズを決めて名乗り始めた。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!!」
彼らの背後で大爆発が起こる。聞くところに寄ると、あの爆発で敵を吹っ飛ばすのが彼らのメイン戦法らしいが……。そんな卑怯な戦隊に橋田が入っているのは何か複雑だな。
しかし……。これはどうしたものだろうか。最近橋田は突然早退することが多かったが、これが理由だったんだな……。戦隊ヒーローとしての活動なんてうらやま……じゃない、業務に支障が出たらどうするんだ!
……でもいいなあ、かっこいいなあ。私も戦隊ヒーローには憧れたものだが、まさかその憧れを橋田が先に叶えるなんて……。ちょっと悔しいが、橋田がハシレンジャーのブルーだというのはかなり好感度的にはプラスだな!
しかしこれは会社に何と報告するべきだろうか……。突然『橋田がハシレンジャーでした!』とか言い出すわけにもいかないしなあ。全く橋田のやつ、こんなことで上司を困らせるなんて! 罪な男だ!
とりあえずカツ丼とトンカツを両方食べて帰社した私は、同じく休憩から戻るところの社長を捕まえることに成功した。
「ミスター! ヘイミスター!」
「誰だねけったいな呼び方で私を呼ぶのは!? ……ってなんだ、鳥羽くんかね」
「ミスター、聞いてくださいよ。橋田がハシレンジャーだったんですよ!」
「はあ!? 橋田くん? 経理のかね? ハシレンジャーと言うと今噂のあの戦隊かね?」
「質問は2個までにしてください!」
「2個はいいんだね!?」
「とりあえず証拠はあるので見てくださいミスター! あ、社長だからミスシャーとかの方がいいですか?」
「良くないが!? なんだねその言いにくい呼び方は!?」
「ほら見てください、これが証拠のチェキです」
「普通そういう時スマホで撮らないかね!? なんでチェキ!? 何君はピースで映り込んでるんだね!? 地下アイドルの撮影会じゃないんだから!」
「ツッコミは2個までにしてください!」
「ツッコミも!?」
社長はあまりに予想外のことに驚いていたが、その驚きを利用して勢いで『橋田をハシレブルーとして我が社の広告塔にしましょう!』と押し切ることに成功した。なんて有能なんだ私は!
あとはこれをどう橋田に伝えるかだが……。今日はもう橋田は早退してしまっていて、会社には帰って来ない。明日橋田が出勤した時に呼び出して聞いてみるか。




