第63話 なんかもういいから暴力で解決しよう。
「悠真!」
思わず声が弾んだのが分かった。
最強兵器きた! これで勝つる! 力こそパワー!
「良かった、会えて」
駆け寄って来た柊木悠真のはにかみ顔を見て、私は乱闘騒ぎの起きてる方向を確認し――。
増えてる――。
ガラの悪い兄さんたちが増殖していた。というか、騒ぎの規模がでかくなっているせいで、かなり人気が減っていた。
すまない、祭りを台無しにしてしまって……。
「わあ、なんだか凄いことになってるね」
「悠真……」
「千代ちゃんには怪我はない?」
言葉と共に頬を掴まれ、顔をあげさせられる。
至近距離に覗き込む瞳を前にして、私は冷汗が背中を流れ落ちるのを感じた。
下手をすれば首を折られるところである。
怖い……! こいつ、自覚ないけど大分怪力なんだよ。
「私は……怪我、してない。けど……」
「けど? って、あれ? あれってもしかして、玲児くんと慧斗くん?」
私の視線の先を追った柊木悠真が、二人の存在に気が付いた。
「あはは、なるほど。千代ちゃんは、二人のことを心配してたんだ。……いいなあ」
そんな悠長なことを言っている暇はないのである。
子供に頼むのは気が引けるが、しかし柊木悠真にはラスボスになってもらわなければならない。力をもって力を制すことを学んでもらわなければ。
「……あの」
どうにかしてくれ、と口を開くより先に、どさりと音がして、すぐ近くに人が倒れこんできた。
「ひい……!」
思わず引き攣った声を上げる。
「……千代ちゃんを怖がらせるなんて、ダメなことだよね」
「ゆ、悠真……!」
何とかしてくれそうな発言に、私は瞳を輝かせた。
ここはラスボス的にも、暴力で解決しよう! そうしてくれるよな!
しかし、そんな私の気持ちを知らずに、柊木悠真は微笑む。
「ボク、頑張ってお話合いしてくるね!」
いや、いいから全部暴力で解決しよう。
そう語りかけるより先に、柊木悠真は騒動の中心へと駆けて行った。
そうして、喧騒の中果敢にガラの悪い兄さん達や蓮実玲児に声をかけていくが、おそらくまともに相手をされていない。手を止めることもなく、怒鳴り散らされている。
って、あれ? 帰って来たな……。というか、泣いてない?
戻ってきた柊木悠真の瞳には、涙が浮かんでいた。
泣かされて帰って来たの? 将来のラスボスが? ……これ、ちゃんと世界滅びるんですかね……?
まったく順調じゃない成長を遂げている姿を見ると、不安がこみ上げてくるが、それはそれとしてまずはこの場の収束を図る必要がある。
「悠真、大丈夫……?」
「ち、千代ちゃん……ごめんね。僕、力になれなくて……」
いや、むしろすまねえ。いくらお前が将来のラスボスとはいえ、ガキに乱闘の場をなんとかしてもらおうとしているの、流石に情けなさすぎて泣けてくるよな。
「ううん……。私が、なんとか、する……」
ここは任せてくれ。
まあ、やることと言えば警察に電話するだけなんだけど。
「……千代ちゃんが?」
驚いたのか、目を見開いた柊木悠真が、確認するように言う。
おう、任せてくれ。大人としてクレバーな通報を見せてやるよ。
胸を張って頷くと、何故か柊木悠真がうつむいた。
一体どうしたんだ。
よく見ると、その肩が小さく揺れている。
……はっ! もしかして私の唯一の抵抗手段が通報だということを、馬鹿にしているのだろうか。
馬鹿野郎。こんな貧弱ボディの人間が他に何ができるっていうんだ。いいか、人間には向き不向きがあり、できることとできないことがある。大事なのは自分の力量を見誤らないことだ。
そんな気持ちを込めて、柊木悠真の肩をポンと叩く。
柊木悠真はピクリとして顔をあげ、何かを決意するように頷いた。
「……ねえ、千代ちゃん。乙女ゲームだったらさ」
「え?」
何故今乙女ゲームの話を……?
「大切な人を守る為だったら、戦うものだよね」
「う、うん……」
だがまあしかし、それはそうだ。
愛する人の為、そして己の信じる者の為、戦う乙女ゲームっていっぱいあるからね。
戸惑いつつも頷いて見せると、柊木悠真はにっこりと笑った。
「じゃあ僕も、戦わなくちゃね!」
なんかよくわからんけど、いいと思う!