第78話 軽率に誘拐するな。
やっほー、ご機嫌いかがかな?
ちょっと愚痴っても構わないだろうか。
社畜生活から自作乙女ゲーム世界に転生という、進むも地獄、戻るも地獄の生を送っていた私だけど、ついに攻略対象があと一人でコンプという終わりを迎えているよ。
どうしてなの?
家にいても地獄、外に出ても地獄。この世に救いはない。
攻略対象が増えれば、黒歴史のリプレイが増える。私は毎日心を疲弊していき、自室に閉じこもりがちになった。
けれど、やはり私は前世で大罪を犯したようである。
小学五年生の年の冬。学校からの帰り道、何やら前方に黒塗りの車が止まっており、そのすぐそばを小学生が通った時、車からおばさんが下りてきて、暴れる少年を車に押し込む姿を目撃してしまった。
ひ、ひえ~……誘拐じゃねえか……。
犯行現場を目撃してしまって驚愕していると、ふとおばさんがこちらを向き、ぎらつく目を怒らせ……うん、誘拐に巻き込まれましたよね。
思わず死んだ目になりながら、眠らされ、私のすぐ横に転がされている少年に目を向ける。
もうすでに察していたのだが、どう見ても攻略対象である。
百田七緒は可愛い担当の攻略対象だ。桃色の髪に、アイスグレーの瞳を持ったアイドルである。まあ、今は小学生だからまだアイドルじゃあないけれど。
百田七緒の最大の特徴は、くりっと大きな丸い瞳だ。顔のバランス大丈夫か? と不安になるほど大きく描いた。
真ん中分けの前髪に、少し長めの後ろ髪。この年齢の頃は、これといった手入れは特にしていないはずなのに、異様な艶がある。
唇は自然とアヒル口になっており、つやつやとしている。私は乾燥して唇が切れがちなので、羨ましい限り。
能力は確か瞳の色に出ているはずなので、氷……だったはずなのだが、いかんせん彼のルートではほとんど能力が出てこないため、記憶が曖昧だ。
百田七緒は、キュートな顔立ちとは裏腹に、アイドルとして女性に愛想を振りまく一方で、心の底では女性を嫌悪している男だ。
ルート概要はこうだ。
『ある日、学園に登校しようとすると、貴女は校門前で人がたむろしていることに気が付いた。どうやら、人気アイドルが学園に通っているらしく、今日は珍しく朝から登校しているようだ。
あまり興味をそそられなかった貴女は、人だかりを通り過ぎようとした。
しかしその時、貴女は熱狂的な空気の中で、誰かにぶつかり弾き飛ばされてしまった。
このままじゃ、倒れる……と思ったその時、誰かが貴女を受け止めてくれた。
「……っと、大丈夫? お姉さん」
振り返ると、そこにいたのは美青年だった……。
出会いをきっかけに、気軽に声をかけてくるようになった彼に、塩対応する貴女。そんな貴女に対する彼の態度は、どんどんと過激になっていき、やがて芸能活動の妨げにすらなっていく。
「どうしてそこまで私にこだわるんです?」
「だって証明しないといけないでしょ。女はみんな同じなんだって」
彼の瞳には、狂気の光が宿っていた。』
アイドルに興味のない人、ヒロインだけなわけないのに、芸能活動の妨げレベルの執着するのは流石におかしいだろ……! というか芸能活動で頻繁に学校休んでるんなら、普通は芸能科のある学校とかに行ってるものではないのか……?
いやもうわからない。わからないのに軽率にアイドル設定にしてるの愚かすぎる。もう自分に投げる石が足りない。
頭を抱えたいところだが、あいにくと手足を縛られているので動くこともままならない。
ちなみに現在進行形で誘拐事件に巻き込まれているが、これも私の考えたイベントである。馬鹿野郎。なんでこんなクソイベント作ったんだ。
百田七緒が女性に対して嫌悪の感情を持つようになる理由が、この誘拐事件なんだよね……! 安易にトラウマを植え付けようとして本当にすまないな……!
凄く手っ取り早く女嫌いになってもらおうとした、過去の脳みそ空っぽな自分を張り倒したい気持ちでいっぱいである。
作中では詳しく決めておらずぼかしたが、この誘拐によって百田七緒は「すごく怖い思い」をし、結果「女は醜く恐ろしいもの」だという固定観念をもつようになる。
アイドルをしているのも、容姿しか見ていない頭の悪い女から金を巻き上げるためだし、全ての女性を蔑視している。
ヒロイン相手にも物凄いモーションをかけてくるが、それに応えようものならバッドエンドに直行する。面倒くさい男である。
なんで自分からモーションかけておいて相手が好きになったら「やっぱり女なんか、皆同じだ」ってことになるのか、作者の私でもよくわかっていない。でも百田七緒がそう言うんだから仕方ない。
ちなみに攻略が上手くいくとメンヘラ化していくので、ルート終盤で選択肢を間違えると、目の前で死なれるエンドがある。
軽率に、死で自分の存在を永遠に刻みつけようとするの、やめろ。




