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第4話 セオリー、それはこの世の希望。

 おっす、オラ千代! 理由はわからねえが、気が付けば自作乙女ゲームの世界に転生してしまっていた!


 好きな作品ならいざ知らず、ど素人の過去作品なんて悲惨さしか感じられない世界に転生してしまって、さあ大変!


 目の前に常に黒歴史が転がっている現状に耐えかねて、舌でも噛み切っちゃおうかな~! なんて思っていたその時、私は天啓を受けたように思いついたんだ。


 そうだ、この世界ごと黒歴史を消しちゃおう!




 ……時に、恋愛を盛り上げるために必要なものって、なんだと思うだろうか。


 ドラマティックな恋愛模様を仕立て上げる為には、()()()()がいる。そして、乙女ゲームにおけるスパイスは……()()()()()()()()のだ。


 例えば……柊木悠真のルートからの台詞の引用をしてみる。


『ボクは君に出会ったことで、初めてこの世界に生まれてきた意味を知った。初めて、自分の人生に喜びを見出すことができた。だから……ボクの手を取って』

『どうして、この世界に生まれた喜びを知れたと言いながら、他の人々の喜びを消してしまおうとするの? 貴方の手を取れば、この世界は終わってしまう! そんなことは、許されない!』


 こんな調子である。


 つまり――そう、その()()()()こそが、()()()()()、なのである。


 だって、世界を壊しちゃう系攻略対象とか、主人公を手に入れるために軍を動かしてくる攻略対象とか、数千年の時を待ち続ける攻略対象とか。クソでか感情をぶつけてくる男なんて、ザラだし!

 

 当然、攻略対象の想いの重さに比例して、主人公たちに降りかかる困難も重みを増すものだ。すなわち、世界の危機。うーん、やっぱりセオリーに沿うのは良いものだよね。


 クソみたいなゲームを生み出した過去の自分に言いたいことは山ほどあるが、乙女ゲーあるあるネタとして世界の危機を仕込んでくれたことには、心の底からお礼を言いたい。


 おかげで、この世界を滅ぼせるよ。


 勿論、世界を滅ぼしたら私の人生もそこまでだけれど、生き恥が公開され続けている世界で生きながらえるくらいなら、潔く死んだ方がまだましである。


 お前、自分が今生きている世界の住人たちを殺すことに、抵抗はないのかと言われそうなものだ。けれど、私が直接手を下すわけでもないし、正直言って、この世界を創造した人間としての傲慢さも私の中にあると思う。


 あと、モブの立ち絵の目のあたりを黒く塗って、使いまわそうとしていた影響だろうか。柊木悠真(攻略対象)と関わると周囲の人間の目元が急に黒くなって顔が消える現象が起こるのだ。


 しかもその状態で普通に喋り出す。


「やっぱりゆうまくん、こわいよー!」


 とか言いながら、顔面にあたる部分が真っ黒になって、のっぺらぼうになるのである。アンタの方が怖い。怖すぎて、彼らを人間として認識できない。っていうか絶対人間じゃないでしょ。


 こんなよくわからない生命体(?)として生んでしまった責任も取るべきだろう。頼む、私と一緒に死んでくれ。全てを原初に……無に帰そう。


 私は決意を固くした。


 そんな私の決意など知らずに、今日も柊木悠真はぼっちでお絵描きをしている。自分が監視されているとも知らずに、なんとも能天気なものだ。


 素晴らしい。それでこそ()()にふさわしいぼっち加減である。


 え? 黒幕? 何の話かって?  ……ふむ。


 乙女ゲームには、公式が開示している「推奨攻略順」というものが存在している。基本的には、好きな男から攻略して良いものであるとされているが、少しシナリオが凝ったものや、全てのルートを通ることを前提としてシナリオが作られているものなどは、「攻略制限」がかけられているものも多いのだ。


「攻略制限」というのは、その名の通り、キャラクターのルートをプレイするために条件が付けられ、プレイできるルートが制限されるというものだ。攻略制限が付けられるルートは、大抵大団円に近いルート、もしくは物語全体の真相に迫るルートである。


 そのキャラクター以外のルートをすべてプレイしなければルートが開かない、というガチガチの攻略制限もあれば、とあるキャラクターを攻略すればルートが開く、という簡単な攻略制限もある。これに関しては、それぞれのゲームにおいての、そのキャラクターの重要度によるだろう。


 話が逸れた。私が作ったこのゲーム……『ロストタイム』においては、攻略制限までは設けなかったものの、推奨攻略順は存在していた。世界を脅かすのは、その最終攻略推奨の男だというわけだ。そして、その最終攻略推奨の男こそが、柊木悠真なのだ。


 私が希望を抱いたのは、彼のルートにおけるエンドのいくつか……というか、彼の持っている能力だ。

 その名も、闇の力(笑)である。


 乙女ゲームの攻略対象というのは、基本的にスペックが高い。顔の良さもそのスペックのウチに含まれることが多いが、絶対の条件というわけではない。攻略対象の中でも、誰の顔が良いとか、誰がモテないとかいう話になることもある。しかし、イラストでは誰の顔が特に良いとか言われても良くわからん、というのが正直な話だ。それに、結局一番重要なのは、プレイヤーの好みである。


 つまり、そう……攻略対象で重要なのは……属性!


 乙女ゲームのグッズは、色分けが明確だ。これは、乙女ゲームに限った話ではないが、それぞれのキャラクターごとに、担当カラー……というか、イメージカラーが最初から決まっているのだ。例えば、赤なら王道主人公キャラ、青ならクールなキャラや知的なキャラ……ということが多いが、必ずしもそうとは限らないというのが難しいところだ。


 だが、紫担当のキャラは、特殊な立ち位置のキャラクターであることが多い……気がする。ミステリアスな印象を抱きやすいせいか、真相に近いキャラが背負いがちなカラーなのだ。


 当然、最後に攻略することを推奨されている、柊木悠真の担当カラーは紫である。紫だから、持っている能力は闇の力(笑)。うーん、安直である。とにかく、闇の力(笑)はなんか知らんが世界を滅ぼせるほどの、強大な能力なのだ。わけわかんねーよ、ふわふわした設定つけやがって。プレイヤー舐めてんのか。


 まあ、つまりは、柊木悠真は攻略対象であると同時に、物語のラスボス的な位置を担っている存在なのである。乙女ゲームでよくある攻略できるタイプの敵だ。乙女ゲーマーって、敵対している男を攻略する展開、好きだよね。(※個人の見解です)



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