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第65話 自分が一番の親友です☆

 私が暴力に想いを馳せている間に、なんだか知らないがことは収束していたらしい。


 何もしていないのに面倒ごとが片付いているだなんて、素晴らしい話だね。(現実逃避)


 え? なんでそんな遠い目をしているのかって? それはね……。私が今現在、地獄の底にいるからだよ。


「千代ちゃん……千代ちゃんと花火が見られるなんて、ボク、夢みたいだよ……」


 柊木悠真に左腕を捕獲され、極至近距離で囁かれる。


 鳥肌。


 ちっけーよ! お前のパーソナルスペースどうなってんだよ! いくら乙女ゲームのキャラクターとして生み出されたからって限度があるだろ!


 ……あるよね? あるよなあ?


 やばい、心の奥底で推しカプは永遠にくっ付いていればいいと呪いをかけている可能性を全く否定できない。だとしたらこいつの対人距離の近さも自分のせいな可能性があるってこと?


 そんなのってないよ……。


「バカ、近ェよ」


 私が死んだ目でろくに抵抗も出来ずにいると、右側の蓮実玲児が腕を引っ張ってきて、柊木悠真と引きはがしてくれた。


 偶にはいいこともするんだな。


「そうだぞ、お前は千代にもう少し遠慮しろ。婦女子相手なのだぞ」

「婦女子ィ? ガキが使う言葉かよ……。お前もどっか変な奴だな」

「なっ! 俺のどこが変だと言うのだ! というか、人には距離が近いと注意しておいて、お前だって千代との距離が近いではないか! もっと離れろ」

「はァ? コイツは別に文句言ってねェだろ」

「それを言うならアイツに腕を組まれていた時だって千代自身は何も言っていなかっただろうが」


 あのすみません……。普通に人を巻き込んで喧嘩始めるのやめてもらっていいですか……。


 っていうか蓮実玲児も近いんだよ。人の頭に顎を乗せるな。馬鹿にしてんのか?

チビを。


 とりあえず頭を振りまくって蓮実玲児の顎の下から脱出する。


 馬鹿め! 顎をぶつけたな!


 ちょっといい気味だと思っていたら、天罰かのように再び柊木悠真に左手を捕獲された。なんでだよ。


「まあまあ、二人とも。あんまり喧嘩しないでよ。ね、千代ちゃん、喧嘩されるの嫌いだもんね」


 げんなりしていたが、喧嘩を仲裁してくれると言うのならありがたい話だ。


 激しく頷くと、少し気まずそうに黙り込む水瀬慧斗。舌打ちをこぼす蓮実玲児。


 すーぐ舌打ちするのやめなさい。お母さん怒るよ。


「ただでさえ喧嘩騒動に巻き込まれて、可哀想なのに……。さらに喧嘩しようって言うなら、千代ちゃんが許してもボクは許せないよ……。仲良くできないなら、花火は千代ちゃんと二人で見るから」


 いや私も許していないんだが……。


 というか決定権お前にあるの? まじ? 何様? 柊木悠真ラスボス様か……。


「はァ? さっきから黙って聞いてりゃ、てめェ何様だァ?」

 

 さっきの柊木悠真の力を見せつけられても尚、つっかかっていけるの凄くない?


 賢いと思ったの撤回して良いか?


「ボクは千代ちゃんの一番の仲良しだよ? ね、千代ちゃん? そうだよね?」


 薄く微笑んだ柊木悠真に顔を覗き込まれる。


 だから近えよ!


 ……で、えー、なんの話だっけ? 柊木悠真と私が一番の仲良し……? 果たして、そうだっただろうか……?


 そんなつもりは毛頭ない。何故なら彼らは私の分身のようなもので、柊木悠真となかよぴです☆ なんてことを言ったら、それは自分の一番の友達は自分です☆ みたいな可哀想な人間ということになるわけで……。


 流石にそれはご遠慮したいところである。


 だがしかし、私は柊木悠真に取り入らねばならぬというのもまた悲しき事実。


 柊木悠真が一番の仲良しだと言うのなら、そっすねー流石っすーと持ち上げて、良い感じのポジションを確保するべきなのだ。


 つまり私の返事は最初から決まっていた。


「うん……! 勿論……!」


 哀れな人間との誹りをうけようとも、私はこの世界を滅ぼすためなら、胸を張って俺自身が親友だぜ! と嘯こう。


 そんな私の悲壮な決意が伝わったのかどうかはわからないが、場が静寂に包まれた。


「千代ちゃん……。嬉しい……」


 柊木悠真が頬を染めて、勝手に掴んでいる私の手の甲に、そっと頬を摺り寄せる。


 あ、乙女ゲームのスチルで見たことある気がする。


 じゃねーよ。人の手に勝手に色々するな。


 頑張って左手を救出しようとしていると、大変悲しいことに聞きなれ始めてしまった蓮実玲児の舌打ちが聞こえてきた。


「チッ! わぁったよ。喧嘩しねーよ、少なくとも今日のうちは」

「ああ、俺も約束しよう」


 なんか不穏な付け足しがあった気がするが、まあ今日のことろはそれでいいだろう。恥ずかしいからね、こんな祭りの会場で喧嘩続ける人間を連れて歩くの。


「わあ、良かった! 二人ならわかってくれると思ってたんだ!」


 柊木悠真は嬉しそうに笑い、こちらを振り向いてウインクをした。


 なんか知らんが、柊木悠真の思惑通りに進んでいるらしい。ラスボスっぽくていい挙動なんじゃないか。うん。


 

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