第27話 栞と橋田と協力者
栞が私たちの向かいに座るのを見て、私は橋田に栞を紹介し始める。
「じゃあ紹介するぞ橋田! こちらはフランス国王ルイ16世の王妃だ!」
「どこがマリーアントワネットなんですか! ブルボン朝の要素無いですよ!?」
「ああすまない。こちらは私の妹、鳥羽栞だ。普段はドーナツの穴を売る仕事をしてるぞ」
「じゃあ詐欺師じゃないですか! 適当に話さないでもらえます!? ……え、ていうか妹ですか!?」
橋田は栞の方をチラチラと見ながら、驚きの声を上げる。私に妹がいたことに驚いてるのか? 言ったこと無かったかな……。
おっと、栞にも橋田を紹介しないとな!
「そして栞! こちらは私の部下であのハシレンジャーのブルー、ハシダーリ・
アオインティヌスだ」
「勝手にギリシャ人みたいにしないでください! なんですかアオインティヌスって!」
「普段は目的も無く走って山を超えているぞ」
「『無駄に走るメロス』じゃないですか! ただ己を鍛えたい人ですか!?」
「百均をおかずに白飯を食べるらしいぞ」
「特殊な食欲! そろそろちゃんと紹介してもらえます!?」
「ううん、紹介する必要は無いよお姉ちゃん。百均をおかずにご飯食べることも知ってるから」
「嘘をつけ嘘を! 俺がいつそんな奇行をした!?」
……ん? なんか違和感があるぞ。2人ともお互いのことを知ってるような……。
「おお? もしかして2人は資利合なのか?」
「なんですかその利益しか考えてない変換ミスは! 逆にそれを出す方が難しいでしょう!?」
「そう、私たちは知り合いだよ。お姉ちゃんには言ってなかったけどね」
なんだ栞のやつ、知り合いなら言ってくれたら良かったのに! 水臭い妹だ。そう言えば栞と橋田は同い年の気がするな。もしかして同級生とかか? ちょっと聞いてみよう。
「おおそうか! 2人はどういう関係なんだ? 運転手と車掌か?」
「なんで関係性が電車内で完結してるんですか!」
「ならなんだ? ドア前を陣取る人とその正面に立つ人か?」
「1回電車降りてもらえます?」
「ぽとり途中下車の旅だな!」
「落ちてるじゃないですか! 放り出されてどうするんですか!」
私たちがいつものペースに入ろうとしていると、栞が口を挟んできた。
「お姉ちゃん、この人は私の高校時代の元カレだよ。突発的にドラミングをする癖が嫌で別れたの」
「そんな癖は無い! 俺はゴリラか!」
……は!? 橋田が栞の元カレ!? てことは、栞が橋田の元カノってことか!? 2人は付き合ってた!? なんで栞はそれを言わなかったんだ! え、とっくに先を越されてたというわけか!?
待て待て、ここで取り乱したら作戦の意味が無い。一旦表情には出さず、落ち着いて対処するんだ。
「そうだったのか、橋田はニシローランドゴリラか……」
「真に受けないでください部長! あと種類を限定しなくていいですから!」
「……ん? ちょっと待てよ? 橋田が付き合ったことがあるのは1人と3杯だったはずじゃ……」
「イカの数え方! 軟体動物と付き合ったことは無いです!」
……ということは、橋田を『理屈っぽい』という理由で振った元カノが、栞!? おいおいちょっと待て。それは話が変わってくるぞ! とりあえず私がこの場にいちゃいけない気がする! よし! 逃げよう!
「では、後は若い者だけでゆっくり……」
「逃げないでください部長! ああちょっと本当に出て行くんですか!?」
私は橋田の方を見ることができず、そのまま部屋を出てしまった。部屋を出ると、何故か襖の間から中を見ている紅希くんと黄花くんがいる。ちょうど良い、今私は頭と心の整理ができてないんだ。少し彼らに助けてもらおう。
私は小声で紅希くんと黄花くんに話しかけた。
「2人とも、何をしてるんだ?」
「げっ! 桃子じゃねーか! 何してんだよー!」
「びっくりにもほどがあるわね。桃子さんは碧とあの女の子の仲介じゃなかったの? なんで出て来たのかしら」
「少し考えたいことがあって……。それより、なんで2人は部屋を覗いてるんだ?」
紅希くんと黄花くんは顔を見合せ、私の方に顔を寄せてきた。
「だってよー、碧がお見合いなんて見過ごせねーよ! あのカタブツの碧が女と会うんだぜー! ほんとはホットドッグでも食いながら見たかったけどよー、黄花がそれはやめとけって言うんだよー!」
「当たり前よ紅希。ホットドッグなんて食べたら、ケチャップとマスタードが付いてくるでしょう? そのケチャップとマスタードで襖にハートマークを描きたくなったらどうするの。見つかったらタダじゃ済まないと思うわ」
「ハートマークとかより匂いとか音でバレると思うが……。まあ確かに、私も君たちの立場なら覗いてしまうかもしれないな」
そうこうしている間にも、橋田と栞は話をしている。気になるが、戻るわけにもいかないしなあ……。あ、そうだ。
「紅希くん、黄花くん、私も一緒に覗いていいか?」
「意味が分からないにもほどがあるわね。桃子さんの立場なら、また部屋に戻ればいいじゃない」
「そーだぜ! 俺たちは中に入ったら碧に眉間を撃ち抜かれるからよー、だからこっそり覗いてんだぜー! 桃子なら脛を撃たれるぐれーで済むだろー?」
「なんで私も撃たれるんだ!? いや確かに、このお見合いを無理やりセッティングしたのは私だが! 流石に撃たれたらショックだぞ!」
「そうよね、想い人から撃たれたりなんかしたらショックよね」
……何? 黄花くん、今なんて言った?
「黄花くん、気付いてたのか……?」
「当然にもほどがあるわね。桃子さんの顔を見てたら、碧の耳の形に惚れてることぐらい分かるわ」
「なんでそんな限定的な部分に惚れるんだ! 別に私は耳フェチじゃないぞ! 私は人差し指の第2関節フェチだ! あと橋田のサラサラの黒髪が目にかかる瞬間が好きなんだ! ……あ」
やばいぞ、橋田への想いを2人に完全に吐いてしまった! 同じ戦隊の仲間として戦う2人がこの事実を認識してしまったら、戦いにくくなるじゃないか! 私のバカ! タコ! いなり寿司!
焦っていると、黄花くんがフッと微笑んだ。
「大丈夫よ桃子さん。私は桃子さんが碧のことを好きでも、今までと何も変わらないわ。あと分かってて欲しいのは、私は碧のことを男として見てないわ。仲間として、あとツッコミ役として見てるから。私は桃子さんの恋を応援するわ」
「黄花くん……!」
なんていい娘なんだこの子は……! 全て私の心情を察してくれた上に、応援宣言なんて! 以前一瞬でも黄花くんをライバル視したのが恥ずかしい。
「なんだー? 何の話だー? ミートボールかー?」
「そうよ紅希。もう紅希はミートボールの話だけしてればいいのよ」
紅希くんは何が何だか分かってないようだが、まあそれでいい。分かってない方が都合がいいからな。とりあえず、黄花くんは私の味方だ。心強いな!
「そんなことよりよー、碧たちが何話してるのか聞こーぜ! 俺気になって仕方ねーよ!」
「ああ、そうだな! 2人とも、耳を澄ますんだ!」
襖の隙間から部屋の中を覗き、橋田と栞の会話に耳を澄ませる。2人は何の話をしてるんだ?
「久しぶりだね碧くん。見た目は全然変わってなくて卑弥呼だけど、今までどうしてたの?」
「誰が邪馬台国の女王だ! どうやったらそう見えるんだ!? ……まあそれなりにな。普通に生きてきたよ」
「お姉ちゃんが碧くんの写真を送ってきた時はびっくりしたよ。まさか高校時代の元カレとお見合いをセッティングするなんてね」
「栞はなんでここに来た? 俺と会う理由なんて無いはずだろう?」
「うーん、久しぶりに会ってみたかったからかな。碧くんがどんな大人になってるのかちょっと気になったし。でも楽しそうに生きてて良かったよ。ドラミングする癖は変わってないけど」
「ドラミングは昔からしていない! そんなクールじゃないことを俺がするか!」
「……やっぱりまだクールを目指してるんだね。でも碧くん、気づいた方がいいよ? 碧くんはクールでいるよりも、面白いツッコミをしてる時が1番輝いてることに。まるで常夜灯みたい」
「そんなに光ってないじゃないか! なんでそんな地味なもので例えた!?」
「ふふ、やっぱり変わってない。そういうところ、結構好きだったよ」
何!? 栞のやつ、まさかまだ橋田のことを……!?
立ち上がった栞に、橋田がまた声をかける。
「もう行くのか?」
「うん。久しぶりに会いたかっただけだし。碧くんともう一度付き合うつもりは無いからね。あと碧くんには私よりいい人がいるよ。お姉ちゃんをよろしくね」
「……は? どういう……」
し、栞……! あの妹は、私のことを考えて、私の気持ちに気付かせるために橋田に会いに来たのか! なんてできた妹だ!
感動して涙が出てきてしまった……。少し下がって涙を拭こう。
涙を拭き終わってまた襖の方に目を向けると、紅希くんと黄花くんに向かってお茶菓子が2つ飛んで来た。
「さぼんっ!」
「ばすろまんっ!」
お茶菓子は見事2人の額に命中。入浴剤みたいな悲鳴を上げ、2人は赤くなった額を押さえている。
橋田のやつ、2人が覗いてることに気づいてたのか……。でも私が今の会話を聞いてたことは知らないんだよな……? 橋田、少しは私のことを意識してくれただろうか?
明日からまた仕事で会うが、少し緊張してしまうな……。




