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第57話 家でエンカウントするのやめて。

 水瀬慧斗に「秘密を誰かに話されたら困る。定期的に口止めしないと」なんて言われて強制的に会う約束を取り付けられはや数か月。何度かバックレようとしたら、普通に家に来られるようになってて泣いてしまった。


 なんであいつらみんなすぐに家に来るんだよ。誰だよ私の個人情報ばら撒いてる奴。


 しかしそんなことを嘆いていても、現状は何も変わらないのである。


 蓮実玲児の強襲を受けた日、水瀬慧斗も我が家にやってきやがった。ダブルブッキングというやつである。いや、どちらとも約束してないけど。


「なンだ、テメェ」


 私のベッドを占領し、何故か部屋にあった漫画を勝手に読んでいる蓮実玲児が、威嚇するように言う。


 いつも思うんだけど、仮にも女子のベッドに勝手に寝転がるのやめてもらえるか? あと、遊びに来るくせに特に一緒に何をやるでもなく、各々好きなことやってることが多いんだけど、お前何しに家に来てんの?


 水瀬慧斗は、不愉快そうに眉根を寄せる。


「貴様こそ何者だ」

「ア?」


 蓮実玲児、ありとあらゆる人間の初対面で「ア?」って言うのやめてくれない? それ、誰が相手だとしても確実に選択肢ミスってるよ。


 しかし、容易に一触即発の空気を作り出されても、困るのは私なのである。


「友達……ふたりとも」

「友達ィ?」

「こんな野蛮そうな人間がか?」

「ア?」


 驚いたように目を見開いた水瀬慧斗の言葉に、蓮実玲児が目を細めた。


 おい、なんでお前も速攻選択肢ミスってんだよ。今のは攻略サイト見なくても正解できた選択肢だっただろ。


 でも蓮実玲児の柄が悪いというのは最も意見なので、私はこくりと頷いた。


「千代、テメェな……。それにお前も、いい度胸じゃねェか」


 この展開、身に覚えがありすぎる。


「慧斗……!」


 避けて、と言うより先に、蓮実玲児の拳が水瀬慧斗の腹に叩き込まれる。水瀬慧斗の体が宙を舞って、勢いよく地面にたたきつけられた。


 蓮実玲児の起こすイベントが、暴力一辺倒と言うのが、「やべえ男=暴力」という貧困な発想しか出てこない私の悲しき脳みそを揶揄されているようで、辛い。


 というか、人様の部屋で暴れるの、私に何か恨みでもあるのか? ……あるか。あらゆるものごとの原因、私だしな。


 私が悲しみを湛えた視線を向けると、蓮実玲児はなにやら口をもごもごとさせると、ふいとそっぽを向いてしまった。


「……ってえな」


 水瀬慧斗……いや、翠斗が、腹を抱えながら立ち上がる。


 その瞳には、危うい光が灯っている。


 こ、このままでは、私の部屋が、半壊の危機――!


 恐れた私が、二人の間に体を滑り込ませると、水瀬翠斗が皮肉気に笑った。


「別に、ここじゃ暴れねえよ。おい、おまえ、外出ろよ」


 外に出たところで、家のすぐそばに暴れられれば、迷惑なのだが。


 しかし、予想に反して、蓮実玲児はその呼びかけには応じなかった。それどころか、ゆらゆらと揺れる瞳に翠人を写しながら、表情の抜け落ちた顔で、尋ねる。


「……お前、誰だ? さっきまでのやつは、どこに行った?」


 水瀬翠斗は、一瞬呆けた顔をした後、弾かれたように笑い始めた。


「なんだ、こいつ。脳みそ入ってねえのかと思ったら、すぐに気づきやがった。おい、お前、どうして気付いた?」

「ア? わかるに決まってンだろうが」

「だから、それがどうしてか聞いてるんだよ」

「……目だ」

「目?」


 存外素直に答えた蓮実玲児に、水瀬翠斗は不思議そうに首を傾げる。


「獣の目だ。人をヤッちまいたくて、仕方ねェ目。……俺と同じ目だ」


 蓮実玲児の言葉に、水瀬翠斗がこらえきれないとでもいうように、大声で笑う。

 そして、首を傾げると、囁くような小さな声で、言った。


「なら、慧斗はお前と一緒だな。自分の内側に、獣を飼ってる。おんなじだって言うなら、せいぜい仲良くしてやんな」


 次の瞬間には、蓮実翠斗の体が頽れ、その場に倒れ伏す。


 私は慌てて駆け寄って、その顔を確認する。


 顔色は悪くない。……恐らくは、翠斗から慧斗に変わる際、意識を失う設定のせいだろう。


 安堵の息を吐いた私の横で、蓮実玲児が黙り込んだまま、水瀬慧斗の顔を見つめている。


 その顔には珍しく、好奇心のようなものが見えた気がした。

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