第28話 そわそわの2人
橋田と栞のお見合いが終わった翌日——。私は橋田の隣でいつものようにパソコンのキーボードを叩いていた。栞の『お姉ちゃんをよろしくね』発言があったから、今朝出社するまでは私もかなり緊張していたが、橋田はどうやら私より重症のようだ。やけにそわそわしながら、チラチラと私の顔を見てくる。
栞の発言で私のことを意識してくれたのか……? だとしたら栞、グッジョブすぎるぞ!
……でも私はどう接したらいいんだ? 異性として意識されてしまったら、逆にどうしていいか分からなくなったぞ。でもとりあえず、私は平静を装っているのがいいんだろうなあ。本音は今すぐにでも橋田に告白したいが、橋田はまだ私を少し意識し始めたぐらいの段階。そんなことをしたら間違い無く引かれてしまう。
よし、ここはやはり、いつも通りに接してみよう!
「どうした橋田? さっきから全然進んでないじゃないか。進まないと言えば、私は電車の中を進行方向とは逆向きに走るのが好きでな」
「何が目的なんですかそれは! 相対的に自分がいる位置は進んでないかもしれないですけど!」
「車掌と目が合う時はちょっとだけ気まずいな」
「一番後ろの車両まで行ってるじゃないですか! 車内を駆け抜けないでもらえます!?」
「最近は側宙で車両を跳び回るのが好きだぞ」
「めちゃくちゃなことしますね!? 非常停止ボタン押されますよそんなことしてたら!」
「どうだ? 橋田も好きか?」
「……え? あ、ああ、そんなわけないじゃないですか! 俺は電車で暴れません!」
ん? なんで今橋田は戸惑ったんだ? ……あ、私が『橋田も好きか?』と聞いたからか……。そういう意味じゃなかったんだが、今思うとかなりギリギリの聞き方をしてないか!? 私、やらかしてないか!? なんか思わせぶりな上司みたいになってるじゃないか!
……いやいや落ち着け。私の発言に他意が無いことは、橋田自身がよく分かっているはずだ。私はあくまで上司として橋田と接しなければならないんだぞ!
……でも流石にこんな明らさまな反応をされたらつつきたくなるな。もう少しつついてみよう。
「具合でも悪いのか橋田? ツッコミの間が悪かった気がするが」
「い、いえ。体調は問題ありません。少し戸惑ってしまっただけで……」
「橋田が戸惑うなんて珍しいな。カモノハシが筆ペンで換気扇を描くぐらい珍しいぞ」
「そんなやつ人間でもいませんよ!? いつどんな時に換気扇を描こうと思うんですか!」
「うーん、ツッコミは正常か。さっきのがたまたま戸惑うような発言だったのか? 本当に体調は大丈夫なのか? 熱があるか測ってやろう。ほら、おでこを出せ。私が肘で測ってやる」
「普通手でしょう!? 肘でそんな正確に温度が分かりますか!?」
橋田のツッコミはいつも通りだが、明らかに顔が赤い。本当に私を意識してくれてるんだな……。栞の一言でここまで状況が変わるとは……。栞のやつめ、さては恋愛上級者だな?
そんなことを考えていると、橋田のハシレチェンジャーに通信が入った。司令だな?
「碧、ワシや! あの日あの時あの場所で同じ星空を見たあの子や!」
「誰だそれは! 情報が曖昧すぎて特定できないぞ!」
「ああすまんすまん間違えた。ハシレイや!」
「分かってる! 早く用を言え!」
すごいな司令は。怪人が出ただろうにこのボケよう。この平静さは私も見習わないとな。
「ホーテーソク団の怪人や! 紅希と黄花はもう向かっとる!」
「分かった! 場所はどこだ?」
「今送るで! ちょうどセールがやってるふんどし専門店の位置情報や!」
「そんな情報かなぐり捨てろ! 怪人の場所を送れ!」
「ああすまんすまん。ついな、最近ふんどしにハマってるんや。ちょっと小一時間ふんどしについて発祥や歴史、変遷も含めて詳細に語ってええか?」
「いいわけあるか! この状況でだらだらするなお前は!」
「しゃーないな、怪人倒したら聞いてくれや。ほんで碧、今桃子ちゃんも一緒か?」
「ああ。一緒に向かうことも可能だ」
「よっしゃ! なら2人で向かってくれ! 桃子ちゃんのチェンジャーにも位置情報を送っとくからな!」
「頼んだ!」
……あ、そうか。私も今はハシレンジャーなんだった。なら司令も、私にも通信してくれたっていいじゃないか! まあでも、橋田に通信してから私に通信した方が話が早いのは分かる。ツッコんでくれるからな。それに、橋田が会社にいるなら私も一緒にいる可能性がある。合理的な考え方だな。私の感情は置いておいて。
橋田は椅子にかけたジャケットを羽織り始める。同時に、私のチェンジャーにも位置情報が送られてきた。
「部長、ホーテーソク団です! 行きましょう!」
「了解だ! 司令から位置情報が送られてきてるな。おお! このふんどし専門店は私も興味が……」
「ふんどしはどうでもいいんです! 早く怪人のところに行きますよ!」
「ふんどしを雑に扱うなよ橋田。君だってふんどしを履いて人前で踊ることぐらいあるだろう?」
「無いです! 絶対に無いです! ああもうそっちじゃないです!」
通信が私に直接来なかったのは複雑だが、それでも橋田と一緒に出動できる仲間になれたのは嬉しいことだ。こうやって橋田と肩を並べて走っている事実に、感動すら覚える。よし、このままとりあえず怪人を倒していって、ハシレンジャーの仲間の信頼を勝ち取りつつ、橋田の気持ちもゲットしてやるぞ! 覚悟してろよ、橋田! ……あと怪人!




