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異世界の我が家

人も立ち入らないような深い森の奥。庭に井戸と畑付きの二階建ての家がある。異世界らしく日本で見るような建物ではなくどこかファンタジーな温かみを感じる土壁と木の屋根…子供の頃に見た白雪姫だとか眠れる森の美女とか、そんな世界観に似合いそうな家。


 家の周りはぐるりと腰くらいの高さの木の柵が囲んでおり、それは結界の境目の目印。


 神様におねだりした二つ目がこの家。色々とオプションをつけてもらった家です。

 結界の境目と言うのは文字通り、この家を守る結界の範囲。私とチャタに敵意・害意あるものはこの結界内に立ち入ることは絶対にできない。最初に敵意なく入り込めても抱いた瞬間に結界の外にすぐさまポイっとさせられる防犯がついている。それがオプションその1。

 二階建て住居には地下もあり、そこは食糧庫になっている。この食糧庫には日本人が愛してやまない米・味噌・醤油をはじめとしたものがストックされており、しかも使ったら使った分まで永遠に無料補充される。食生活って本当大事だから。食に恵まれた日本人、食べ慣れた味を手放せないから。これがオプションその2。今日はさっき狩った猪肉をスキルの倉庫で熟成させて、豚丼にしよう。猪も豚の仲間だから豚丼でいい。


 他にもオプションはまだまだあるけど狩りでお腹が空いたので紹介はまた今度。


 使う食材だけを持って一階の台所に戻る。すでにチャタは居間のソファでゴロリと寝転び寛いでいた。今は小学生の子供くらい。大体120センチの猫がグゥーとソファの上で伸びる。真っ白い毛並みのお腹…猫吸いしていいよね?


「飯が先だっ。動いたから腹減ってんだぞ」

「はいはい」


 元々この猫、日本にいた時からなんでも食べる健啖家だった。チャタが向こうで生きていた頃はまだ動物の飼い方がすごく大雑把で、カリカリよりねこまんまをあげるなんて普通だったし、チーズやノリだって祖父の酒のつまみを横でもらって食べていた。外にも自由に出歩き虫やら鳥やら見事にハントして胃袋に収めている。二十年も経つと室内飼いが当たり前になって栄養バランスが整ったカリカリやウェットフードが主流になるとペット界も変化は激しいものだ。しかしここは異世界、チャタはもう普通の猫ではなく猫又なのでなんでも食べられる。なんとネギ類やチョコレートまで、人間と全く同じ物を食べられると神様のお墨付きだ。


「じゃあチャタ、私が作ってる間に畑に水撒きしてきて」

「…」

「チャーター?」

「チッ」

「あ、ついでにトマト二個くらいもいできて」

「わぁったよ」

 

 ソファで寛ぐ時間が至福なのはわかるが二人だけの家なので互いにお仕事はちゃんとしましょう。そうそう、オプションその3。庭の畑は地下の食糧庫にある種を蒔いたら早くて二日で芽吹いて花を咲かせて実をつける。二十日大根やもやしも真っ青になるスピードだ。だって食べたい時に食べたいじゃないか。土とかに影響はないのかと考えたがそこは神様がうまく調整してくれていることだろう。


 木製の冷蔵庫を開けて前日に採取していた野菜類も取り出しておく。スキル内で切り身にした肉の一部をさらに薄切りにして、手元でボウルに生姜に醤油、お酒に少しだけ蜂蜜を混ぜ合わせ調味液を作ると薄切りにした肉を取り出して漬け込んだ。あとはじっくり味がしみるのを待つだけ。


 それを待つ間にささっとお米を2合分洗って土鍋にセット。流石に炊飯器は用意されなかったが、土鍋でのお米の炊き方は祖母に習っていたので水の量の調整や炊く時間もちゃんとわかっている。


「ほら、トマト持ってきたぞ」

「ありがとう!」


 二足歩行で歩くチャタの頭は私の胸くらいの高さにある。私はぎゅっとチャタをお礼の言葉と共に抱きしめた。


「お前、このサイズ感で俺を兄じゃなくて弟と思ってねえか?」

「そんなことないよ。チャタ兄はチャタ兄です」

「どうだか…」


 そう言いながら逃げようとしないのは私の腕の中が好きだからだもんね。向こうで生きていた頃は本当に私が赤ん坊の時からずっとそばに居てくれた。大きくなって抱き上げられるようになってからはずっと私が重さに音をあげるまで抱っこされていた。チャタが私の腕から逃げたのって私の従弟がチャタに触ろうとした時くらいじゃない?相当苦手だったのか、急いで逃げようとして私の腕に爪立てていった。チャタに引っ掻かれたのは後にも先にもあの一回だけだ。


 受け取ったトマトを大きめのくし切りに。これタレで茶色くなった豚丼の上に載せると色がよく映えるんだよね。


 お米が炊けるまで私はソファでだらりと伸びるチャタをしっかり猫吸いした。


 

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