私の英雄
この世界にはスキルというものがある。
一人一人が違うスキルを持ち、スキルを持たない人間は例外なく存在しない。
これは教科書にも載っているこの世界の常識である。そう、例外は無いのだ。本来なら。
俺は幼少期にとある犯罪者に遭遇した。名前は正直覚えていない。ただ唯一くっきり覚えてることがある。
その男のスキルは一生のうちに一度だけ使用可能であり、「任意の相手の能力を消滅させる」というものだった。
幼少期の俺は何の因果か分からないがこれを受けてしまい、さらに左目を殴られて片目しか見えなくなった。
俺はそこからスキルを持たずに義眼で片目しか使えない不気味なやつとして学校でもいじめられる人生を生きてきた。
その立場は今の高校でも変わっていない。
「おはよー!キミは今日も暗いねぇ」
こいつは隣の席のカレン・シャーロット。スキルを持たない俺にも変わらずに接してくれる数少ない友人だ。
俺の名前はアイクだ。スキルを失った時から家と縁を切られたので苗字は無い。
「カレン、お前が元気すぎるんだろ」
「そう?にしてもキミは暗いと思うよ?」
「言っとけ言っとけ」
「なんてね!今日はスキル学科の実技試験だからね!元気にもなるよ」
「今日だっけか?じゃあ俺は見学にするかな」
「……あ、そうだった、ごめん」
「良いよ、お前に悪意がないことくらい分かってるさ」
俺はスキルを失っている。そんな俺がスキル学科なんかになぜ入ったのかというと先生の影響が大きい。家に縁を切られてからずっと親代わりとなって育ててくれた人がいる。その人はこの学園の教師でありスキル学科を担当している。
俺は少しでも成長した姿を見せたくてスキル学科を選んだが実技は何も出来ないので毎年クラス内順位は最下位。
何とかしようとは考えてるのだがずっとグダグダと毎日を過ごしている。
その日は試験を見学して1人で帰った。いつもならカレンが一緒に帰ろうと誘ってくるのだが、今日はバイトらしく先に帰られてしまった。
「1人で帰るってのもたまには悪く無いかもな」
そんなことを考えながらゆっくり歩いていると
「や!やめて!離して!」
聞き覚えのある声がする。これはカレンか?先に帰ったんじゃ?俺は急いで声の聞こえた方に行く。
声の主は路地裏にいた。バイトに向かう服装だったが、金髪のチャラそうな男が襲いかかっていた。
「だ、誰か、助けて!」
ナンパでもしていたのだろうか。断られたからって襲うだなんて弱い男だ。
「おい、お前、何してるんだ?」
「あ?誰だお前。俺はこれからお楽しみなんだよ!正義に駆られて命を落とす前にガキは消えるんだな!」
「ア、アイク?何で、こんなところに、いや、それより早く逃げて!キミじゃ勝てっこ無いよ!キミが殺されちゃう!」
あまりにも悲痛な叫びだ。ここまで想われていたとは思ってなかったな。少し嬉しい。
「ガキ!俺と戦うってのか?ん?アイク?お前さてはスキルを失った人間って噂のアイクか!」
「何でお前なんかが知ってるんだ?そんなこと」
男はニヤリと笑いながら
「中央都市のスキルを持たない者アイク、案外有名だぜ?」
俺の称号終わってるだろ。スキルを持たない者って、なりたくてなってないわ。
「まあ、お前みたいな雑魚一瞬で終わらせてやる」
「アイク!早く逃げて!お願い!」
俺はおもむろに額に手を当てた。そして左目を自ら抉り取った。
「はぁ?自分の目を取るってイカれてんのか?気でも狂ってんじゃねぇのか?」
「ア、アイク、何して」
そして持っていた義眼を付け替える。
ああ、やっぱりダメだな。この目は理性を抑えられそうにない。
「人を襲って命すらも取りかけたんだ。自分が受ける覚悟はあるよな?」
「は?」
俺は左目を見開く。
「消えろ」
俺は高速で移動して男の頭に拳を叩き込む。男は声を出す暇もなく吹っ飛んでいった。
今の一撃だけでどうやら意識が落ちたらしい。
「威勢だけだな、思っていたよりも雑魚だった」
そんなことを俺が言っているとしばらく間を置いて、
「ア、アイクなの?本当に?キミ、本当はスキルが使えたの⁉︎」
さて、どう言い訳するかな。
どもです、親の顔よりみた小指と申します。思いつきで一話を書きました。大英雄の大罪人が終わったら続きを書くと思います。よろしくお願いします。