第11話 身体暴走と本音
「ああ……。すぐにトイレに行きたくなっても知らないぞ……」
ハシレブルーこと橋田が心配する中、ハシレッドは飲み干したエナジードリンクの缶を放り投げた。おっと、それはちゃんと拾っておかないとな。ポイ捨ては良くないからな。
「うおー! なんかパワーが湧いてきたぜ!」
ハシレッドはそう言うと、変身用のブレスレット——ハシレチェンジャーのアクセルを回し、叫んだ。
「身体暴走!」
身体暴走……? なんだそれは? でもなんか響き的にパワーアップっぽいな。ちょっと待て、てことは私は、ハシレンジャーのパワーアップの瞬間に立ち会えたのか!? それは感動ものじゃないか!
期待の眼差しでハシレッドの方を見ていると、その体に変化が起き始めた。全身の筋肉が盛り上がり、ムキムキに。これが身体暴走か! 明らかに強そうでいいな!
するとハシレッドはトレーナーマンの方へ走り出したかと思ったら、次の瞬間にはトレーナーマンは吹っ飛んでしまっていた。
ええ!? めちゃくちゃ強くなってるじゃないか! 身体暴走、すごいパワーアップだな!
「おおー! こいつが身体暴走のパワーか! これならトレーディングカードゲームでも勝てる気がするぜ!」
「頭脳戦には関係無いだろう!? しかし凄いパワーだな……」
「馬鹿力にもほどがあるわね。あれならニットも引きちぎれるんじゃないかしら」
「分かりにくい例えをするな! どこまで凄いのかいまいち伝わらないぞ!」
ハシレンジャーたちは橋田を除いて呑気なものだ。今パワーアップが起きたと言うのに、よく冷静でいられるな! 私はテンションが上がって仕方ないぞ!
あ、そうだ。身体暴走のハシレッドも動画に収めておこう。これもエナジードリンクの作用かもしれないしな。
ハシレッドの方へスマホのカメラを向けると、向こうの壁に埋もれてしまっていたトレーナーマンがなんとか抜け出し、片膝を着きながらハシレンジャーを睨む。
「どこにこんなパワーが……! ですがいいでしょう! どうせ私の言うことには逆らえないのです! ハシレッド! 魚をあげるから私の手当をしなさい!」
「やなこった! 誰が魚なんかで釣られるかよ!」
そう言うとハシレッドは再びトレーナーマンのところまで一瞬で移動し、いつの間にか取り出していた鉄パイプを振りかぶる。
ハシレッドの武器は鉄パイプなのか……。暴走族がモチーフっぽいから、それっぽい武器を選んでるのかもしれないな。司令め、変なセンスをしてるな。
「食らいやがれ! 身体暴走! ハシレストライク!」
ハシレッドの鉄パイプは熱されたように赤くなり、トレーナーマンの腹に食い込む。
「ぎゃあああああ!! 熱い! 熱いですって! 神引きのガチャぐらい熱い!」
「例えはそれで合ってるのか!?」
橋田がツッコミを入れる。仲間がパワーアップして怪人を倒そうというのに自分の仕事を忘れないなんて、流石橋田! 冷静な男だ! また好感度が上がってしまったじゃないか!
橋田のツッコミと同時にハシレッドが鉄パイプを振り抜き、トレーナーマンは水族館の壁をぶち抜いて飛んで行ってしまった。
「しゃああああ! 倒したぜー!」
「身体暴走……。恐ろしい機能だな。しかし身体暴走を使うと歯止めが効かなくなるという話だったはずだが……」
そんなことを言いながら、橋田たちは変身を解除する。何気にヒーローの変身解除の瞬間を見られるのもレアだな! もしかして私はかなり美味しいポジションにいるんじゃないか? ……いやでも、いつかは私もハシレンジャーになりたいなあ。
生身の体に戻ったハシレンジャーたちの元に通信が入る。司令だろうか? 司令はあんな感じだが、私と話している時にもちゃんとモニターを見てハシレンジャーの戦いを観察していた。何か今の戦いで伝えたいことがあるのかもしれないな。
「紅希! 初めての身体暴走おめでとう! どうや、限界を超えた身体能力を発揮した感想は?」
「おう! なんかめちゃくちゃ気持ちいいぜ!」
「ハシレイ、身体暴走を使うと歯止めが効かなくなるというのはどういう意味だ? 今のところいつもの紅希にしか見えないが」
「ああ、あれは脳に影響が出るんや。力を振るうことしか考えられんくなるんやけど、紅希の場合は普段から何にも考えてへんから影響が出んかったみたいやな」
「なんだそれは!? つまり紅希には身体暴走のデメリットが無いのか!?」
「むちゃくちゃにもほどがあるわね。なら紅希は常にあのエナジードリンクを飲んでいた方がいいわね。人工衛星がそう告げているわ」
「なんでそんな機械的なものがお告げをくれるんだ! 星じゃダメだったのか!?」
橋田は変身を解除してもテンションが変わらないな。いいことだが、そのままだと正体がバレるぞ?
……ああいや、私が橋田の広告を作ったらどっちにしろバレるのか。じゃあいいか。
しかしハシレンジャーの戦闘、初めて生で見たが迫力で言葉を忘れていたな。これが本物のヒーロー……。
そんなことを考えていると、ハシレッドこと紅希くんが、私の方へ寄って来た。
「ねーちゃんはこのエナジードリンク飲まねーのか? 力湧いてきてすげーぞ!」
「私はいいんだ。まだハシレンジャーじゃないからな。いつか変身した時に飲めたら嬉しいが」
「おー! そいつはいい夢だぜ! ねーちゃんも俺と一緒に干し肉食って力付けるか?」
「いいのか? なら私も紅希くんと一緒に干し肉パーティーに参加するとしようじゃないか!」
「おっしゃー! じゃあ今から後転で帰るぜ!」
「よ、よし、頑張ってみよう! あわよくば私も変身したいからな」
「ノらなくていいんですよ部長! そいつの言うことは無視してください! あと最後なんて言いました?」
橋田はあまり本気にしていないようだが、私がハシレンジャーになりたいのは本気だ。子どもの頃から戦隊ヒーローに憧れていたのもあるし、何よりハシレンジャーには橋田がいる。私がハシレンジャーになったら、橋田との距離も縮められるかもしれない。
……なんてな。こんなことを考えていたら、上司失格だ! 私は改めて今日撮れた素材を使って、我が社の広告を作らないとな! さあ仕事仕事!




