第37話 デート後の緊急事態
橋田が通信に出ると、予想していたのとは違う声が微かに聞こえる。女の声に聞こえるが……。黄花くんではないな。ということは、橋田の女か!?
それは困ったぞ……。今しがたデートを終えてきたところだと言うのに、もう他の女が出て来るなんて……! クソ、予想外だったぞ!
橋田の顔はものすごく険しいものになっていて、まるで敵と話しているようだ。聞こえてくる声も、いつの間にか男の声に変わっている。
「どういう状況なんだ……?」
今通信をしている橋田に話しかけるわけにもいかないし、私はここで微かに聞こえる声を拾っているしかない。女なのか、敵なのか、どっちなんだ! ……いや、女だったとしたら私の敵だな。それはもう決まっている事実だ。ということは、どちらにせよ私にとっては敵だということだ!
これはもう、後で橋田に何があったのか聞くしか無い。今はとりあえず落ち着こう。何か落ち着く方法は……。あ、酢昆布があったぞ! これでもしゃぶっておこう。
だんだん橋田の声のトーンが上がってきている。またツッコミをさせられてるのか? だとしたら、相手は何者だ? そんな呑気な通信なのか?
そんなことを考えていると、橋田の声がより大きく響く。
「素晴らしい気遣い! 親友かお前は!」
なんだそのツッコミは……? よし、分析してみよう。『親友か』と相手に言っているということは、相手は少なくとも親友、また友人関係には無いことが分かる。そしてその前の『素晴らしい気遣い』という言葉。これがツッコミとして出るということは、相手は橋田に対して気遣いをするような立場ではないということだ。つまり通信をしている相手は、橋田にとって親しくもなければ気遣いをするような友好的な関係でもない相手だということ。
ここから導き出される答えは……。なんだ? 社長とかか? いや、でもタメ口だしな……。
私が必死で通信の相手を導き出そうとしていると、橋田がチラッと私の方を見る。え、なんで見たんだ今! 気になって仕方ないじゃないか!
「そんな時間は存在しない! 昼か夜かどっちだ!」
橋田がそう言った直後、通信は切られた。本当に何の話しだったんだ? 聞いてみるか。
「橋田、今のは……」
「敵幹部からです。どうやら俺たちの基地が占拠され、ハシレイが拘束されたようですね。明日の昼12時に全員で来るよう言われました」
敵の幹部……! よ、良かった! 女じゃなかったんだな! ひと安心だ!
それにしても敵幹部からハシレチェンジャーに通信が来るなんて、司令は何をしてるんだ! 基地も突き止められてるじゃないか!
だが敵幹部から呼び出しがあったということは、またしても決闘ということだな!
「なるほど。東京バ〇ナを買って行かないとな」
「聞いてましたよね絶対!? 手土産は要らないですが、とにかく紅希と黄花に伝えないと! 部長は黄花に通信してください!」
「魚介団! 間違えた了解だ!」
「なんですかその魚の軍団は!」
私は橋田に言われた通り、黄花くんに向けて通信を開始する。
「こちら黄花。どうしたのかしら?」
「こちら桃子だ! 大変なんだ黄花くん! 基地が敵の幹部に占拠されて、司令が捕まって……」
「て、て、手ぬぐい!」
「い……イカ!」
「蚊」
「あ、ズルいぞ黄花くん! 1文字は禁忌じゃないのか!」
「あら、そんなルール何も提示されていないわよ。先にルールを言わなかった桃子さんの落ち度じゃないかしら」
「ぬうう……。仕方ない、蚊だな! か、か、カキフライ!」
「イベリコ豚」
「た、た……。太鼓!」
「こだわりポーク」
「く、く、く……。胡桃!」
「みちのくもち豚」
「なんでさっきからブランド豚ばっかりなんだ!?」
「これは余裕の象徴よ。桃子さん、果たしてあなたに私が敗れるかしら?」
「むう……。なかなかかましてくれるじゃないか! なら私が勝ってみせよう!」
橋田の方を見ると、頑張ってスマホに文字を打ち込んでいる。そうか、紅希くんはチェンジャーの通信機能を使えないんだったな。機械音痴で。大変なことだ。
「よし! た、だな! た……た……田んぼ!」
「ぼっちポーク」
「それはブラント豚なのか!? ただの孤独な豚じゃないか!?」
「失礼ね。ぼっちポークは好んでソロ活動しているのよ」
「ソロ活動!?」
「そうよ。バラバラに活動しているから、豚バラと呼ばれているわ」
「豚バラの由来はそんなことだったのか……。なるほど、奥が深いな」
「さあ桃子さん、次はくからよ」
「よ、よし。くだな?く……く……」
考えているところで、隣にいた橋田から声がかかる。
「何してるんですか部長! そろそろ向かいますよ!」
「あ、ああそうだな。 すまない黄花くん。続きはまた今度だ」
「仕方ないわね。紅希と一緒に待ってるわよ」
「部長……。黄花と何をしてたんです?」
「さあ行くぞ橋田! またしっかり幹部を倒さないといけないからな!」
「質問に答えてもらえますか!?」
「私の好きなアウターは、フード付きのものだ!」
「いつ俺がそんなこと聞きました!?」
こうして私たちは、紅希くんと黄花くんが待つ場所へと向かい、幹部を倒す作戦会議をすることになった。




