第29話 憧れのボディビル
橋田と一緒に虹色の空間を抜けると、何かのステージの上に出た。見渡すと、屈強な男たちが倒れている中、真っ黒な筋肉を見せつける怪人の姿があった。ロボットみたいな見た目のくせに筋肉があるんだな……。なんかちくはぐで気持ち悪いな。
「ふんっ!」
「はあーっ!」
「ほおっ!」
怪人がポーズを決める。おお、見事なものだな。あんなロボットみたいな見た目でも、ボディビルへの熱意が感じられるぞ!
……ん? ステージの袖に紅希くんと黄花くんの姿が見えるな。まさか、2人もボディビルを!? それはズルいぞ! 私だって普段から鍛えてるんだ! 今こそ私の肉体美を見せつける時!
私は橋田から離れ、紅希くんと黄花くんがいるステージの袖まで移動した。
「あら桃子さん。ここに来たってことは、ボディビルね?」
「その通りだ! 私は普段からジムに通って鍛えてるからな! 君たちには負けないぞ!」
「言ったな桃子ー! 俺だって負けねーから見てろよー!」
「桃子さん、そこにボディビル用の衣装がいくつかあるわ。好きなのを選んで着替えるといいわよ」
「おおそうか! ならこの肉襦袢を」
「やれやれにもほどがあるわね。素肌を見せないでどうするの。ちゃんと肌が見える衣装にしないと」
「で、でも! 橋田が見てるんだぞ! 恥ずかしいだろ!」
「いいから着替えて来て。すぐ出番は回ってくるわよ」
黄花くんがそう言うと、紅希くんがステージに歩み出る。もうすぐ順番が回ってくるじゃないか! 急がないと!
適当にピンクのタンクトップとピンクのショートパンツを手に取り、更衣室へ急ぐ。着替えながら耳を澄ますと、紅希くんの掛け声が聞こえてくる。
「きょ、きょえええええ!!」
「どんな掛け声だ! おい何してるんだ紅希!」
「何って、ボビー・ビルだよ!」
「誰だそれは!? 変なアメリカ人を捏造するな!」
「ボビーは3食豆の煮物を食うナイスガイだぜ!」
「修行僧か! そんなやつがボディビルの大会に出るな!」
「でもボビーは」
「ボビーはどうでもいい! 降りてこいバカ!」
橋田の声の方が大きいじゃないか……。普段はそんなに声が大きい印象が無いのに、ツッコミになると橋田の声はよく響くんだ。不思議なものだな。
着替え終わってステージ袖に戻ると、今度は黄花くんがステージに歩き出すところだった。黄花くんはステージの真ん中まで歩くと、ポーズを決めて掛け声を発した。
「はんむらびほうてんっ!」
「だからどんな掛け声だ! やり返されそうな声を出すな!」
「マナーがなっていないにもほどがあるわね。ボディビルは静かに見るものよ。ポージング中の撮影・録音は10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が科せられるわ」
「映画か! ボディビルの大会なんてむしろうるさいものだと思っていたが!?」
「NO MORE泥棒よ」
「ただの犯罪撲滅キャンペーンじゃないか! いいからお前も降りて来い!」
い、いよいよ次は私の番だな……。なんか緊張してきたぞ! いやいや、私は普段から鍛えてるんだ。こんなことで怯んでたら、怪人なんか倒せやしない! さあ、行くぞ!
緊張しながらステージに向かって歩き出し、中央に到達すると、私は思い切ってポーズを決めた。
「間もなく2番線に電車が参ります。危ないですから黄色い線までお下がりくださいっ!」
「長すぎますよ掛け声が! なんで前回から電車に拘ってるんですか!?」
「見てみろ橋田、私のこの美しい溶連菌を!」
「それは筋肉じゃなくウイルスです! 早く病院に行ってください!」
「ぬうう、怪人めやるな。私ももっとウキウキになりたいものだぞ!」
「ムキムキでしょう!? 楽しみにしてどうするんですか! ちょ、いいから早く降りて来てください!」
むう、橋田のやつめ。私がこんなに際どい格好をしているのに、ツッコミに集中とは……。筋肉もいいが、もっと色気を磨かないとな。
私たちが橋田の横に並ぶと、橋田が怪人に向かって声を張り上げた。
「待たせたな怪人。今から俺たちハシレンジャーがお前を倒す!」
「いや待たせすぎじゃん? だらだらしないでさっさと戦ってくんね?」
「お前ムキムキのクセにそんなギャル男みたいな喋り方なのか!?」
「吾輩だってそんなに暇じゃないじゃん? お前らみたいなのと戦ってる暇があったら筋トレしたいし?」
「一人称は吾輩なのか!? その感じで!?」
「吾輩はボディビルマンだし。代謝アゲアゲの筋肉見ておくんなまし?」
「もうそれはギャル語でもないぞ!? おくんなましってなんだ! 花魁か!」
うん、誰の筋肉よりも橋田のツッコミが鍛えられてるな。花魁なんてパッと出るワードじゃない。大したものだ。
そんなことを考えていると、紅希くんが大きな声を上げた。
「おめーみてーな自分の筋肉しか見えてねーやつは、俺たちがぶっ潰す! もし俺たちが勝ったら、今日からおめーの食事はキクラゲだけだ!」
「2食目で飽きそうなチョイス!」
「へえー迎え撃ってやろうじゃん? キクラゲだけでも筋肉には十分だし?」
「十分なわけあるか! お前負けたら生涯キクラゲしか食べられないんだぞ!? もっと危機感を持て!」
「行くぜおめーら!」
「ハシレチェンジ!」
私たちの周りを4色のタイヤが回り出し、私たちはハシレンジャーへとチェンジした。




