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第90話 攻略対象は大抵仲良しグループか死ぬほど仲悪いかの二択。

「チッ……慧斗、お前、あんまチョーシに乗ンなよ。お前なンて、その気になりゃいつでもバラせる」

「ふん、やってみろ。俺には翠斗がいるからな。簡単にはやられない」


 蓮実玲児と水瀬慧斗の間に、火花が散る。


 おい、軽率に自分のもう一つの人格に丸投げしようとするなよ、水瀬慧斗。


 なんでこの人たち、人の家に来てわざわざ喧嘩してんだろうな……。私にはもうよくわからないよ。


 遠い目をしていると、軽やかな柊木悠真の笑い声が響いて、皆の視線が彼に集まった。


「くふふ……。やっぱり、みんな一緒だと、楽しいね!」


 柊木悠真の笑顔に、皆毒気を抜かれたらしい。しょうがないなというように、それぞれが取り出しかけていた矛を収めたようだ。


 ……おかしいんだよなあ!


 私は困惑していた。


 乙女ゲームの攻略対象というのは、基本的に何かしらの行動理念を共にした団体であることが多い。恐らくは、その方がストーリーを展開していくうえで、都合がよいからだろう。


 乙女ゲームの基本構造は、大きく分けて二つのシナリオからなる。共通ルートと呼ばれるシナリオと、個別ルートと呼ばれるシナリオだ。


 共通ルートは、その名の通り、どのシナリオを読むにしても、必ず通ることになるイベントである。


 攻略対象たちが皆同じイベントを体験しつつ、それぞれがそのイベントに対してどういうリアクションをとるのか、という部分で、少しずつ差別化されていく。


 そうして、「このキャラがこういう反応をするなんて!」とか「皆の前で見せていたのとは別の顔が出てきた!」とかいうことが起こり、個別ルートへの期待を高めていくわけである。


 共通ルートは、一人の攻略対象の攻略を終えると、八割がすでに読んだことのあるシナリオになる。その為、大抵の乙女ゲームにはスキップ機能が用意されている。


 同じシナリオを何周も読んでいくわけなので、乙女ゲームにはどうしても周回性が生まれるのだが、面白い作品だと、この周回性そのものを利用した話作りをしてくる場合もある。


 閑話休題。そうして、共通ルートが終わると、個別ルートに入っていくことになるわけだが……。


 こちらのシナリオは、攻略対象によって完全に異なる新規ストーリーだ。


 起こるイベントも勿論多種多様。他のルートでは想像もつかないような話の展開になり、共通ルートとは全く違った印象を、攻略対象に抱くようになることも多い。


 この共通ルートプラス個別ルートで構成されているという特徴によって、乙女ゲームにおける攻略対象は、同じ団体に属していることが多くなる。


 勿論、必ずしもそうではなく、二つ以上の異なる団体である場合もある。しかしそうすると、共通ルートを二つ、三つに増やしていく必要性ができ、結果制作にかかる労力が跳ね上がるわけだ。


 だから大抵の乙女ゲームの攻略対象は、同じ組織に属しているんだよね。


 そして、一から三つ程の団体に属している攻略対象たちは……仲が良いか、悪いかで大抵二分される。



 『ロストタイム』においても、このセオリーになぞって、攻略対象たちは全員強引に同じ部活の中にぶち込んだ。絶対に部活に参加してなさそうな蓮実玲児とかいう男もいたが、そんなことは知るかととにかくぶち込んだ。


 結果……まあ、想像してもらえると思うのだが、『ロストタイム』の攻略対象たちは、恐ろしく仲が悪い設定になった。


 個人的には、私は仲の良い攻略対象たちの方が好きなのだが、シナリオを描く才能がなさ過ぎて、気が付けば地獄のように仲が悪くなっていたのである。


 そもそも、他人に興味のないキャラが多かったし、ヒロインの叔父に強引に部活に入らされている側面もあって、月に一度絶対に欠席が許されない定例会議(とヒロインの叔父が名付けた……設定)以外では、お互いに顔も合わせなかったのだ。


 勿論、会えば空気は地獄。ヒロインが、誰に肩入れした発言をしていくかによって、ルートの分岐が発生するゲームだったのだ。


 それをどうして今、頼まれてもいないのにわざわざ柊木悠真の家に集まっているのだろうか……?


 私は虚ろな目をして、私が設定したのより若干仲の良い攻略対象たちの姿を見つめた。


 最初は、皆別々に私の家に強襲してきていた。けれど、その頻度が上がると、攻略対象同士が鉢合わせるようになった。当然のように勃発する喧嘩。なだめる私。削れる精神力。


 そしてそれが何度も続き、何度もぶつかり続けている間に……気が付けば彼らは、彼ら独自のコミュニティを形成していたのである。


 主に……柊木悠真を中心として。



 私が柊木悠真の家を強襲するようになったことを、他の攻略対象たちにバラしたのも、柊木悠真自身だ。


 なんでも彼が言うには、「フェアじゃない」らしいのだが、何が言いたいのか全く分からなかった。


 お前らもしかしてまだ喧嘩してたの? そのわりに情報共有はするってどういうこと?


 そして、その際うっかり私が柊木家の朝食を作っていることも、話してしまったらしい。


 せっかくなら俺たちの分も作れよと、わらわら柊木悠真の家に時折やってくる、謎の集団の出来上がりである。


 迷惑極まりない。柊木悠真は責任を取ってちゃんと世界を滅ぼすべき。


 そうして定期的にみんなで朝食を摂っていると、流石にこの攻略対象たちにも多少の仲間意識が生まれたようだ。特に、皆が集まるきっかけを作った柊木悠真には、わりと皆甘くなった。


 柊木悠真に友人っぽい存在ができるの、明らかに世界を滅ぼす妨げになる気がして泣いた。


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