第17話 橋田を救うために
休憩時間になり、私は橋田と一緒に休憩室へ向かっていた。
「しかしどうしたら私も変身できるんだろうなあ」
「まだ言ってるんですか部長。いい加減諦めてください」
「そう言われても私も変身したいんだ! 諦めろなんて簡単に言うもんじゃないぞ橋田。ヒーローになるのは私の子どもの頃からの夢、英語で言うとドワーフだ!」
「ドリームです! 小人になりたいのかヒーローになりたいのかはっきりしてください!」
「うーん、じゃあ間を取ってコーローになるか」
「なんですかコーローって! ホイコーローですか!?」
「いや、厚労省だ」
「厚生労働省ですか!? そのもの!?」
相変わらず橋田といると緊張して変なことを口走ってしまう。でももう、これでもいいんだ。橋田と話すのに1番いいのは、多分このテンポ感だからな。私がボケて橋田がツッコむ。これが私たちの会話なんだ。
しかし、そろそろ本当に私もハシレンジャーに変身したいものだ。いや、普通は変身できないことなんて分かってるんだが、それでもやっぱり憧れの戦隊ヒーローを目の前にしてしまうと、私も希望を抱いてしまう。
「はあ……。どうすればハシレンジャーと一緒に戦えるんだ」
「しつこいですね部長。わざわざ危険に身を投じなくてもいいでしょう」
「だが私はみんなを守りたいんだ! 家族を守れなかったあの時、私にはそんな想いが芽生えたからな」
「家族を守れなかった……? 子どもの頃に何かあったんですか?」
お、橋田が食い付いてきたな。仕方ない、なら私がヒーローに憧れたきっかけの話をしてやろう。
私はいつも通りカップラーメンにお湯を注ぎ、3分待ちながら話し始める。
「ああ。あれは私が小学1年生の頃だったか……。誤って家族が殺されてしまったんだ。私の母の手によって」
「え? どういうことです?」
「私の母は毎日のように彼を追いかけ回して、なんとか追い出そう、あるいは殺そうとしていたんだ。あれを見ているのは辛いものがあったな……」
橋田は神妙な顔で私の話を聞いている。そうだぞ、何も私は理由も無くヒーローに憧れてるわけじゃない。ちゃんとヒーローになりたい動悸があるんだ。
真剣に聞く橋田の方を見ながら、私は話を続ける。お、このカップラーメン、ちょっと味が薄くないか? お湯を入れすぎたかな……。
「彼は素早く逃げ回っていたんだが、ある日母の手によって潰されてしまった。母が手を振りあげた瞬間、私は終わったと思ったよ」
「……ん? 潰された……?」
「母のスリッパの裏に付いた彼の遺体は、私が責任を持って庭に埋めてお墓を作ってあげたよ。悲しかったなあ」
「待ってください、その『彼』ってまさか……」
「ん? ああ説明を忘れていたか。彼というのは、同居していたゴキブリのことだ」
「やっぱりそうじゃないですか! 途中からおかしいと思ってましたよ! ゴキブリのこと家族だと思ってたんですか!?」
「当たり前だ! 同じ家に住んでいるものは皆家族! 当然の価値観だ!」
「価値観がぶち狂ってますね!? ゴキブリはどちらかと言えば侵入者とか害虫でしょう!?」
「おい橋田! 私の家族に悪口を言うな! 富士大海は立派なゴキブリだったんだぞ!」
「力士みたいな名前! 無駄に強そうにしないでください!」
「とにかく! 私は富士大海を守れなかった過去から、いつかヒーローになることを決意したんだ! それを私より先に後輩が変身してしまうなんて……ずるいぞ橋田!」
橋田は呆れたように首を振り、私に向かって口を開く。
「いいですか部長、ヒーローというものは……は?」
橋田は突然後ろを振り向く。私もつられて橋田の背後を見ると、ブラックホールのような黒い空間が広がっていた。
そのまま橋田は黒い空間に吸い込まれ、消えてしまった。
「……え?」
橋田が消えてしまったぞ! これは、ピンチなんじゃないか!? とりあえずハシレンジャーの基地へ行って、司令に頼んで橋田たちの様子を見よう!
私はしっかりとカップラーメンをスープまで飲み干し、ハシレンジャーの基地へと急いだ。
基地へ着くと、司令は寝転がってテレビを見ている。高校クリケットか。なかなかマニアックなスポーツを見てるな。
……いやそんなことはどうでもいいんだ! 橋田を助けないと!
「司令! 大変だ!」
「おお!? なんや、桃子ちゃんか。どないしたんや? そんな慌てて」
「さっきまで私は橋田と一緒に会社の休憩室にいたんだ! だが突然橋田の後ろに現れた黒い空間に、橋田が吸い込まれたんだ!」
「なんやて!? それは大ピンチやんか! どないしたらええねん!」
「それを考えるのが司令の役目じゃないのか!? とりあえず、なんとか連れ去られた橋田を助けたい! ハシレチェンジャーは余ってないのか!? 余ってたら私に貸してくれないか!?」
私がそう言うと、司令はヘルメットのバイザーを上げ、不安そうな目を覗かせる。
「あるにはあるけどや……。桃子ちゃんを危険に晒すことになってまうで?」
「構わない! 私は昔から戦隊ヒーローになりた……違う、橋田を助けたいんだ!」
「はあ……。分かった。ほんまはあんまりこんなことしたくないんやけど、そこまで言うならしゃーない」
そう言うと司令は机の引き出しから、橋田たちが持っているのと同じハシレチェンジャーを取り出した。
ハシレチェンジャーは本当にもう1つあるのか! だとしたら何故今までしまってあったんだ! それを使えば、私も変身できたのに!
……おっと、また本音が漏れてしまった。でもこれは、橋田を助けるために変身したいということだからな! 決して私の個人的な欲とかじゃないことは断っておこう。
「これを使えば、碧たちのところへは行ける。でもこれは、予備とかやなくて試作品なんや。武器は爆弾で固定されてて、それ以外の武器は使えへん。つまり、桃子ちゃんが爆弾っちゅう武器に適正が無いと、使いこなすことができひんのや。それでもやるか?」
なるほど、試作品か。だから司令は今までしまっておいたんだな……。だとしても、私は今橋田を助けたい! 他に手段は無いし、私が行くしか無いんだ! あと私も変身した……いや今はそれはいい! とにかく、私が行かないと!
「やってみるだけやってみる! それが鳥羽桃子流だからな! さあ、そのハシレチェンジャーを私に!」
「ほんまにええねんな? 後悔しても知らんで?」
「大丈夫だ! 私は人生において後悔したことはほぼ無い! 唯一の後悔……というか悔やんだことは、橋田が私の部下で手を出しづらいことだけだ!」
「しゃーない、分かった。ほなこれで行ってきい!」
「ちょっと待ってくれ。このままじゃハシレチェンジャーが可愛くない。ピンクに塗ってもいいか?」
「自分今まで碧を助けなって意気込んでたやろ! なんで今ハシレチェンジャーをデコる発想が出て来んねん!?」
「それはもうギャルの性というやつだ! 仕方ない!」
「はあ……。はよしてや?」
私は急いでハシレチェンジャーをピンクに塗り、乾かしてから左腕に装着。そのまま無我夢中で走り出した。




