表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/76

第66話 神は言っている。乙女ゲームをやりなさいと。

 そんなこんなで懲役花火の時間が決定してしまったらしい。


 まあね、現代設定の乙女ゲームで花火は定番のイベントだからね。仕方ないね。


 いや仕方なくねーわ。なんで私が夏祭りイベントに巻き込まれなきゃならんのだ。


「花火って、綺麗なのかな?」


 絶望していると、勝手に人の手を握り込んでいる柊木悠真が瞳を輝かせて言った。


「ア? お前、花火見たことねェの?」

「うん、家から出してもらえなかったから」


 聞き流せなかったらしい蓮実玲児に尋ねられて、柊木悠真が頷く。


 当然のような顔をして答える姿を見て、蓮実玲児と水瀬彗斗が、何かを思案するように目を走らせた。


「俺も幼い頃に家族と見た以来だ」


 水瀬彗斗がこぼして、はっとした様子で口を押さえる。


 どうやら、意図せず口に出してしまった言葉だったらしい。


 柊木悠真はきょとりと目を丸くさせて、それからゆっくりと微笑んだ。


「そうなんだ。じゃあ、今日のことは良い思い出になるね」


 あまりにも穏やかな微笑みに、水瀬彗斗は毒気を抜かれたように「ああ」と頷いた。


「玲児くんは、花火よく見てたの?」

「あァ? まぁな。俺の場合、家にいる方がダルかったし……」

「そうなんだ。じゃあ、きっと今日見る花火が一番だね」

「なんでだよ」

「だって、今日はみんな一緒でしょう? こういうのは、誰と見るかが大事らしいから」

「……そういやお前、俺と友達になりてェとか言ってたな」

「うん。そう。友達みんなと見る花火。きっと、一生の思い出になるよ」


 蓮実玲児は柊木悠真の真意を探るように、その瞳をじっと見つめる。


 その視線を受けてもなお、柊木悠真は笑みを深めるばかりだ。


 なんか柊木悠真が良いこと言ってる感じになっているが、こちらとしては黒歴史に囲まれて見る花火は、悪い意味で記憶に刻まれそうなところである。


 あと、柊木悠真が光属性っぽい発言すると、ラスボスルートから逸れる不安で苦しくなるから、最悪の発言だけしてて欲しい。


 え? 今のお前の発言こそ最悪だって? それはそう。


「ほら、乙女ゲームでもたまにあるよね。お祭りに行って、花火を見るイベント」

「うん」


 間髪入れずに頷いたら、視線が私に集中した。


 なんだよ。こちとらできれば乙女ゲームの話だけして生きていきたいと思っている乙女ゲーマーだぞ。話題が出たら食いつくに決まってるだろうが。


「なんだ、その、乙女ゲームというのは」


 怪訝そうな顔をした水瀬彗斗が言う。


 ここ(この世界)だが?


 乙女ゲームの世界の住人が、乙女ゲームを知らないとは言語道断である。仕方ない。私が乙女ゲームのなんたるかを教えてやるしかないだろう。


「千代ちゃんの大好きなゲームだよ! 僕もよくやるんだ」


 鼻息荒く乙女ゲームを語ろうとしたところで、柊木悠真に先を越されてしまった。


「色んな世界観の中で、恋愛する男女のストーリーが見られるゲームなんだけど、物によって全然お話が違って面白いよ。主人公の女の子視点で話が進んで、何人かの男の子とそれぞれの恋愛模様が見られるんだ」


 しかしその説明が中々に良かったので、私は後方腕組みオタクとしてうんうんと頷くに留まった。


 素晴らしい。素晴らしい成長を遂げているな、柊木悠真。さすが我が分身。


「なんだそりゃ、つまんなそうだな」


 顔を顰めた蓮実玲児が、心底どうでも良さそうに吐き捨てた。


 こいつ……己の存在意義をなんだと思っている……?


 思わず恐れ慄いてしまったが、本人は自分が乙女ゲームの攻略対象なのだという現実を知らないのだ。仕方ない。


 仕方ない……わけなくない?


 私の手で生み出した存在が、乙女ゲームの存在を否定して良いわけなくない?


 割と暴論を吐いている自覚はあるが、私はこの世界の(創造主)である。


 暴論くらい吐く。(開き直り)


 そんな私の怨念のこもった視線に気がついたのか、蓮実玲児はチラリとこちらに視線を向けて、ビクリと小さく肩を震わせた。


「な、なんだよ……お前、すげェ目してんな」


 ダダ漏れだったらしい。


「当たり前だよ、玲児くん! 千代ちゃんがどれだけ乙女ゲームを愛しているのか知らないの?」


 ひしりと私を抱き込みながら、柊木悠真が言う。


 どさくさに紛れて近えよ。


 必死に押しのけようとする私をものともせず、柊木悠真が言う。


「千代ちゃんはね……乙女ゲームの話題になると、よく喋る!」

「千代が、よく喋るだと!?」

「そしてよく笑う!」

「笑う!? こいつそんなに表情筋動くのか!?」

「そして……ふふ。乙女ゲームの話をしている千代ちゃんは、幸せそうで、可愛い」


 こいつらよくもまあ人を好き勝手言いやがるもんである。


 私はいつだってよく喋ってるし笑ってるだろ。


 いやごめん、嘘かも。よく喋ってるのは心の中で出し、自認が笑顔でも、多分微妙に口角上がってる程度かも。


「だから乙女ゲームって、最高なんだ……!」


 あまりの罵倒のされっぷりにあんまりよく聞いていなかったから前後の繋がりがよくわからないが、ああ! とにかく乙女ゲームは最高だぜ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ