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第98話 告白シーンに統一性を持たせる意味、ある?

 私は自宅のリビングで頭を抱えていた。


 どうやら、恐ろしいことに、本当に柊木悠真は私に告白をしていたようなのだ。


 あの地獄の告白スチル再現イベントが起きてしまった翌日の朝、いつも通り柊木悠真と登校しようと顔を合わせたのだが、目が合った瞬間に頬を染めて目線を逸らされた。胃にダイレクトで衝撃が来た。


 お前の赤面が私の胃液を逆流させる。


 ヒロインとして転生しなくて良かった、と安心させてからのこの仕打ち、あまりにも酷すぎるのではないだろうか。


 これ以上のイベントを起こされてしまったら、うっかり胃に穴が開く気がする。


 私は己の胃の平和を守る為に、柊木悠真と距離を置こうとした……のだが、柊木悠真に子犬のように潤んだ瞳を向けられ、さらには他の攻略対象たちにも何かあったのかと心配されてしまい、流石の私も若干の罪悪感を抱いた。


 結果、柊木悠真と距離を置くという作戦は失敗に終わった。


 私にこれ以上どうしろというのか。


「ちぃちゃん、悩んでるね」


 当然のような顔をして我が家に入り込んでいる桐原陽太に声を掛けられ、私は顔を上げた。


「悠真と何かあった?」


 桐原陽太は、もともと妖怪と異なる性質を持っていた為に、同族からの爪はじきに会っていた攻略対象だ。その異なる性質というのが、光の能力だ。


 光の能力の持ち主は、他人の感情の機微を感覚で掴むことができるとされている。だからこそ、優しい人が多いらしい。


 桐原陽太も、その例に漏れない。


 つまり彼は……妖怪にしては優しすぎたということだ。


 人を脅かしたり、怖がらせたりといった妖怪の本能より、優しさが勝ってしまった。だから妖怪たちは、彼を理解できない生き物とみなし、自分たちのコミュニティから弾き出したのだ。


 桐原陽太は、心配ですと言わんばかりに眉を下げて、私の顔を覗き込んでくる。


 そのいかにも善人然とした表情を見ると、彼を異端の生き物とした自分の咎を思い起こして、胸が痛くなる。


「……ごめん」


 ほんと、軽率に村八分状態に遭わせてごめんな……。


 ちなみに、乙女ゲームにはヒロインが村八分に遭わされるゲームが実在するので、村八分に遭いたくなったらプレイするのをお勧めする。一ルートやるごとにメンタルがゴリゴリに削られるので、私は年単位で時間を置きながらプレイした。


「そんな、オレが勝手に心配しているだけだよ。……やっぱり、オレには話しづらい?」


 一瞬完全に意識が明後日の方向に飛んでいた。


 私は慌てて首を振る。


「……でも、言い辛いんだ?」


 攻略対象たちの感情を読み取る能力高くねえか? 蓮実玲児も本能でなんかいろいろ嗅ぎつけてくるし、怖いんだけど。


「ね、当ててもいいかな? ちぃちゃんが、何に悩んでいるか」

「……わかるの?」


 そこまで行くともう光の能力って何? って感じなんだけど。エスパーと変わりなくないか。もしかして光の能力ってエスパー能力のこと指してたのか?


 桐原陽太は、うっすらと口元に笑みをのせて、言った。


「告白されたんでしょ、ちぃちゃん」


 エスパーじゃん……。


 まさか自分が適当に決めた設定が、自分を刺しに来るとは思わなか……いや、いつも刺されてるからあんまり変わらなかったわ。ハハ。馬鹿野郎。


「どうして」

「どうしてって……そりゃ、わかるよ。何年一緒に過ごしてきたと思ってるの。わかるよ、さすがに」


 桐原陽太の言葉に、はっとする。


 そういえば、小学生の頃に出会ってから一緒に過ごしているのだから、もう十年近い付き合いになるのかと、そこで初めて気が付いたのだ。


「っていうか、やっぱり図星なんだね」

「あ……」

「ちぃちゃんは、表情こそ大きく変わらないけど、結構わかりやすいよね」


 そうだろうか。だとしたら、どうして柊木親子に私の本音が全く伝わらないのだろうか。


「悠真はさ、ちぃちゃんに恩があるんだって、ずっと言ってたよ」

「恩……」


 あの思い込み自己解釈スキル故のやつね。全然私何もしてないんだけどね。


「それはさ、オレもわかるよ。ほら、いつだったか、言ったでしょ。オレが抱えていた悩みを、何でもない事なんだって言ってくれたのが嬉しかったって。だから、ちぃちゃんに悩みがあるなら、何でも聞くって」


 ……そんなこと、言われたことが果たしてあっただろうか……?


 記憶の中を探ってみるが、該当するものがない。

 

 けれど、妙に真剣な表情をしている桐原陽太に、まさか知らないとは言えず、私は神妙な顔をして頷いた。


 黒歴史に耐えることに夢中になっていることが多すぎて、全然話を聞いていない時がままあるせいだろう。非常にまずい話だ。


「ちぃちゃんは、何を悩んでるの? 悠真のことが好きかどうかわからないとか、もしくは関係を崩したくなくて断りづらいとか、そういうこと? オレに何か、できることはあるのかな」


 誠実に私の力になろうとしてくれている桐原陽太に、申し訳なくなってくる。


 私なんて、キミらの話、多分六割くらいは聞いてないのに……。


「違う」

「じゃあ、何? 何が君を、そんなに悩ませているの?」


 この世界の存在かな……。


 かといってそのまま言ったら、中二病の発症を疑われておしまいだろう。ここは言葉を濁しておくに限る。


「私……ダメ、なの」


 キミらと恋愛するとか、それっぽい言葉を囁かれるのとか、もうそういう一切合切が本当に苦痛なんだけど、それを言い辛いの。


「駄目? 何が?」

「私が……私だから」


 キミらが私のある種の分身であること、とも言うね。


「……ちぃちゃんの言葉は、いつもちょっと難しいね」


 言えないことが多すぎてな! あと言いたくないことも多すぎるかな、アハハ。……はあ。


「でも、なんとなくわかったよ」


 お、流石は感情読み取り能力エスパー級! 私の不快な思いを読み取ってくれたのか。


「ちぃちゃんは、自分のことが、あんまり好きじゃないんだね」


 ……大体あってる気がしないでもない。 


 この世界を滅ぼしたいっていうのは、自分が作り上げたものを壊したいってことになるわけで。


 さらにいうと、キミらとの恋愛シーン勘弁っていうのは、鏡に映った自分と恋愛させられるみたいで勘弁って意味だからね。うん、大体あってる。


「でも、オレ達は本当に、キミに感謝していて……。世界の見え方を変えてくれたキミと、一緒に生きた時間を愛しているんだ」


 ……おい、やめろ。なんか急に桐原陽太のテーマ曲が流れてきているんですけど! 凄く嫌な予感がするんですけど!


 嫌な予感のせいで、凄まじく鳥肌が立っている。その鳥肌が立っている手を、桐原陽太は両手で包み込んだ。


「だから……今度はオレ達が、頑張る番だと思うんだ。君に貰った大切なものを、今度はオレが君に返していくから。思い知ってもらうしか、ないと思うんだよね。オレ達の、愛ってやつをさ」


 さ、寒い……! 愛ってやつを、さ。じゃないんだよ! 古いんだよな、なんか言葉のチョイスが!


 いや、私が前世で高校生だったころに作ったシナリオだから、仕方ないと言えば仕方ないんだけれども。


 っていうかどうしてわざわざスチル再現するわけ? 


 あとなんで私、告白シーンのスチル、みんな攻略対象のドアップにヒロインの体の一部を入れた画にしてんの? 過去の趣味? 


 統一性を持たせようとしているところが、逆に痛い。


 統一性持たせるならゲーム一本通してのシナリオの筋にしろよ。


「ちいちゃん?」


 アッ思考がトリップしていた!


 えーと、で、今何の話してたっけ。そうそう、告白シーンのスチルが無駄に統一性を持たせようとしててキモイって話を――。


 ん? 告白シーン?


 血の気が引いていく感覚がする。


 桐原陽太は、うっそりと微笑んで、人差し指を立てた。


「本当は、ちぃちゃんも混乱しちゃって可哀そうかなと思ってたんだけど……。遠慮するの、やめた。ちぃちゃんが自分こと好きじゃないって言うなら、キミの欠けた部分が埋まるように、全力で愛を注ぐことにするよ」


 そこで私は思い出した。桐原陽太のキャラクター設定が書かれているページに、走り書きで書かれていた言葉を。


『※基本いいやつだけど、意外といい性格してる』


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