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第59話 んなもん勝手にしてくれ。

「あれ、千代ちゃん。今日はかくれんぼ?」


 あっさりと本日の追加侵入者、もとい、柊木悠真に見つかってしまった。


 流石に見つかってしまったからには隠れ続けるわけにもいかず、私はすごすごとクローゼットからの撤退を余儀なくされた。


「というか、てめェまた来やがったのか」

「あはは、それはどちらかというと、僕のセリフじゃないかなあ? 君より僕の方がずっと、千代ちゃんとの付き合いだって長いわけだし」

「ア?」


 私が落ち込んでいる間に、何やら不穏な空気がただよい始めていた。というか、覚えがある展開すぎる。もしかして、学習能力無さすぎ……?


「嫌だな、そんなに警戒しないでよ。前も言ったけど、千代ちゃんの友達なら、僕の友達でもあると思ってるんだ。改めまして、僕は柊木悠真。千代ちゃんとは、幼稚園の頃からずっと仲良しなんだ。ね、千代ちゃん?」


 言いながら、柊木悠真に背後から首元に腕を回されて、引き寄せられる。


 首……!


 私は咄嗟に首を後ろに倒すことで、首を極められる危機から見事脱した。あぶなすぎるだろ、こいつ。


 しかし首への衝撃を避けたせいで、柊木悠真の胸元に頭の後ろを強かに打ち付けてしまった。痛い。私が痛がっているのにどうしてこいつは平気そうなんだ……? これが、フィジカル格差というやつなのか……?


「……で、お前は何が言いてェわけ?」

「あはは、さっきから言ってるじゃない。僕とも仲良くしようよ」

「はァ? 寝言は寝てから言えよ」

「え〜……? 寝言じゃないから、起きててもいいでしょう?」


 そして気がついたらものっすごい一色即発の空気なんですけど。何……?


 私のことを巻き込まないでもらっていいか?


 普通に気まずくなっていると、空気が読めないのか、はたまた読む気がないのか。柊木悠真はなんのプレッシャーも感じて無さそうな素振りで口を開いた。


「それより僕、聞こえちゃったんだけど」

「なんだよ」

「水瀬彗斗くんのことを探しているんだよね?」


 その言葉を境に、明確に空気が変わったのがわかった。それまでは、明らかに拒絶と無関心が見えた蓮実玲児から、探るような、面白がるような空気が伝わってきた。


あたかも、始めて自分の前に人間が立っていることに気がついたような、そんな不思議な目つきをしている。


 片眉を持ち上げながら、蓮実玲児が尋ねる。


「何、お前。なんか知ってるワケェ?」

「うん、もちろん。君のことを知っていたみたいに、彼のことも知っているよ」

「えっ?」


 この「えっ?」はもちろん私の声だ。だってそんなの初耳だもの。


 蓮実玲児と柊木悠真には偶然の邂逅から面識ができてしまったことは知っていた。だってその場に私もいたしね。


 けれど、水瀬彗斗に関してはその限りではない。その上、柊木悠真の情報源になりそうな桐原陽太とも、接触はなかったはずなのだ。


 だというのに、一体どこで水瀬慧斗のことを知ったと言うのだろうか。


 私がこぼした疑問の声に、柊木悠真の瞳がちらりとこちらを見て、何故かにこりと笑った。


 なんで笑ってるのか全く分からなくて怖い。


「ボク……千代ちゃんのことが大好きだから……。ね?」


 ね? じゃないが?


 そして何の説明にもなっていないんだが?


 全身に鳥肌が立つのを感じながら、私はそっと目を逸らした。


 知りたくない、何も。


「何が目的だ?」


 私の疑問など意にも介さず、蓮実玲児が瞳を尖らせる。


「もう、さっきから何度も言ってるのに。君と仲良くしたいんだよ」

「……つまり、お前は好意から俺に情報を渡そうとしている。何故なら俺と仲良くしたいから、って、そう言いてえワケェ?」

「なんだ、わかってるんじゃない」


 柊木悠真は笑みを崩さなかった。その笑顔を前にして、蓮実玲児はしばらく黙り込んでいたが、数拍置いて、突然笑い声をあげた。


「変な奴。いいぜェ? お前がどうしてもってんなら、仲良くしてやっても」

「本当⁉︎ わあ、嬉しいなあ! どうしても! どうしても、仲良くしたい!」


 どういう思考の果てかはわからないが、態度を軟化させた蓮実玲児を前にして、柊木悠真は勢い込んで言い募る。


「近ェよ」

「うん、ごめんね?」


 なんかいい感じに話がまとまりかけているのはいいのだが、圧倒的に置いて行かれている。


 つまりはどういうことなんだ? 仲良くしようね、オッケーってこと?


 私の知ってる友達のなり方とはだいぶ違うけれど、まあ、こいつら普通じゃないし、そんなもんなのかな。


 私は一人納得し、勝手にしてくれと、ゲーム機を取り出すのだった。

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