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4話

とある夕暮れ時、帝国中部にあるヴァレンティナ公爵家の元に、重要な一通の書類が届けられた。


「何?ローザの情報が入っただと?」


今から約20年前、生まれたばかりの彼の娘が行方不明となる事件が起き、世間を驚かせた。


強者尊のハイバッハ帝国にて有力な貴族の地位に就いているということは、家門としてそれだけの実力を備えていることを意味している。

そのため公爵家のような大貴族にこのような犯罪を成功させた事例は過去をさかのぼってもあまりないことだった。

それも当然のことではある。

帝国の情報伝達スピードはかなり早く、何か大きな事件が起きればたちまち各地に情報が伝えられる。

もしいつまでも事件を解決できないでいると、他の家門からあの家門にはもう力がないと侮られてしまうため、それを避けるためにも権力や武力など、あらゆる力をもってして事件を解決させようとするからだ。


そのため、20年前にも起こったことをいまだに解決できていない今のヴァレンティナ公爵家は、周辺の貴族に利権を少しずつ切り取られて立場がかなり弱くなってしまっていた。


そのような状況の中での執事からの報告。


「はい。イリシア聖教国からの情報です。」


「聖教国?なぜ今頃になってあの国から連絡が来るんだ?」


「どうやら10年ほど前に闇組織の者を捕らえていたみたいで、その者たちがローザ様のことを話したとか。」


「つまりローザは生きているということか?」


「ええ」


「はは、やっぱり生きていたか……そうだと思っていた。もう娘は死んでいると考える人が多い中、私はどうしてもそう思えなかったんだ。それでローザはどこにいると?」


「捕らえた者の情報によると、彼らはローザと一緒にクレイドルの地下施設で生活していたそうです。」


「地下施設?クレイドルにそのような施設があるのか?」


「どうやらそのようです。」


「う~む……聖教国は他に何か言ってきているか?」


「聖教国から聖職者や騎士を派遣してクレイドルを調査したいそうです。」


「あそこは帝国魔道の中心であり特別な場所だぞ。関係者以外の者がおいそれと立ち入れる場所ではない。公爵の私ですら商談部屋にしか入れなかったくらいだ。」


「ですがその地下施設に神を否定する者たちが集っているとかで……」


「神を否定?……にわかには信じられんな。それはクレイドルが組織として神を信じていないみたいではないか。あそこの総責任者であるコーネリアス殿はイリス様の敬虔な信徒だったと思うが……」


「そうですね。そこは私も腑に落ちませんが。」


イリシア聖強国は聖女を最上位とした宗教国家であり、国民の大半が女神イリスを信仰している。


「我々が聖教国の者と一緒になってその地下施設に踏み込もうとしたとして、そのような隠された場所を見つけられなかったら逆にこちらの立場が悪くなってしまう。クレイドルに手荒な真似をしてその後彼らと仕事ができなくなってしまったら当家としては大損害だ。」


「コーネリアス様は理解のある方なので、ある程度は許してくれる気がしますが、他国の者も一緒となるとなかなか……」


「ヴァレンティナ公爵家の威光でなんとか押し通せると思うか?」


「無理ですね。もはや当家にそのような力はありません。もし無理やり調査しようとすれば、エヴァーハート家からはもちろんのこと、他の貴族からも苦情が来るでしょう。」


「うーむ……どうしたものか」


「帝国の総意としては聖教国の者がクレイドルに立ち入るというのは受け入れがたいことです。少なくとも陛下からの許可がないと難しいでしょう。イリス様を否定しているはっきりした証拠でもあれば話は別だと思いますが。」


「その辺りは聖教国に聞いてみるか。他にも何か策を練らねばな……」


「ええ」


「そういえば陛下は後継者選びに苦悩されているんだったな。ヴァレンティナ家としてはこれまで中立の立場を維持してきたわけだが、ここでクロイツ大公を支持すると伝えるのはどうだ?陛下としては自身の甥に一番継いでほしかったはずだ。」


「……良い案かと。クロイツ大公が帝位を望んでいるかは分かりませんが、有力な候補の一人であることに間違いはありません。ですので当家の意思を公にすることで陛下の歓心は買えると思います。それにそろそろ他の貴族たちも帝位継承を巡って自分たちの立場を決めるために色々と動く頃でしょう。」


「他に何か気になる点はあるか?」


「そうですね……聖教国の話が全て真実だと仮定した場合、クレイドルの地下には新しい闇組織が根を張っていたということになります。」


「そういうことになるな。」


「ですが問題はいつからそうなのか?ということです。クレイドルは設立されてからもう80年以上経っています。にも関わらず、今まで誰にも気付かれなかったということは、それだけ優れた実力のある何者かが闇組織側にいることになります。もし、金級並みの魔道士が地下にいて戦闘になった場合、こちらの者が全滅するかもしれません。」


執事の意見に驚いたヴァレンティナ公爵は、思わず大きな音を立てて唾を飲み込んだ。


「……確かにその通りだ。そうするとこちらも金級魔道士を調査メンバーに入れなければならないわけだが、私たちのために協力してくれる方がいるかというと……」


「難しいかもしれません……」


「そうだよな?金級魔道士ともなると特別な役職や立場についているし、何より忙しい御仁ばかりだ。」


「期待は薄いですが、帝国中部にいる方には一応協力を要請してみましょうか。」


「そうだな……そういえば、クレイドルと言えばアズマ殿がいるところではないか?」


「ん?……ああ、確かにシュトラウス家のアズマ様はクレイドルの所属でしたね。闇組織アポカリプスの首魁を討った実績からして彼の実力は間違いないでしょうが、彼が誰かと協力したという話は聞いたことがありません。」


「実力者には期待が薄くても協力を仰ぎたい。だから一応彼にも連絡しておいてくれるか?」


「承知しました。」


執事がオクタヴィアンにうやうやしく一礼する。


「近いうちに必ずローザを助け、そしてヴァレンティナ家としても早く以前のような威光を取り戻したいものだ。」


公爵は窓際に立ち、遠くの山並みに沈みゆく夕日を静かに見送った。


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